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第33章 囁き声に尊死ってアリですか?⑤

【こんうぃん!今回ライブを通してなにかとバトルしてることが多かった気がしました!

もしかして、モチーフがバトルだったりしたのでしょうか……?!(もしかして、秋城さんの影響だったり?)

もちろん、ライブは最高でした!これからも活動頑張ってください!】


「あ、ライブのテーマのお話だね~。そうそう、今回のテーマはバトルに重きを置いてたんだよね」

「ああ、だから、最初の楽曲でもみんなレイピアを持って踊ってたのか」

「そうそう。みんなの衣装のイメージもちょっと騎士風にしてね」


『大変お中世でよきでしたわ』

『短パンニーソが大変美味しかったですわ』

『あのレイピアってあけおめライブで使ってたやつ?』

『お洒落でしたわ~~~~』


「あ、気づいている人いるね~!そう、レイピアはあけおめライブで使ったやつをそのまま使ってるよ~あの、蝋燭に火を灯してたやつだね」

「あ、やっぱりそうだったのか。見たことある気はしたが……」

「流石に使いまわせるところは使いまわしになっちゃうよねぇ」


 まあそれはそう。うぃんたそのために全てをデザインすることはちょっと金銭的に難しいのだろう。


「で、今回のテーマのお話なんだけど。前半は動のバトルテーマパートで、後半は静のうぃんたそとの二人きりパートって分け方をしたんだけど……だから、今回テーマが二つあった感じかな?バトルテーマは秋城さんの影響はなきにしもあらず?」

