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【第五十四話】疑惑

 ボクが以前までとは違い、今度は病的なまでに仕事を受けこなしている時期に、ディオプ工房の会合で新しいネールガラスの話を聞いた。

 ついでになんで病的なほどに仕事をしているかというと、何かをしていないと気が狂いそうになるからだ。

 シャンタルのいない日常に耐えれそうにない。

 だから、仕事をし続けている。

 そうすることで自分用の人形の費用にもなる。


 まあ、今はそんな事はどうでもいい。

 今は新しい技術の話だ。

 新しい技術ならシャンタルにも使えるかもしれない。

 なんでも新技術で動物をガラス化させて、それをネールガラスに混ぜて使うというのだ。


 確かにネールガラスの産出量は年々減ってきているという話だ。

 いや、本当はもうほとんど産出されていないらしいが、今のボクにはどうでもいいことだ。

 例の実験が上手くいったのだろう。


 既存のネールガラスに混ぜてかさ増ししようということで、足りなかった耐久性をどうにかしていると言ったところだろうか?

 まさか人のガラス化した遺体を使うわけないよな、あのシモ親方が。

 まあ、本当にどうでもいい話だ。

 いや、でも、多少は参考になるかもしれない。技術の話だけでもしっかりと聞いていかねば。


 ただ、ネールガラスに混ぜ物をすることで費用もかなり安くなる、とかそういう話はどうでもいい事だ。

 ボクにはシャンタルのガラス化した遺体がある。

 それで十分だ。

 恐らくシャンタルになら混ぜ物にする必要はない。

 シャンタルの新しい体に、これ以上余計な混じり物など入れたくはないし。


 それよりは今は仕事を多くこなして、自分用の人形を作るためのお金を貯めなくては。

 人形の用の物はなんでも高い。


 そんなことを考えていると実際に動物、見せられたのは牛のものだったが、完全にガラス化した牛の死体が用意される。

 実際に見て見ればわかる。

 これはヴィトリフィエ病により結晶化、いや、ガラス化したものだ。


 シモ親方は得意げでこのガラス化した素材のことを話していく。

 市長と共同で進められているプロジェクトでゆくゆくは採掘に頼らなくても、ネールガラスを調達できるようになると力説している。


 ネールガラスの代わりに、単体でなる様なものは動物では無理なはずだ。

 それを可能とするのはXXという品種、恐らくはヒト、人間の、ヴィトリフィエ病によりガラス化した死体が必要のはずだ。

 シモ親方はそれをわかっていて説明しているのか?

 少なくとも以前ボクが見た資料にはそう書かれていたはずだ。


 だが、ボクはシモ親方の話を一言も聞き逃さずに聞く。

 ボクも近いうちにその素材を使わなくてはいけないのだから。

 少しでも流用できる技術が聞けるかも知れないのだから。


 ボクの中で疑惑が確信へと変わる。

 市長とシモ親方はヴィトリフィエ病を利用して、新しいネールガラスを得ようとしているのだと。

 あのいつか見た実験の資料は本物であったのだと。


 その確信はボクに新しい疑問を抱かせる。


 いや、待て。

 ヴィトリフィエ病を利用して?

 ここ数年で出て来た病だぞ?

 利用するにしても速すぎやしないか?

 確かに精錬したネールガラスとヴィトリフィエ病により変異した症状は似てはいるが、それを利用しようだなんて発想はすぐに出てこないはずだ。


 逆…… じゃないのか?

 ヴィトリフィエ病を利用しようしたんじゃなくて……

 ネールガラスを確保するために……?


 いっ、いや、流石に考えすぎだ。

 市長がどんな男か詳しくは知らないが、シモ親方がそんな事に手を貸すわけがない……

 いくらネールガラスが産出しなくなったからと言って……

 そんな…… まさかな……

 流石にボクも疲れているんだ…… よな?






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