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第114話 アルタイルの愛情を感じ取る


「えっと、アルタイルさんは私の事が好きなわけで、それはパーティのメンバーとしてではなく、一個人としてで……」


「フランが誰かの元に行くのを全力で阻止するぐらいには好きですわよ」


「凄く想われてますね、フランさん」



 昼下がり、町のカフェでフランはメルーナとミリヤの三人でお茶をしていた。フランがミリヤとギルドで話していたのを見かけたメルーナが、気分転換にどうかとお茶に誘ったのだ。


 アルタイルも気分転換は良いことだろうと言ってくれたので、フランは三人でカフェに訪れたのだが、話が恋愛の方向へといつの間にか向いてしまった。



「フランはハンター様のこと好きなの?」


「好きですけど、これって恋愛感情なんですかね?」


「いや、わたくしに聞かれても……」



 他人の感情というのは本人でないと分からないものなので、メルーナは「聞かれても困るわよ」と呆れたように返す。


 それはそうかとフランは腕を組んでうーんと頭を悩ませてみるも、好きなのは本当だった。とはいえ、これが恋愛感情なのかの判断ができず。


 恋愛というものを経験していなかったことが此処で響いている。少しは恋というのを体感しておくべきだったかと、少しばかり後悔する。



「メルーナちゃんって恋をしたことあります?」


「うーん、少しは。でもすぐに終わったのようねぇ」


「その時ってどうでした?」


「え? そうねぇ……楽しかったのよね」



 好きな人と話していると楽しくて、ずっとこうしていたいと思った。メルーナの恋はそんな感覚だったと。


 では、ミリヤはどうだろうかとフランが聞いてみれば、彼女は「あたしは振られてばっかなんですよねぇ」と、はははっと笑いながら頭を掻く。



「世話ばかり焼いちゃって、お母さんみたいだとか、うるさいとか言われて……」


「あぁ……カルロさんの世話を焼く時みたいな感じですかね? あれは、人によっては嫌だと思うかも……」


「尽くし過ぎたりとか?」


「それもありますね……」



 あたしは恋愛で成功したことないから何の参考にもならないですね。ミリヤはそう言うも、経験があるのならば何かしら得られることはあるのではないだろうか。


 フランはそう思って、メルーナに質問したのと同じことを聞いてみた。


 ミリヤはその時のことを思い出しながら「大事な時間、ですかね」と答えた。好きだった、一緒にいた時間というのはとても大事なものだったと。


 短いひと時だったとしても、大切な思い出となっている。ミリヤは胸に手を当てながら優しく目を細めた。



「嫌な事もあったけれど、それと同じように楽しい事もあったから。だから、とても大事な時間でした」


「嫌な事もですか?」


「はい。嫌な事もそれもまた経験として勉強にもなりましたし。楽しかった時とか、好きだって気持ちを感じられてあたしはよかったですよ」



 嫌な事も経験として受け止めている。ミリヤの返答にフランはこういった考え方もあるのかと、自分の感情と比べてみた。


 この不幸体質で迷惑をかけたことはあれど、嫌な事をされてはいない。むしろ、この体質をネガティブに捉えず、ポジティブに考えられるようにしてくれた。楽しかったというか、嬉しいことが多い。


(こうして思い出してみると嬉しいって感情のほうが強いなぁ)


 不幸体質を面白いと受け止めてくれて、自分の良い点を見つけてくれただけでなく、体質をポジティブに考えられるようにもしてくれたのだ。


 嬉しかった。ずっとこの体質が足を引っ張っていたように感じていたから。自分を認めてくれたことが、とっても。



「これが恋に繋がるのかなぁ」


「恋っていろんなきっかけで気づくことだもの」



 何がきっかけで恋に落ちるかなんて分からないわ。そう言われてフランは恋って不思議だなと思った。何が原因でその感情を抱くか分からないのだから。


 恋で苦しむことも、喜びこともある。嫌な事があっても次へと向かう。フランはそれもまた恋の良さなのだろうと納得する。



「まぁ、それはそれとして、ハンター様の愛は重いとわたくしは思うけれど」


「そうなんですか?」


「暴れるって即答できるお方、早々いないわよ」


「そんなこと言われたんですか……。それは確かに愛が重い」



 ミリヤにも重いと言われてしまい、フランはアルタイルの想いの強さが異常なのだと知る。これは普通ではないらしい。


 あそこまで周囲を気にせずにやっていけるのも凄いとメルーナはアルタイルの行動力を感心していた。それにはミリヤもうんうんと頷いている。


 そうなのかとフランは二人の様子に改めてアルタイルの愛情を感じ取った。



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