「疑問形だな」


『テーマが二つあったっていうのは分かる』

『メンバーがはけてからの静って感じ』

『メリハリがあってよかった』

『ビッフェみたいに色々見れた希ガス』


「そうだね、いっぱい動く歌からバラードまで詰め込んだからビッフェみたいって言うのはそうかも!でも、どれもうぃんたそのベストが出せてよかったな~」

「って言いつつ来年にはそのベストを乗り越えてくるんだから、うぃんたそは恐ろしいよなあ。でも、その裏にうぃんたその多大な努力があることを忘れちゃいけない」


 そう、俺たち見る側の人間は忘れてはいけない。これは当たり前ではなく、VTuberさんの多大なる努力が裏にあることを。


「努力って言っても、うぃんたそにできることをやっているだけだからなあ……」


『努力を当たり前にできるのも凄いんだよ』

『つまりうぃんたそは凄い』

『うぃんたそ偉い』

『秋城はなんか努力してるん?』


「俺かー、俺はライブとかがない分なにか努力してるって言われると難しいな。強いて言うなら配信頻度を落とさないように努力してる、とかか?」

「ほえー……でも、配信頻度を落とさないって実は一番難しい部分だよね。リアルのスケジュールの都合上どうしても配信できない日もある訳で」


 おお、うぃんたそのフォローありがたい。


「それはそう。逆に言うとそこぐらいしか俺は努力してないんだよなあ……バトマス関連は趣味だし、配信のための努力、配信のための努力……ないな」


 webカメラに向かってキリッ、と決め顔をしてみる。


『ええ顔をしてwwwwww』

『キリッとするなwwwww』

『こっち見んな』

『@ふぉーむの配信追ってるのは?』


「@ふぉーむ様の配信追ってるのはそれこそ趣味だろ。確実なる推し活デス」

「うーん、うぃんたそもパッと出てこないけど、秋城さんの配信見ていて努力してない訳がない、って言うのは言えるけど、出てこないぃ……でも、秋城さんは努力してるよ!」

「そう言ってくれるだけで助かる。でも、出て来なくても俺はいいと思ってるんだぜ……?」

「ほえ?」


 うぃんたそのちょっと抜けた声に不覚にきゅん、としながら俺は声を絞り出す。


「伝わらない影の努力ってかっこよくね……?」


『小学生かよwwwwww』

『忘れてたわ、秋城は男子小学生』

『草生えたわwwwwwww』

『VTuberで影は無理があるぞwwwww』




 そんなこんなで。わたあめをあれからも何通か読みながら雑談をすることそれなりの時間。お昼の雑談配信だったのがいい感じに夕暮れ配信になってきた頃合い。


「はー、ライブの振り返りすっごいできた!聞いてくれた、信者のみんな、秋城さんありがとね!」

「いやいや、俺もいいもの聞けたわ……練習の裏話なんか聞けるタイミングなかなかないしな」


『それなー』

『カリア様のかわいらしいお話をありがとうございます』

『やっぱり裏話も込みでライブだよな』

『でも、この枠突発だったよね?話したくなったの?』


「この枠はね~……秋城さん言っていい?昨日から今日のお話」

「え、俺はいいけど……」


 うぃんたそ的に触れてもいい話なのか?いや、多分うぃんたそのことだからいい感じに加工するんだろうけど……。そう思っていると、うぃんたそが照れ笑いをしながら零し始める。


「この枠はね、うぃんたそにプレゼントを贈りたいって秋城さんが言ってくれたから、じゃあ、コラボしたいなってうぃんたそがリクエストしたから決まった枠なんだ。スパチャもしてくれたのに秋城さん、うぃんたそのこと好きしゅぎぃ~~~」


 言っている本人も若干照れてるのであろうか、体を左右に揺らしている。


「そりゃな。スパチャとプレゼントは別だろ。でも、これは俺が楽しすぎてプレゼントになってるかが心配になってくるやつな」


 うぃんたそとのコラボはいつもそうだ。俺がとても楽しくなってしまうせいで、うぃんたそへの贈り物って言っても最終的には俺の方が貰っている気分になってしまう。


「なってるよ。秋城さんの時間をいっぱい貰って、うぃんたそ凄い幸せ!ありがとね、秋城さん」


 いつもよりちょっと落ち着いた「ありがとう」。その言葉はうぃんたその裏に居る鈴羽が微笑んでるのを想像させた。


「ねえ、秋城さん」

「お、なんだ?」

「また1年、うぃんたそといっぱいコラボしてね?」

「俺で良ければ。というか、1年に絞らなくても全然コラボするけどな」

「もー、分かってないなあ秋城さん」


 え、なんか分かってないポイントあったか?そんなことを思いながら首を傾げる。


「1年ずつ、毎年同じ日に約束をするのがロマンティックなんだよ。……うぃんたその自己満足って言われたらそうなんだけど」


『分かる、わざと手間をかけるのがいい』

『うぃんたその小さい我儘可愛い』

『うぃんたそが可愛い』

『うぃんたその配信を見続けることを約束するよ』


「な、なるほど……。じゃあ、えー……」


 言葉にしようとするとついつい照れてしまう。でも、此処で照れて何も言わないのはちょっとカッコ悪い。だから。


「また、1年俺とコラボしようにゃ」


 ……にゃ?


「……うん、約束だにゃ!」


 あああああああああああああああああ。はい、やりました。はい、やっちゃいましたああああああああ。


「……うわああああああああああまた大事なところ噛んだぁあああああああああ」


 マイクからちょっと離れての大絶叫。俺は顔を押さえて目一杯叫ぶ。うわああああああ。


「あはははっ、最近噛んでなかったからね!治ったのかなあ、って思ってたけど噛み癖健在でうぃんたそ嬉しくなっちゃったよ」

「うわあああああああああああ」


『秋城煩い』

『シャラップ』

『お黙りあそばせ』

『マイクからせめて離れろ!』


 マイクからは離れています。俺はとぼとぼとしながら静かにマイク前に戻る。


「……俺は大事なところを噛みました……」

「可愛かったよ~にゃ、って。にゃ」

「うぃんたそが掘り返してくる~」


 いつの間にか猫耳をつけたうぃんたそが猫の手をしてにゃ、にゃ、と揶揄ってくる。可愛いけど、恥ずかしい、そんな感情に苛まれていれば、うぃんたそが画面上で俺に近づいてくる。


