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第34章 俺の運命が2人ってアリですか?②



 そんなこんなで。お兄さんが急遽椅子を追加してくれた出店の中。ぎちぎちに詰まった俺たちは改めて店主のお兄さんと相対する。


「では、初めまして。俺は今日皆様の占いを担当させていただく、占い師・伊作いさくと言います。なりはこんなですが、ちゃんと勉強と修行を重ねて日々アップデートしていますのでご安心を」


 男にしてはちょっと高めな優男という感じの声、平たく言うならイケボだ。


「さて、今日はお三方全員を見ていく感じで大丈夫ですか?」

「お願いします……?」

「お願いしまーす」

「お願いします」


 それぞれの返答を聞いて伊作さんはにこり、と笑って料金のお話や占いの体系の話が始まる。料金のお話はともかくとして占いの体系の話はちんぷんかんぷんなので聞き流す形になるが。


「では、皆さんの名前、生年月日、生まれた時間と場所を書いていただけますか?」


 そうして3枚のメモ用紙とボールペンがそれぞれに配られる。


「生まれた時間と場所……パッと出てこないわね」

「俺はLEINで今親に問い合わせてる」

「あ、私も問い合わせよ~!」


 そんなことを言いながらそれぞれ必要事項を埋め終わる。そうして、紙を伊作さんに返せば、伊作さんが俺たちの顔をじっくりと見る。そして、1人納得したように笑うのだった。


「では、どなたのお話からしましょうか」


 その言葉に俺たち三人は顔を見合わせる。まあ、そうなるよな。こういうのってトップバッター行きたい気がするけれども、もったいぶられもしたい気がして。ことのつまり自分で決めるのは惜しい、と感じてしまう。そんなそわそわとした空気の中鈴羽が声を上げる。


「じゃんけんで決めましょう」




 結果。鈴羽、世那、俺の順番になる。


「では、最初は私からお願いします」


 鈴羽がお辞儀をすれば、伊作さんが鈴羽の書いたメモを見て、言うのだ。


「降夜鈴羽、綺麗な名前ですね。夜にりんりん、と鈴の音が鳴り響く情景が思い浮かぶ綺麗な名前です」

「あ、ありがとうございます……?」


 鈴羽の照れるようなはにかみ、その顔はちょっとおもしろくないな、という感情を俺に湧かせて。自分で内心何様だ、なんてツッコミながら2人の会話に耳を傾ける。


「では、基礎情報を打ち込んでいきますね」

「……?占い、ですよね?」

「ええ、占いです」


 伊作さんが頷きながら淡々とメモの上に書かれた情報をノートパソコンの中に打ち込んでいく。


「占いもデジタル化の時代といいますか。俺の占いは、生年月日と生まれた時間と場所を掛け合わせてみるのですが……多くはパターン化可能です。なので、それらを分厚い本から読み解くよりデータ化、打ち込みで索引する方が効率がいいでしょう?これは俺がそのために作り上げた占いのためのソフトなんです」


 はぇー、占いもデジタル化の時代なのか。まあ、確かに伊作さんの言う通り分厚い本でいちいち索引するより、ソフトで検索結果を出すようにポンポン出せる方が便利だよなあ。そう言っているうちに、伊作さんがエンターキーを押せば、ノートパソコンの画面が動いて。


「……ほう。降夜さんはなにか人の目を集めるお仕事や趣味をやっていますか?」

「え、はい、そうです」


 え、生年月日と生まれた時間と場所の掛け合わせでそんなことわかんの?俺は半信半疑に伊作さんの顔をちらり、と見る。その伊作さんの表情と言えば真剣そのもので。嘘や当てずっぽうを言っている気配はなかった。


「どんなものかお聞きしても?」

「配信業、……Utubeで生配信をして収益を得るお仕事、ですかね」

「なるほど。そのお仕事大分あっていると思いますよ。もっと言うならきっと降夜さんならアイドルなんか芸能のお仕事をしても輝けたと思いますが……どこで輝くかを決めるのは自分自身ですからね。でも、いいお仕事です。お仕事について言えるのは一つ、ですかね……。原点を蔑ろにしないであげてくださいね」

「原点……」

「はい。昔からのスタイル、昔からのファン、そんな昔からのものをあえて大事にするとさらに輝ける、そう占いは言っています。最近、始めたことで大当たりしているならなおのこと、ですね」

「肝に銘じます……」


 それは俺も肝に銘じよう。それにしても、だ。


(他の人の占いを聞くのも大分タメになるな……)


 私生活を覗いているようで申し訳なさはあるのだが、それでも伊作さんの言葉はどれも身に染みて。そういう話術と言われるのならそれはそれまでなのだが、でも、そこにどういう意義を見出すかは俺の自由、だと俺は思う。こういうのは眉唾ものであるとちょっと思ってた節がある分、新たな体験としてこれはこれでありかもしれない、と思っている俺も居て。こればかりは世那に感謝だな。


「さて、お仕事のお話ばかりでもアレなので私生活の方にも触れましょうか。さて、私生活は……」


 鈴羽が緊張するように掌を握る。


「今年は新たな自分を知ることになるかもしれませんね」

「新たな自分……なにか新しいことを始める、ということでしょうか?」

「そうですね、そうとも解釈ができますし、既存の出来事の中で今まで自分が見ようとしてこなかった自分を知るかもしれません。流石にこのことです!と特定はできないのですが……」


