花が咲きました。
私の庭に、私の小さな小さな庭に埋めた種から、芽が息吹、育ち、そして、今日、とうとう花を咲かせたのです。
はじめは白い小さなお花だけでしたが、日が経つにつれ、数種類の花が咲きました。
でも、埋めた種はほとんど野菜の種だったらしく、花が咲いたのは一部の物だけでした。
知っていましたか?
野菜の花が咲くのは大体二年目からなのですよ。
もちろん一年目にも花を咲かせる野菜もあります。
今回花を咲かせたのは、ラディッシュに、エンドウ豆、それとカブの花です。
どれも小さくも可憐で可愛い花を咲かせてくれました。
私は人形ならがに生命の神秘を感じています。
後の物は、花を咲きませんでしたが、野菜ですからね。
ニンジンにキャベツ、タマネギと、これは恐らくニンニクですね。
それらがすくすくと育っています。
ラディッシュは野菜として、もう収穫出来そうですね。
エンドウ豆もそろそろでしょうか?
カブはもう少し、ニンジンもまだ小さいですね。。
キャベツ、タマネギ、ニンニクはまだまだと言った感じです。
それでも、この庭では少し手狭なくらいです。
けれど、小さかった庭が、こんなにも色鮮やかで素敵な場所へと変わりました。
やはりこの世界は素敵です。
私には光り輝いて見えます。
それにしても、なんて可愛いお花達なのでしょう。
なんて生命力あふれる植物達なのでしょう。
本当に色んな種類の野菜の種が混ざってまとめられていたようですね。
まだほとんどの種を撒いていないので、もしかしたら他の植物もあるのかもしれません。
なにせ小さな庭ですからね。
一度に植えられる数はそう多くないです。
今でさえ手狭になってしまいましたからね。
しかし、この小さな庭を見ているだけで、なんだか楽しくなってきます。
なんなのでしょうか、この気持ちは。
何とも言えない暖かいものが私の中に満ち溢れています。
メトレス様にも教えて差し上げないとなりませんね!
「メトレス様! お庭にお花が咲き、お野菜が育っています」
私が報告すると、書類を読んでいたメトレス様が顔を上げ笑顔で応えてくれます。
「ああ、そうか。結局、何の種だったかわかったかい?」
「はい、今回育ったのがラディッシュに、エンドウ豆、カブ、ニンジン、キャベツ、タマネギ、ニンニクです。まだ種は多く残っているので他の野菜もありそうです」
とはいえ、ほとんど多年草の野菜です。
残りの種を植えるのはしばらく先になりそうですが。
「そうか。全部、本当に野菜の種だったのか。それは良いな」
そう言ってメトレス様は機嫌が良さそうに笑います。
「収穫しますか? いくつか収穫できると思いますが」
ラディッシュは収穫できますし、エンドウ豆も多分平気ですよ!
ラディッシュの美味しい食べ方を調べないといけませんね。
でも、花が咲いたラディッシュは硬くなり、味が落ちるともありますね。
少し時期を逃してしまいましたか?
「いや、良いよ。咲いた花を楽しんでくれれば。元々、プーペが喜んでくれればそれでいいんだ。野菜じゃなくてもね、花だけでもよかったんだよ」
「そうなのですか?」
私が喜べば?
人形の私が喜ぶ……
確かに、花を見た私はそれに値すると思います。
けど、私は物ですよ。人形なのですよ。
いえ、でも、メトレス様がそう思ってくれている、私のことを考えてくれているだけで、嬉しいですね。幸福ですね。
私は本当に幸せ者、いえ、幸せ物ですね。
「花が咲けば種がまたできるかもしれないし、それでいいよ。またそれを植えてプーペが楽しんでくれればそれでいいんだ。外出禁止にしてしまったしね」
この種は外出禁止にしてしまったので、という事なのですか?
そんなこと気にしなくて下さって良かったのに。
私はメトレス様と一緒にいられるだけで幸せなのです。
けど、種ですか。種ができるというのは、何か良いですね。
「種……」
命を繋ぐ形。
人形である私にはない機能。
これは憧れというものなのでしょうか?
「また来年それを育ててくれるかい? プーペ」
まだまだ頂いた種で植えてない方が多いのですが、なんだか来年のことを、未来のことを言われると、それだけで嬉しくなってしまいます。
「はい、喜んで!」
もし、わたしが表情を作れたのなら、私は今きっと笑顔だったのでしょうね。
「ああ、そう言えば、また人形の依頼が入ったんだ。今度はオーダーメイドではないけどね。そのうち手伝ってもらうから、そのつもりいてくれ。それまでは好きなことをしてて良いから」
「はい。わかりました」
ですが、メトレス様。人形に好きなことをしていて良いと言われるのは酷な事ですよ。
もちろん、嬉しい事ではあるのですが。
好きなことをしていて良い、ですか。
人形である私には悩ましい事です。
とはいえ、私には小さいながらもお庭もあるので、それほど酷な事でもないです。
あのお庭を眺めているだけで、時間は流れていくのですから。
やはり私は普通の人形ではないようです。
自由を謳歌できる人形など聞いたことはありませんからね。