「秋城さん」

「はい……」

「約束、絶対だからね」


 うぃんたその囁き。その声に俺の全ての機能は停止する。


「……秋城さん?秋城さーん?あれ、ミュート芸?でも、モデル自体が止まってる……秋城さーん?秋城さん⁉」

「はっ、はっ、は、はあ……すまん、唐突なうぃんたその囁きに昇天しかけてたわ」


『分かる、唐突な囁きは心臓に悪い』

『俺の心臓も止まってたわ』

『あの囁きで何人が昇天しかけたか……』

『秋城ガチで呼吸止まってたんじゃwwww』


「え!?秋城さん天界に逝きかけてたの!?」

「ギリ戻ってこれた……うぃんたその囁き半端ないな」


 マジで呼吸が止まった。それぐらいに距離が近く感じられて、俺の心臓はどっどっどっ、と早鐘を打っていた。


「これは……うぃんたその囁きはしばらく封印だね」

「そうだな、今のは破壊力が高すぎた。でもそうなると、ASMR配信できなくなるぞ?」

「ASMRは秋城さん出禁かなぁ。秋城さんの命のために」

「あ、それはうぃんたそ禁断症状の方で俺が死ぬ」


『何しても死ぬじゃねえかwwwwwww』

『生きろ!(ギ〇ス発動)』

『秋城、すぐ死ぬ』

『まあ、最悪死んでも……奥義転生がある』


「死ぬのは駄目だよ!絶対駄目!秋城さんはもう死ぬのも転生も禁止!」


 うぃんたそがその細い腕を×印にして俺に向かって抗議する。その可愛らしい抗議は俺の頬をゆるゆるに緩める。


「まあ、実際に死ぬ気はないから安心してくれ。1年うぃんたそとコラボし続けるためにもな?」


 そううぃんたそに笑いかければ、うぃんたそはむむむ、と眉間に皺を寄せながら、ため息を零す。


「もー……でも、うん。秋城さんは約束を守ってくれるって信じてる。ということで、枠はこの辺で閉じようかな~?ママエルからもうすぐご飯できるよ~って連絡来たしね!」

「お、ママエルのご飯美味しいんだろうな~それはすぐに行かないとな」

「えへへ、そうだね。じゃあ、締めの挨拶行くよ~せーのっ」

「「おつうぃん~~~~!!!!」」


『おつうぃん~』

『おつうぃん』

『おつしろ!』

『おつうぃん~~~!』



「配信終了よ、お疲れ様」

「おう、お疲れ。で、そのままメシだから、通話もお疲れ様、かな?」


 ちょっと残念な気持ちもあるが、まあ、そう言う日もある。それに俺もなんだかんだ腹が減ったしな。今言えばギリ母さんに何か作ってもらえるだろう。


「そうね、そうなるわ。……でも、ちょっとだけお話いいかしら?」

「お?鈴羽が大丈夫なら全然かまわんが」


 なんだなんだ、そんな気持ちで椅子に座りなおす。


「改めて凄く嬉しいプレゼントをありがとう。隼人。とても楽しい時間だったわ」

「いやいや、俺の方こそ。こんなに俺が楽しいのにプレゼントって言えるのかすこーし首を傾げるがな」

「いいのよ。コラボは双方で楽しむものなのだから、むしろその言葉が聞けてなおのこと嬉しいわ」


 うぃんたその、いや、鈴羽の言葉に尚のこと俺が浮足立ってしまう。そんな己を律しながら言うのだ。


「だな。誕生日おめでとう、鈴羽」

「ありがとう、隼人……じゃあ、伝えたいことはそれだけ。ご飯食べに行ってくるわ」

「おう、じゃ、また」

「お疲れ様」

「お疲れー」


 てろん。通話の終わる音を聞いて俺は伸びをする。そして、ヘッドフォンを外してヘッドフォン置き場に置くのだ。

 そんな中、ふ、と頭の裏をよぎる、うぃんたその囁き。


「……可愛かったな」


 うん、うぃんたそはいつも可愛いが。何だろう今日はかなり可愛さが増していた。配信中じゃなかったら俺は悶えに悶えていただろう。俺は心のうちに溜められたうぃんたそ可愛いゲージを発散するように心の内側だけで大暴れをする。そして、これでもか、と暴れてふぅ、と息を吐きだした瞬間だった。

 ぐうぅううう。

 そんな気の抜けた音。どうやら、心のうちは満たされていても体はメシを欲しているようだった。

 俺は端末を手に取って部屋を出る。そして、廊下を歩き、階段を下りてリビングに入って言うのだ。


「母さん、メシなんかある?」




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