 それができたら占いではなく未来視になるからな。


「なる、ほど……ちょっとドキドキしてしまいますね」


 困ったような笑みを浮かべる鈴羽。まあそりゃそうだよな、変化というのはよくもあるけれど恐ろしいものでもある。それが今年中に起こるとか、ちょっと身構えてしまうよな。


「大丈夫です。貴方は最後には自分の足で立って、自分で大事なことを決められる……いや」


 伊作さんがちょっと気の抜けた笑みを浮かべる。


「自分で決めないと気が済まない人間です」


 それは鈴羽の背中を押すような言葉であった。大丈夫、と。でも、その言葉はちょっとわかった気がした。鈴羽と関わるようになって半年と少し、鈴羽は結構意見を言うタイプだって言うのが分かった。いや、うぃんたそのときからずばずば言ってはいたが、それはキャラじゃなくて本人がそうなんだ、というのをかなり思った。


「以上です、他なにか聞きたいことありますか?」

「いえ、ありがとうございました」


 鈴羽がその場でお辞儀をする。その顔は安心しているような、穏やかな表情で。俺が鈴羽の占いから何かをくみ取ったように、当事者としてきっと何か占いから汲み取るものがあったのだろう。


「では、次に朝雉さん————」




 ちょっと割愛。世那はもうとにかく細かいことをこれ以上ないぐらい細かくチェックするように言われていた。その言葉を聞いた鈴羽がずっと深く頷いていたぐらいだ。@ふぉーむ様内でなにをやらかしてるんだ、世那よ。そんな気分になりながら世那の占いを聞き……ついに俺の番が来た。


「満を持して、黒一点ですね」

「いや、トリって無茶苦茶緊張しますね」

「力を抜いてください。死の宣告なんかをされる訳じゃないんですから」


 そんな伊作さんの冗談めかした言葉に俺もははは、なんて返せば伊作さんが俺の情報をノートパソコンに打ち込み、ほう、と息を吐きだす。


「……高山さん、失礼ですが……双子だったりしますか?」

「え、いや、しませんけど」

「……ほう、おかしいですね。1人に2人分の運命が絡みついていると言いますか……高山さんは常に運命が2つある、と言いますか……」

「2つ……?」


 俺は自分の右手の人差し指と中指を立ててそれを見つめる。そこで、思い至る。これはもしかして、転生の件が絡んでいるのではないか、と。でも、此処で「俺、転生してきたんですけど」は奇人が過ぎて。俺が頭を悩ませていると、伊作さんが悩むように言葉を絞り出す。


「これから高山さんは大分2択を迫られると思います。ただ、どっちを選んでも相応の結果にはなるでしょう。それは正しいか間違いかの選択ではなく、高山さんがどっちを選ぶかのお話なので」

「はあ……」

「これからのライフイベントで考えるのなら、結婚などのお話になりますが……高山さんには運命の人が2人います。さっきも言った通り、正誤の話ではなくどちらを選ぶかのお話なので、どちらを選んでも幸せになれるでしょう」


 俺の運命とんでも浮気者か????そんな俺の運命が相手に対して誠実じゃないのか?俺は軽く混乱しながら首を縦に振る。


「あ、ちなみにかなり今年の恋愛運はいいですね。運命の2人はもしかしたら今年までに出会った女性に絞ってもいいかもしれません」

「え?」


 俺が動揺の声を発した瞬間であった。


「す、すすすす、すーちゃん隼人結婚するって!?」

「落ち着きなさい、まだ、結婚するとは言ってないわ」


 俺より動揺している世那とそれを宥める鈴羽。あー、うん、確かに一番そう言うこととは縁遠そうな俺がそんなことになっているとか死ぬほど驚くわな。

 その様子に思わず伊作さんも苦笑を浮かべて再度口を開く。


「なにか最近いい出会い、ありましたか?」

「いい出会い……いい出会い……」


 うーん、鈴羽との出会いはいい出会いだった気がする。でも、それを本人の前で言うのも恥ずかしいし、そもそも鈴羽にそういう感情を抱くのは前々から言っているがいけない気がして。でも、他の出会いなんて……在香さんぐらいしかないが。在香さんは人妻、ノーカンだ。


「まあ、すぐには思いつかないでしょう。それこそ、袖振り合うも他生の縁と言いますしね。行きつけのカフェでお釣りをもらった相手が、なんてこともありえます」


 出会いの範囲広すぎませんか?

 俺が頭を抱えそうになっていると、世那がスッ……と手を上げた。


「隼人の運命の人って年が離れてたりしますか?」


 真剣な顔で何言ってんだコイツ。そう思っていると、鈴羽も恐る恐る手を上げるのだった。


「そもそも、運命の人って女ですか?」


 お、おおおお、俺にその趣味はないぞ?鈴羽の問いかけに動揺していると、どんどんどんどん、矢継ぎ早に世那と鈴羽が質問を投げかけ始める。


「け、結婚っていつ頃ですか⁉」

「どんな交友関係の相手とか分かりますか?」

「まさか人妻とかじゃないですよね?」

「未婚の女性ですか?」


 お、おお、おおおお……俺の恋愛にそんなに2人とも興味があるのか?いやまあ、普段つるんでる中で唯一の異性に持ち上がったその手の浮いた話題だから気になるっちゃ気になるんだろうが。いや、いつかはするだろ……いや、うん、したいな恋愛。

 鈴羽と世那の勢いに押されている伊作さんと視線がかち合う。すると、何故かウィンクをされた。これなんのウィンクだ、収めろ、って話か?いやー、鈴羽はともかく世那は無理っすねえ。

 そこからは俺の今年の相談ではなく、俺の運命の女性はどんな人か、そんな話に話が逸れていくのであった。



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