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第32章 世那の誕生日とセイラの不安ってアリですか?

「だああああ……」


 大学の講義室から出て俺は詰めてた息を吐きだした。時は2040年1月の中頃、俺のたった今出てきた教室の中では今なおテストに格闘している生徒が多数だ。

 なんで俺はそんな教室を抜け出してきたか、その回答は簡単だった。


「終わった……」


 俺は勢いよく両腕を天に向けるのだった。そう、終わったのだ。3年後期のテストが、全て!しかも張ったヤマカンがいい感じに的中し、これは後期のGPAも期待できそうだ、という具合だった。これはこの後喜びのCSに行くか、もしくは美味しいラーメンでも食べに行くか、そんな具合に俺はかなり気をよくしていた。


「あ、そうだ」


 俺はテスト以外のもう一つの大事な項目、レポートの提出を思い出し、1階にあるレポート提出ボックスまで歩いていく。そうして、レポート提出ボックスにレポートを無事に投函し、これで晴れて自由の身———しばらく大学の用事とはおさらば!VTuber業とカードゲーマー業に打ち込んでやるぜ!そんな気分で大学を出ようとした時だった。


「はーやと」

「お?」


 足取り軽く大学を出ようとしたのを足を止める。そして、声の方向を見れば———。


「お、世那。俺より先に退室してたからもう帰ったものだと思ってたわ」

「残念~~~、印刷前にレポートの最終チェックして今出し終えたところ。ね、隼人はこの後暇?」

「この後?まあ、予定らしい予定は詰まってねーが……」


 CSもラーメンもその場当たりな予定でしかない。故に予定はあるっちゃあるし、ないっちゃない。俺が何を優先するかに委ねられている感じだ。


「じゃあ、私と一緒にデートに行かない?」

「デートォ?世那と?」

「なに~?すーちゃんとはデートして私とはデートしてくれないの?」

「いや、鈴羽とのアレもデートではないが……」


 そもそも俺がデートという呼称を使うの中々ゾワッ、とするものがあるというか普通に気持ち悪くないか?そう言う呼称は女性が使うから耳通りよく聞こえるのだ。


「はいはい、そういうのいーから……で、暇なの?暇じゃないの?」

「はいはい、暇だよ。で、どこ行くんだ?」


 俺の問いかけに、大学の出口を潜った世那はいつも通りこのクッソ寒い冬だというのに日傘をさして振り返りながら言うのだ。


「秘密。でも、別に遠出はしないよ~数駅範囲」

「はいはい」


 俺はその真っ白な日傘の後ろを諦めたようについていくのであった。




「はい、ここ~~~」


 大学のある駅から5駅と徒歩1分。ついたのは年始にオープンしたばかりの超大型のショッピングモールであった。


「ほお?で、なに買いに来たんだ?」


 ショッピングモールに来たということはきっとなにか目的があるのであろう。俺は入口にテーマパークのように置いてあるフロアガイドを手に取って開きながら世那に問いかける。


「え、特に目的はないよ?」

「はあ?」

「テスト後の息抜きがしたかっただけ~~~隼人とねっ」

「そういうのは友達と来た方が息抜きになるんじゃ……」


 俺の言葉に世那は俺を見上げて口角を上げるのだ。


「隼人も友達だから、なにも問題ナーシ」


 冬場の太陽のような笑顔に俺は眩しい、なんて思いながら先を行く小さな歩幅に追いつくように少しだけ歩幅を広げる。


「でも、目的もなくショッピングモールを見て回るのか?」

「そうだよ?ウィンドウショッピング~。隼人はあまりしないかな?」

「だな。あ、いや、してるか……?カードショップをウインドウショッピング」

「それは、……なんか違うよ」


 世那の微妙そうな顔に一緒にされたくない、みたいな空気を感じて俺はついつい残念、なんて気持ちになってしまう。

 似た概念だと思うけどな、目的もなくカードショップに行ってふらふらと安いカードを見るの。

 そんなことを思いながら、世那とのウインドウショッピングが開始する。と言っても、世那があっち行きこっち行きするのを俺が後ろからついていくだけなのだが。それでも世那はキラキラとした太陽のような笑顔で見ているこっちの気分まで上向けてくれる。


