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第34章 俺の運命が2人ってアリですか?③




「うぃ~~~~」


 結局、あれから時間みっちりまで伊作さんを質問攻めにする光景を見守ることになった。そりゃもう凄い時間だった。うん、言葉にしがたいとはこのこと。

 そうして、退店時間になった俺たちは出店から出て椅子に座って縮こまった筋肉を各々伸ばすのであった。


「まさか、もう隼人の運命の人が現れてるかもだなんて……」

「でも、人妻みたいな三角関係は見えないって言ってたし、健全な関係そうで安心したわ」

「それはそうだけど~~~~、隼人って一生そういうのって縁ないと思ってたあ……」


 お、失礼な。そういう縁は作っていくんだよ!


「まあ、今年までって言ってたし此処から心機一転マッチングアプリなんてのを始めてみるのもアリかもなー」

「お勧めしないわ」

「え、なん」

「お勧めしないわ」

「……はい」


 なんか鈴羽の圧が強かった気がする。有無を言わせない感じが。いやでも、そうでもしないと引きこもりがちなVTuber、出会いなんてゼロに等しい気がするぞ。はっ、まさか。


「もしかして、俺が先に結婚するのがそんなに嫌か……?」


 まあ、そりゃ女性だもんな。プライドがあるよな、1人でうんうんと頷きながら勝手に納得する。


「……うーん、隼人が結婚できるとか本当かなあ」

「少なくとも結婚自体はまだ先ね」


 お、なんかdisられてる。えー、俺そんなに結婚できなさそう?でも、今年中には運命の人に会うらしいのに、それも2人。どっちを選んでも幸せになれるって言うのが贅沢な話だよな。


「でもさー、さっきの話だと今年までに出会った女の人で2人でしょ?もしかしてー」


 世那が楽しそうに歯を見せて笑う。お、なんだなんだ。


「私たちだったりして?」

「……はい?」


 俺の脳みそが停止する。なんて?


「丁度二人だし、隼人の周りにいる女性なんて私たち以外なくない?」

「それもそうね」


 鈴羽さんまで⁉え、え、何言ってるんだ、ハッ、また揶揄われてるんだな?揶揄われてるんだよな?


「いや、いやいやいやいや……仮にそうだとしても、最終的にどっちかの視聴者に刺されて終わりだろ……」


 そうそこだ。流石にファンに後ろから刺されるのは遠慮願いたい。というか、それじゃ俺が幸せになっていない。それは嫌だ。幸せになりたい。


「……あら、でも拒否はしないのね?」


 鈴羽 の 痛恨 の 一撃 ‼


「は、ははははは、ははははは……」


 いやいやいや、だって拒否するの凄く失礼じゃないです?本人に向かって、「ないわー」っていうの死ぬほど失礼じゃないですか。いや、まあ、俺としても鈴羽や世那みたいなかなりの美少女と付き合えたら嬉しさはあるが。でも、でも、このっ……!


「な、なんだなにが目的だ?肉か?俺を弱らせて肉を奢らせようって算段か?」

「あ、隼人が超混乱してる」


 混乱もするわ!そんな俺を両端からにやにやとしながら囲む鈴羽と世那。この2人の掌の上感。これは勝てない。というか、そもそも女性2人に野郎1人で恋愛の話を振られた時点で負けというか。愛され弄られポジというか。俺は額を押さえながら声を絞り出すのだ。


「こ、この話は此処までで……何か恋愛方面動きがあったらちゃんと報告させていただきますので……抜け駆けはしませんので……お許しを……」


 もうこれしかない、THE・懇願。俺はこの場では永遠に勝つことはできない。なので、こうだ。そんな俺の懇願に2人は数歩進んだ先で振り返る。


「ちゃんと報告してくれるならまあ、今日はこれぐらいにしてあげなくもないよ~?」


 ニヤニヤというかニタニタというか。でも、そんな笑みですら可愛さを含ませた愛嬌のある笑みを浮かべる世那。


「隼人、マチアプは駄目よ?」


 ちょっと頬を膨らませて言い聞かせるように俺をまっすぐ見る鈴羽。

 そんな2人が夕日に照らされてオレンジ色に染まって。眩しくて。2人とはこうしてずっと仲良くしていたい、そんなことを漠然と思い浮かべる。俺と鈴羽と世那と、秋城とうぃんたそとセイラと。できれば、途切れることなく。ずっと仲良くしていたい、と。


