で、なんなんですか。
このなんとかっていういけ好かない男は。
メトレス様をどうするって?
私の前で、このプーペの前で何と言いましたか!
そんなこと私が許すと思っているんですか?
とはいえ、二体の人形は私などより、かなりゴツイですね。
その上、鉄などの金属で要所要所を補強しています。
ギリギリ戦闘用ではないと言っていましたが、グレーゾーンじゃないんですか?
左手の爪なんて指先にナイフが付いているような物じゃないですか。
あんな手では料理の一つも作れないですよ。
ですが、あの鉄球は厄介ですね。
あれでぶたれたら外骨格が破壊されかねません。
外骨格を構成しているが特別製とは言え、陶器は陶器ですからね。
普通の陶器に比べれば、衝撃にも強いですが人形の力で鉄球を振り降ろされたら流石に割れてしまいますよ。
「人形の方は絶対に破壊するなよ。男の方はやってしまって構わないからな」
また言いましたね!!
まったくまったくまったくまったく!!
この方は、どうしてくれましょうか。
「もう名前は忘れましたが、あなた。私の目の前で、よくそんなことが言えますね」
そう言って私は睨みます。
瞼はありますからね。顔全体の表情は作れなくとも、睨むことくらいはできます。
それを受けていけ好かない男は笑います。
「ハハッ、こいつはすげぇ、本当に喋ってやがる! 本物の禁忌の人形だなぁ、なあ、あんた、どうっやって人の魂をネールガラスに定着させたんだ、俺にも教えてくれよぉ」
この方、自分の立場をわきまえているんですか?
私が許すとでも思っているんですか?
少し痛い目を見てもらわないといけないみたいですね。
「教える訳がないだろ! プーペ、この場はどうにかして逃げるぞ」
逃げる?
いいえ、メトレス様。
逃げる必要は皆無です。
ここはこのプーペめにお任せください。
何も問題ありません!!
「いいえ、メトレス様。荷物もありますし、なによりメトレス様の体調がまだ回復していません。この男には退場して頂きます」
メトレス様の命令ですが、それには及びませんよ。
今はメトレス様の容態の方が大事ですし、そもそもこんな連中脅威でもありません。
それに許せませんし。
メトレス様を殺すとかのたうち回った輩をそのままにしておける訳がないじゃないですか……
「プーペ?」
と、メトレス様が少し驚いたように声を上げます。
命令を無視して申し訳ございません。
ですが、すぐに終わらせますのでご心配は無用です。
「オイオイオイ、人形が主人の命令を無視だぁ? もう既に暴走してやがんのかぁ?」
「私は暴走などしていません」
私は抑揚のない声で静かに断言しています。
暴走などしてませんし、何も問題がないだけです。
ただ、それだけの事です。
「まあ、いい、捕らえろ! ブレスリュール、ドゥルール!」
その言葉と共に、二体の人形が襲いかかってきます。
どちらがどの名かわかりませんけど。
どちらかがブレスリュールで、もう一方がドゥルールなのでしょう。
まあ、どうでもいいことですよ。
片方の人形は私を取り押さえるように、もう片方の人形は、こともあろうか、メトレス様を狙っています。
許しませんよ? そんなこと。
私を取り押さえようとして来ている人形の、私から見て左型に回り込んで相手の人形のその右手、鉄球のついている右手を私は掴みます。
私からしたら、この人形動作など遅すぎますので何も問題はないです。
そのまま力任せに、もう一方の人形に向かいその鉄球で力の限り殴りつけます。
どうやら力でも私が勝っているようですね、なら、そもそも障害にもなりません。
私が手に持っていた相手の人形の右手の鉄球でもう片方の人形を打つと、物凄い音がしてその人形の外骨格が砕けます。
後付けで金属で補強しているようですが、後付けなので逆に強度の低下になっていませんかね?
人形の作りも雑ですね。
鉄球で殴られ、よろめいた人形に向かい、手に持っていた人形そのものを投げつけます。
また大きい音がして外骨格だけでなく、人形の中身であるネールガラスが割れて飛び出ます。
二体の人形は床に絡まり合うように倒れ込んでいます。
やっぱり敵じゃないですね。
人形としての格が違います!
やっぱりメトレス様製でないといけませんね。
でも、もう決着が着きました。
ネールガラスが破壊されては人形はもう動けません。
あなた達二体もあんな男に使われて、心苦しかったでしょう。
「なんの魂かは知りませんが、今、解放して差し上げます」
そう言って、私は人形の胸部にあるネールガラスのコアを、もう一体の人形の右手をもぎ取り、それについている鉄球で突き立て破壊します。
「ドゥルール!?」
今のがドゥルールだったらしいですね。
では、続いて ブレスリュールも眠らさせてあげましょう。
私はブレスリュールのコアにも鉄球を振り下ろします。
大きな音が鳴りブレスリュールもコアを破壊されピクリとも動かなくなります。
「嘘だ…… 俺の人形が…… こうもあっさり?」
「プーペ……? キミは暴走でもしているのか?」
メトレス様が驚いたように私を見ながらそう言いました。
暴走……
暴走はしていません。
私は正常です。
「いいえ、違います。これは…… 愛故の力です」
多分そうです。
メトレス様を守りたいが故にでた力です。
愛のバカ力です!
「愛…… だって……」
そう言ってメトレス様は私を見つめます。
いつになく優しく、そして、縋りつく様な、そんな熱い視線です。
そんなに見つめられては照れてしまいますね。
「そ、そんなバカな…… 俺の…… 特製の二体がこうあっさり…… 勝負にすらなってない…… だと……」
人形技師としての腕がないのですね、この方は。
そんな事はどうでも良くてですね。
「それよりあなた」
「は、はい!」
私が呼ぶと、この…… 名前はなんでしたっけ?
あれ? 人形の私が物を忘れるだなんて珍しいですね。
まあ、いいです。
所詮は輩なので。
「この場所で少々騒ぎ過ぎました。どこかメトレス様を休ませるところは御存じないですか? それとお医者の手配をお願いできますか?」
断ればどうなるか、わかっていますよね?
私は瞼だけで表情を作ってそう伝えます。
「わ、わかったから、命だけは……」
そうです。
素直なのが一番ですよね。
「もし…… 裏切ったらどうなるか、わかってますよね? その場合はあなただけでも絶対に許しませんよ」
私がそう脅すと、この方は怯えながら何度も頷きました。
「わ、わかった、裏切らない、裏切らないから助けてくれ! い、命だけは……」
これで安全な場所とお医者様を確保できそうですね。
一安心です。