「隼人、隼人、どっちがいいと思う?」


 そう世那が差し出したのは、黒色のミニスカートと黒色の途中まで脚にぴったりついて最後の部分だけ広がっているロングスカートであった。


「……いや、俺は長いのを推すぞ。見ていて怖くない、安心感があるからな」

「なにそれ~スカート怖いって」

「いや、怖いだろう」


 色々なものが見えちゃいそうな恐怖、あんなの履いて今の時期でかけるのとか絶対に寒いという感覚的恐怖……ミニスカートはよくない文明だ。


「でも、隼人がロング派って訳じゃないんでしょ?」

「それはそれだな」


 現実の人間が着ていて欲しいのはロングだが、フィクションで見るなら俺も太もも丸出しミニスカートや短パンは好みだ。好みだが……。


「頼むから若いんだから、変な男につけ狙われないようにもっとこうだな……」

「隼人、視点がお父さんだよ、それは同級生に向ける視点じゃないよ」

「あと見てて寒いからロングだな」

「隼人って本当に転生者なんだねー……じゃあ、とりあえず試着してくるねー」


 そう言って、ミニスカートを棚に戻してロングのスカートを手に持って店員さんに声をかけに行く世那。そして、世那を試着室に案内した店員さんが俺に声をかけてくれる。


「お連れ様はどうぞこちらで」

「あ、ドウモ……」


 試着室の前に置かれた椅子の前に通されれば俺は椅子に座りながら端末を弄る。見ているのはもちろん、うぃんたその切り抜きだ。いやー、こういう洋服見たりするのはそれこそ鈴羽と行けばよかったのに。絶対に鈴羽の方がいいアドバイスできるだろうに。

 そんなことを思いながらぼんやりと画面を眺めていれば、試着室の扉が開く。


「どう?隼人?」

「どうって」


 呼ばれて顔を上げればそこにはロングスカートにしたことによりいつもより大人っぽさの際立つ世那が居た。


「おお……」

「そ、それはどんな感情の「おお」?」

「いや、なんというか……」


 普段見ている世那よりスカート一枚変えただけなのに凄い大人っぽく見える。というか、世那の顔立ち自体がそもそもそこそこ大人っぽいのを洋服で幼く見せている節があったのが完璧に大人っぽい感じに寄って……まとまりがいいというのがいいのだろうか。

 俺は表現に悩みながら、世那を上から下までじっくりと見て言うのだった。


「とても環境に刺さりがいいと思います」


 ……はい、こういう時にカードゲーマーが出る。でも、俺に可愛いとか言われてもアレじゃない?友達如きが調子に乗るな、ってならない?というか、世那を真っ向から褒めるのはちょっと恥ずかしいというか。……まあ、もう言ってしまったんだから仕方ないよな!

 俺は言ってしまった言葉を飲み込むこともできずに、世那の表情を伺えば———。


「なんの環境~~~」


 まあその反応は正しい。なんの環境、なんなんだろうね。俺という環境に刺さりがいい、という風にしていただけたら嬉しいです。

 俺がグッドコミュニケーションできなかったことに気まずくなりながら目を逸らせば、世那が俺の顔を覗き込むようにしゃがみ込む。そのせいで、世那の胸がたゆん、と揺れて。俺が挙動不審に目をきょろきょろとさせていると、世那は歯を見せながら笑って言うのだ。


「かわい?」


 小声で、囁くように。その仕草は不覚にも俺に萌え、の感情を芽生えさせる。だけど、此処で素直に可愛いというのはなんか悔しくて。俺は見上げてくる世那の露出した額に弱めのデコピンをするのであった。


「あいたっ」

「そういうのは彼氏の前でやれ」

「えー、いーじゃんっ!すーちゃん相手なら可愛い!って絶対言ってるでしょ!」

「いわっ……い、言ってます……」


 反射で言わないと言いかけて過去の自分の行動が脳裏を流れていく。そういえば、鈴羽には可愛い、って言ってるな。いやまあ、事実可愛いんだが。

 俺の言葉に世那はすっかり機嫌を損ねたように頬を膨らませるのだ。


「私は?それとも隼人の好みじゃない?」


 ぶすくれた顔をしていても顔の整い方は尋常じゃなくて。俺はため息をつきながら頭を掻くのだった。


「……か、可愛い……つ、つーか、世那は可愛いっつーより美麗系だよな。クールな服が似合うっていうか!」


 蛇足マシマシである。いやなんか、口が勝手に動くというか。いや、可愛いとはちゃんと思いましたけどね?不服ながら!

 すると、世那は立ち上がってぶすくれながらも……口の端を緩めて、俺の言葉に嬉しそうな表情を必死に隠そうとしながら目を伏せて言うのだった。


「女の子を褒めるときはストレートに「可愛い」でいいんだよっ」


 そうして勢いよく試着室の扉を閉めるのだった。


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