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第34章-ちょっと遅れた初詣編-

第34章 俺の運命が2人ってアリですか?

 時は2月の2週目。うぃんたそとセイラのあけおめライブから生誕ライブの怒涛の仕事のハードスケジュールが一旦終わった。一旦なのは、まだ、生誕記念グッズの直筆サイン書きが残ってて、完全には終わっていないからだ。それでも、大分余裕ができたらしい。何故、俺がそんなことを知っているか?それは簡単。

 今日、俺たち3人は年始に来ることの叶わなかった初詣に今更来ていて雑談の中でそんな話をしたからだ。




「まだ出店が出てるなんてな……」


 着た先は都内某所。芸能関係に強いと噂の神社。その神社はもう2月に入って参拝客も減りだしただろうに、まだ出店なんかも出ていて。多分、鈴羽や世那みたいな1月中怒涛のスケジュールで参拝できなかった人たちもターゲットとしてみているのであろうことが分かった。


「ええ、でも今年は去年より賑わっているわ」


 そう相槌を打ってくれる鈴羽。今日の鈴羽は珍しくズボンだった。だけど、安心はできない。ズボンはズボンでもミニ丈のズボンで、そこにクソ長いブーツを合わせている。上はかなりもこもこしてて見てて暖かそうなのに、視線を下ろすと極寒を感じてしまうスタイルに俺は内心ちょっと震えていた。


「す~ちゃん~!来て来て~!」


 杏子飴を買いに行った世那が鈴羽を呼ぶ。俺一人棒立ちしているのも悲しいので、呼ばれた鈴羽の後ろについていけば、なにやらじゃんけんが終わった後のような手の形を世那も出店の店主もしていた。

 そして、視線をちらり、と動かせば目に入るじゃんけんに勝ったらもう一本の文字。なるほど、世那が勝ったのか。


「2個は食べれないから、すーちゃんに1個おすそ分け~」

 そう笑顔で鈴羽に杏子飴を渡す世那と受け取る鈴羽。そんな2人の微笑ましい光景に俺は思わずてえてえ、そんな気持ちになるのだった。




 鈴羽と世那が杏子飴を食べ終えれば、俺達は本殿へ向かう。


「初詣ってお参りして、おみくじ引いて帰るだけなのになんかとても大きいイベントな気がするよな」

「一月の一番最初にやるっていうのが大きいのかもね~」

「そうね。1月の初めに神様にご挨拶をしに行く……まあ、私たちは2月になってしまったわけなのだけれど」

「まあまあ、神様も事情は汲んでくれるでしょ!此処の神様って芸能関係つよつよらしいし!」


 そんな道中の会話。そして、俺たち以外出店の人や神社の関係者しかいない神社の本殿前で本殿を見上げる。


「初めてきたが……さぞ名のある神様なんだろうな」

「RPGの敵キャラかしら?」


 くすくすと笑う鈴羽。


「さぞ、名のある神とお見受けする……みたいな?」


 顔をキリッとさせながら低音で台詞を吐く世那。


「あ、やべ、5円玉あったか……?」

「なに、隼人は語呂合わせ気にするタイプ?」

「隼人、存外にそう言うの細かいよねー」


 そんなことを口々に言いながら、己の財布の中身を確認する。結果として、俺は鈴羽に10円玉を手渡して、1円玉5枚と5円玉1枚を貰うことになった。そして、全員で5円玉を賽銭箱に投げ入れて各々、神様に新年のあいさつをする。


(今年は就職とVTuber、両立できるように頑張りますので、どうぞお見守りください)


 二礼二拍手一礼。毎年あってるよな?なんて心配になる作法をし、2人の間をそっと抜ける。2人はと言えば黙々となにかを祈っていた。俺は神社に来るときは決意表明をするようにしているが、2人は神様に何を伝えているのだろうか。願いか、決意か、はたまたもしかしたら近況報告なんかかかもしれない。でも、2人の真剣な祈りがどうか神様に届きますように、そんなことを思っていれば最初に合流したのは鈴羽だった。


「隼人、早かったわね」

「俺は神様には決意表明って決めてるからなー、これをやるから見ててください、みたいな。だから割と簡潔ではあるな」

「なるほど。私は結構色々言いたいこと言って整理するタイプだから長くなってしまったわ」

「まあ、こういうのは納得するところまで祈るのが一番だよな」


 そう言いながら、後ろの自販機でホットココアを3缶購入する。そして、1缶を鈴羽に手渡して、2缶を手に持ちながら世那を待つ。

 いつになく真剣な世那の横顔に余程叶えたい願いがあるのか、きっと俺には想像もつかないようなことなんだろうな、なんてことをぼんやりと考えながら待っていれば、ついに世那が二礼二拍手一礼をしてこちらに戻ってきた。


「ごめん~~~いっぱい神様にお願いしたいこと言ってたら遅くなった~~~!」

「いやいや、こういうのは自分が納得するところまでやるもの、だろ?」


 そう言いながら世那にもホットココアを渡す。


「隼人が優しい……まあ、だよね。だって、1年の最初の神様へのご挨拶だもんね!ちなみにすーちゃんと隼人はなにお願いしたん?」


 そんな世那の問いかけに俺と鈴羽は一瞬顔を見合わせる。そして、口を開いたのは鈴羽だった。


「言うと叶わなくなるから秘密よ」

「左に同じく」

「え、お願いごとって言ったら駄目なの……⁉」


 驚愕の表情を浮かべる世那。


「諸説あるけど、言わない方がいいって私は親に教えてもらったわ」

「俺もだな。でも、なんで?って言われると知らないんだよなあ」

「ほえ~」


 まあ、多分なんてことはないお気持ちマナーとかの一種なのではあるだろうとは思うが。それでも、なんとなく神様という自分たちよりは遥かに上の存在のことだ、粗相はしたくない。

 そうして、俺たちはココアの缶をゴミ箱に捨てて、とりあえず神社から出るか、そんな話にまとまり、本殿に背を向けて歩き出して少し。声を上げたのは世那だった。


「あれ、来た時あんな出店あったっけ?」


 そう世那が指し示すのは、「占い」と達筆な文字で書かれた立て看板を掲げた、小さな出店。小さいというのになんか雰囲気がやけにあって。そこだけ空気が違っていた。


「そこまで注意深く出店なんて見てなかったからな……」

「あったと言われればあった気もするわね……」


 3人でその出店に掲げられた料金表なり占いの体系なりの説明文を読み始める。ていうか、神社で占いっていいのか?なんてことを考えていると、俺の腕がガシッと掴まれる。


「隼人」


 そして、反対側世那が今度は鈴羽の腕をガシッと掴んで。


「すーちゃん」


 あ、この流れは知ってるぞ。これはすぐには此処から出れなくなるやつだ。


「面白そうだし行ってみない⁉」


 はい、出た。世那の面白そうだから構文。

 俺は困ったように鈴羽の方を見れば鈴羽はいつもどおりの顔で言うのだ。


「そうね、面白そうだし行ってみましょうか」


 あ、今回は鈴羽さんそちら側なんですね。ちょっぴり寂しいような、鈴羽も占いとか好きなのか、そんな意外な感情を抱きながら、バレないように小さなため息を零す。


「まあ、新年だしな」


 たまにはいいか、そんなニュアンスの言葉を吐き出せば世那が両手を上げて喜び、世那に引っ張られて俺たちは小さな出店の恐らく店主であろう、怠そうなお兄さんに声をかけるのであった。



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