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【第五十七話】真実

 今日はディオプ工房の集会の日だ。

 行かなければ、シャンタルに怒られてしまう。

 今日も寝れなかった。

 寝れても悪夢を見るだけだが。

 そのせいで、寝不足のせいでフラフラする。

 頭がまるで回らない。

 でも、集会に行かなければシャンタルに怒られる。

 怒られてしまう。

 でも、怒ってくれる彼女はもういない。


 それでもボクは彼女の言葉には逆らえない。

 彼女の願いを一つでも多く叶えてあげたいから。


 だが、今日も工房へ来たところでシモ親方はいない。

 また市長のところだそうだ。

 ここのところほぼ毎日呼び出されているらしい。


 でも、今日は、今は、時間がある。

 気長に待つとしようじゃないか。

 このところ仕事を詰めすぎてた。

 こうやって休むのも悪くはない。


 それに親方にはシャンタルの事で今まで無理を言っていたんだ。

 少しくらい待つことは何ともない。

 今は時間があるんだ。

 そう思っていると、同僚の、同じディオプ工房に所属する人形技師の…… 誰だったか、名前もお覚え出せない奴から、

「メトレス、お前、大丈夫か? そんなにやつれて…… お前の話は聞いている。他の皆も事情は知っている。今日は帰って休め。親方には俺から言っておくから、な?」

 と、声を掛けられた。


 ボクの事情を知っている?

 何を言っているんだ。

 誰もボクの事情を知る者などいない。

 いてはいけない。

 けど、そうだな。

 これは、いい機会かもしれない。

「あ、ああ、すまない。えっと…… ああ、休ませてもらうことにするよ。一応ボクからもシモ親方に書置きは残して行くから……」

 そう言って項垂れるように座っていた椅子からボクは立ち上がる。

 その際、少しよろめくが、なんてことはない。


「そ、それがいい。大丈夫か? ガルソンに付き添わせるか?」

 そいつはボクをまじまじと見てそう言った。

 一応は心配してくれているんだよな。

 名前なんだっけ、先輩だったよな。

 思い出せないが、世話になっていた気がする。

「いや、大丈夫ですよ。大丈夫さ…… 少し疲れているだけですから……」

 そう、少し疲れているだけだ、ボクは。

 シャンタルが帰って来てくれれば、それで問題はないんだ。

 だから、今は待たなくちゃいけないんだ。

「そ、そうか…… メトレス、いいか? 帰って休むんだぞ?」

 そいつは、いや、その人はボクの目をしっかりと見ながらそう言ってくれた。

「あ? ああ、わかっている。わかっているさ……」

 わかっている。

 わかっているとも。

 だから、ボクは親方の部屋へ行くんだ。


 そうしてボクは親方の部屋に入る。

 やることがある。

 資料だ。

 もう少し資料が見たい。

 親方が市長から頼まれているヴィトリフィエ病の、そのガラス化した遺体から作るネールガラスの技術が少しでも知りたい。

 ボクには失敗が許されないのだから、少しでも情報が欲しい。

 なんでもいいから役に立つ情報が欲しかった。


 それにしても相変わらず親方の部屋は汚い。

 散らかり放題だ。

 だからこそ、ボクが多少家探ししたところで親方も気づけない。

 机の上もこんなに散らかって……

 大事な資料もあるだろうに。


 おっ、早速あった。

 掃除されない部屋だからか、上の方を探せば比較的、新しい物を探し出しやすい。

 これは例の資料だ。

 市長から頼まれている研究内容の……


 は?

 なんだこれは……

 ヴィトリフィエ病は呪い? 太古の? 竜を滅ぼした呪いだって?

 それを流用してている?

 なんだ、これは…… おとぎ話か?

 その呪いを用いて、生物を特殊なガラス化には奇跡的に成功…… でも、実験自体は失敗した?

 ガラス化する対象を選べない?

 無作為にあふれ出た呪いが、この都市の生きる者に降りかかるだって?

 けれど、新たなネールガラスを作り出すには、それしか方法がないから、市長はその呪いをそのままにしている、だと?

 呪いの再現性はもうできないかもしれない…… から……


 生物を、竜さえもガラス化させる呪い?

 そんなものが、呪いだなんてものが、本当に存在するのか?


 待て…… なんなんだ、この続きは。

 その呪いを利用しようとしたのは…… 市長自身だって?

 市長が、デビッド・ペレスが、聖サクレの遠い子孫…… だから、不完全ながらにも呪いを操れた?

 何だ、何なんだ、この資料は?

 こんなもの信じろって、言うのか?


 いや、市長が何者かだなんてどうもいい。

 つまり、このグランヴィル市に、ヴィトリフィエ病を流行らせたのは市長だっていうのか?

 市長がその呪いとやらを使い、新しいネールガラスを作ろうとして……


 その結果、シャンタルを殺したというのか?


 なんだ、これは? どういうことなんだよ。

 この資料に書かれている事は本当の事なのか?

 ヴィトリフィエ病は市長がネールガラスを作るために流行らせた呪いだって言うのかよ……


 ハハ、ハハハハハハハハハハッ……


 そんな物の為にシャンタルは犠牲になったのか?

 それにシモ親方も噛んでいるっていうのか?


 ふざけるな、ふざけるなよ!!

 なんだ、これは……

 なんなんだよ。


 許さない……

 絶対に許さないぞ……


 市長も親方も……


 絶対に許さないからな。






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