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幕間(十) ほんのひと時

第113話 駄々っ子も素直に謝れる


 すっかりと暗くなった空にフランはもう夜かと瞬く星を眺めてからギルドへと入った。アルタイルが受付嬢に依頼完遂の報告をしにいったのを見送って、近くのテーブル席へと腰を落ち着ける。


 夕食時だからか、テーブル席は冒険者たちで賑やかだ。昼は掲示板のほうに集まっていることが多いが、夜となると人は少ない。


 お腹もすいていたのでフランも何か頼もうとメニュー表を眺めるも、うわぁん泣きつかれて阻止された。



「フーちゃん助けてぇ」


「どうしたんですか、カルロさん?」


「みーちゃんが怖いんだよぉ」


「かーるーろーさん!」



 それはもう低い声がしてフランはびくりと肩を跳ねさせて振り返る。仁王立ちするミリヤが怖い顔しながらカルロを見つめていた。


 それはもう怖いものだから、カルロがひぃんと鳴きながらフランの背後に隠れてしまう。それでもミリヤが諦めることはない。



「また、怪我を放置しましたね!」


「かすり傷だったからぁ」


「切り傷でしょうが! あんなに血が出ていてかすり傷な訳ないでしょうが!」



 あぁ、また怪我を放置していたのか。フランがカルロのほうへと目を向ければ、首に包帯を巻かれていた。流石に首の怪我は放置するのはどうかと思うとフランはじとっと目を細める。


 そんなフランの視線に気づいてか、カルロは「平気だもん」と呟く。そんな彼に「そんなわけがないでしょうが!」と、ミリヤが鋭く突っ込む。



「首ですよ、首! 一歩、間違えていたら死んでいるかもしれないんですからね!」


「わ、わかったから、そんなに怒らないでよぉ」



 みーちゃん怖いと怯えるカルロにミリヤが何度も言わせるのが悪いと反論している。それはもうその通りなので、フランも頷くしかない。



「またやらかしたのか、カルロ」


「アルアルも助けてよぉ」


「お前が悪い」



 諦めて怒られていろとアルタイルに言われてカルロはうわぁんと泣く。そんなことをされても、悪いのはカルロだしなとフランもアルタイルもミリヤを止めない。


 ミリヤはフランの後ろに隠れるカルロの首根を掴んで自分の前に正座させた。そこから始まる説教をアルタイルは聞きながら、フランに夕食を何にするか質問している。


 その慣れた様子がフラン少し面白かったが、笑うことはせずにメニュー表からいくつか選んで店員に注文をした。


 料理が届いてもまだ続く説教にカルロはぐったりとしている。フランはそろそろ助けるべきではと料理を食べながら思うも、アルタイルが「そろそろ負けを認める」と言われて二人に目を向けた。



「ですからね――」


「ぼくちんが悪かった! ごめんなさい! 気を付けます!」



 もう勘弁してくださいと手を合わせるカルロにミリヤは片眉を下げながらも、「わかったのならば」と説教を止める。この勝負はミリヤが勝利したようだ。


 よく分かったなとフランがアルタイルに問うと、「カルロは説教に弱い」と教えてくれた。


 カルロは叱られる分にはまだ良いのだが、何処が悪いのか、なぜ起こっているのかといったことを懇々と説教されることにはかなり弱いのだという。


 受付嬢やギルド長の説教も五分で負けを認めるほどには、叱られ続けることに弱い。自分が悪いと理解していると特に。だから、すぐに終わるだろうとアルタイルは分かっていたようだ。



「カルロさんって逆ギレってやつはしないですよね?」



 自分が悪いというのに相手を怒鳴り返すようなことをカルロはしない。正当化させようとすることもせず、ただ説教を聞いて悪かったと素直に認める。


 フランの疑問にアルタイルは「自分が悪いと思っているからな」と答えた。


 自分が悪いと思っていることに関しては言い返すことはできないというのもあるらしい。言い訳のようなことは言うけれど、悪いと自覚はしているのだという。



「根は良い子だからな、カルロは。子供っぽいところは多々あれど、聞き分けは良いほうだ。悪いと思っていることに関しては、それを正当化しようとしたりしない」


「なるほど」


「悪いと思っているなら、一度の説教で改善してほしいんですが?」


「こいつにそれは無理だろう」



 テンション上がって遊び始めたら子供のようになってしまうからな。アルタイルの返答にミリヤはそれはどうなのかと不満げにカルロを見遣る。


 カルロはてへっとしてみせるので反省しているようには見えない。いや、悪いと自覚はしているのだが、テンションが上がってしまうとどうしようもないということなのだろう。



「だから、こいつと付き合うと疲れるんだ」


「言っていた意味が分かりましたよ、ほんと……」


「ミリヤさん、疲れるならそこまで面倒を見なくてもいいのですよ?」


「なんでしょうかね。ここまできたら、引くに引けないというか……」



 どうやら、彼女の中で引くに引けないところまできているらしい。これはハムレットが言っていたように彼女もカルロの保護者枠に足を突っ込んでしまったのでは。


 フランだけでなく、アルタイルもそう思ったようで、「こいつの保護者は大変だ」と深い息を吐き出していた。



「ぼくちんは平気なんだけどねぇ」


「あたしの話をちゃんと聞いていました?」


「聞いてた! 聞いてたから、怒らないで!」



 慌てるカルロをミリヤはじとりと見つめていたが、ひとまずは納得したようだ。気をつけてくださいよと注意して終わった。



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