「……おう、これぐらいにしてもらえると……。でも、鈴羽は現代人にしては珍しくマチアプ否定派か?」


 先を行く2人に追いつくように歩を進める。


「男性がハメられた例をよく聞くもの。それで女性不信にでもなったら目も当てられないじゃない」


 なるほど、それは一理ある。俺もゆったーでよく金銭を騙し取られたやら美人局にあった、なんて話をよく見るしな。それなら最初からそう言う可能性があるものはやらないに限る。


「っていうか、うちの大学マチアプ禁止だよ?隼人校則読んでない?」

「え?マジ?」


 世那からもたらされた意外な情報に俺は驚きの声を上げる。


「なんだっけ、何個か前の世代の先輩がマチアプから詐欺集団に行っちゃって~それ以来うちの大学では表立っては禁止されてるよー。まあそれでも、裏でこそこそやっている人はいるけど」


 し、知らんかった。なんだったら校則なんて入学して以降一切目を通していない。マジで知らなかった。


「やっぱりその手の話題どこの大学にもあるのね。うちの大学もあるわ。もちろん、校則で禁止されてるわよ」

「え、すーちゃんのところも?」


 世の中に騙されてる大学生が多いのか、それとも全ての大学に表向き禁止されてるのか。まあ、真相は闇の中だ。


「ま、大学生には健全に過ごしてほしいんだろ。まさか禁止までされてるとは思わなかったが……」

「それもそうね」

「あ、ねーねー、このあと夕飯どうする?」


 突然の話題の切り替え。俺は世那の声に時間をチェックする。夕飯にはちょっと早いかもしれないけれど、店に入ると考えるのならスムーズに入れるだろういい時間帯だ。


「そうだな、ここら辺だと……」


 俺の頭の中に思い浮かぶのは果てしないラーメン屋の数々。うん、この辺はCSで来る以外は今日が初めてだったからマジで食事処というとラーメン屋しか思い浮かばない。


「……俺はラーメン屋ぐらいしか思い浮かばないな」

「あら」

「え、無茶苦茶あり~!」


 お、おお?思ったよりノリのいい2人の声に俺は軽く目を見開く。ラーメン屋ってあまり女性人気高くないイメージがあったが……存外に2人ともノってくれるのか。


「え、あれだぞ、お洒落な店とかじゃなくてカウンター席のちょっと狭めの……」

「いいじゃない。寒いし、暖まるって観点でもいいチョイスだと思うわ。あ、途中コンビニでヘアゴムは買いたいけど……」

「それは全然かまわないが……」


 まあ、確かに鈴羽も世那もラーメンを食べるにはちょっと邪魔な髪の毛をしているのは事実だ。


「あ、すーちゃん!半額払うからヘアゴム1本貰っていい?」

「構わないわ。世那はよく髪の毛食べてるものね」

「食べたくて食べてるわけじゃないよ~」


 そんな緩いやり取りをしながら俺はこの近辺のラーメン屋を思い浮かべる。


「ちなみに鶏白湯系とにぼし系、あとはー……豚骨系だとどれがいい?」

「ラーメンってそんなに種類あるの?」

「あるある。あとはジャンク系やら二郎系なんかもあったりするけど、流石に女性を連れてくのはな……って思って省いてるが」


 いや、行きたいって言ったら連れていくけど。


「具体的に口の中がラーメンの味になってきたわね……私、にぼし系気になるわ」

「すーちゃんに同意!鶏白湯とか豚骨は大学近くにもあったりするし、私もにぼし系行ってみたい~」

「お、じゃあ、にぼし系にするか。ちょっと道複雑だからちゃんとついて来いよ」


 はーい、なんて2人の声が返ってくる。

 じゃあ、ラーメン屋に向かうか、なんて俺が先導を始める。もちろん、コンビニに寄るのも忘れずに———。



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