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【第五十六話】人形と逃走劇、捌

 フリット。そうそう、フリットさんでした。

 そんなお名前でした。

 その輩の秘密のアジトとやらにメトレス様を連れて行きました。

 そこにお医者様も呼びに行って見てもらいました。


 そのお医者様曰く、やはりメトレス様は低体温症だそうです。

 お医者様と言っても闇医者みたいですけどね。


 けど、温かいベッドでメトレス様を寝かして置けたおかげで、メトレス様も大分回復なされたようです。

 お医者様が帰られた後、フリットさんを縄で縛って床に転がしておきました。

 もし裏切ったら必ず踏みつぶしますと、脅しておいたので大丈夫でしょうし、お医者様は事情も何も事情を聴かずにメトレス様だけを治療して去っていきました。

 なんだか、その道のプロという感じがします。

 フリットさんとは大違いですね。


「プーペ、もう行こう、ここは危険だ」

 ベッドから起き上がりメトレス様はそう言いましたが、まだどう見ても具合が悪そうです。

 こんな状況で出歩くこと自体危険ですよ。

 それに今はまだ昼です。

 逃げだすにしても、夜になってからの方が良くはないですか?

「もうしばらく休んでいてください。せめて日が暮れるまでは……」

 そうです。

 そうすれば、私がメトレス様を抱えて一気にグランヴィル市から脱出してしまいましょう。


「そいつが市警と、市長と繋がっているとなると、軍用の人形だって来る可能性もある。そうなったらどうにもならない」

「そうなのですか?」

 軍用の人形ですか。

 戦闘用の人形と言うことですよね。

 普通の人形とどう違うのでしょうか?


「ああ、軍で使う様な人形にはセラス・ミクシズのような陶器は使われない。外骨格も鋼鉄製の物だ。どうあがいても勝てない」

 なるほど。

 やはり人形の外骨格は制限が掛かっていたのですね。

 ですが、軍用の人形はその制限を受けないと。

 確かに全身鋼鉄でも人形の力なら自由自在に動けますし、私でもどうにもならないですね。

 陶器の外骨格は人形を御しやすくするための物でしたか。

「それが来るまでに逃げなければ……」

 確かにそんな人形を連れた市警が着たらどうにもならないですね。

 でも、来るものなんでしょうか?

「来るものなのでしょうか?」

 私はそう言って床に転がっているフリットさんを見ます。

 私が視線を持っていくと、フリットさんは慌てて喋り始めました。

「こっ、来ない! そんな暇与えなかったじゃないか! ずっと見張っていたろ! 連絡なんて取れてない!」

 それはそうですよね。

 私自ら、このフリットさんの真後ろにずっと立っていたんです。

 あの闇医者さんを呼びに行くときも。

 誰かに連絡を取っている素振りはしていませんでした。


「取ってたらただじゃすみませんよ」

 と、念のため脅しておきますし、実際にそうなったら容赦しません。

「わ、わかっている。俺の人形を、ああも簡単に破壊する奴だ、逆らいはしない」

 そんなに自信作だったんですか?

 その割には随分と簡単に勝ってしまいましたけど。

「だ、そうですけども?」


 けど、メトレス様はフリットさんを睨みます。

「そいつは市長の手下だろう? 信用できるものか…… それに…… やっぱり、まだグランヴィル市でやらねばならないことがボクにはある。ボクがしなくてはいけないんだ」

 そう言って、メトレス様は思い詰めた顔をします。

 そんなお顔も素敵です、メトレス様!

「それはなんですか?」

 にしても、やらなければならない事はなんでしょか?

 逃げだすのではなく?

「それは…… プーペが知る必要はない…… それにこれはボクの復讐だ……」

「メトレス様の復讐ですか?」

 なら、私の復讐でもありますね。

 お手伝いさせて貰いますよ!







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