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第二十一章:答えは簡単なことだった

第115話 カルロの意外な一面

 朝から依頼を受けていたフランは昼過ぎにギルドへと戻ってきた。夕方までかからなくてよかったとフランがギルドの扉を開けて――目を瞬かせる。


 テーブルに隠れるように掲示板のほうを見ているカルロの背がそこにあったからだ。あまりにも不自然なものだから、フランは気になって声をかけてみれば、「しっ!」と静かにするように言われてしまう。


 なんだろうかとフランも屈んでカルロの見ている方へと目を向けてみた。掲示板の前には冒険者がちらほらといるのだが、フランの目に留まったのはミリヤだ。


 ミリヤが掲示板の前にいるのだが、困ったような表情をしている。誰かと話をしているようでその対応が原因のようだ。


 艶のある短い白髪が良く似合う好青年といった印象の冒険者と話しているのだが、よくよく見るとミリヤの手を握っている。


 何を話しているのかは聞こえないが、好青年な冒険者の勢いが強そうに見えた。あの人は誰だろうかとフランが小声でカルロに聞いてみれば、「女にだらしない奴」と返された。


 ハムレットとは別ベクトルで女にだらしないらしい。少しでも気に入った女性を見つければ、声をかけていくらしい。惚れっぽい性格なようで、それが原因で女性と喧嘩することもあるのだとか。


 話を聞いてフランはもしかしてミリヤは彼に言い寄られているのかもしれないなと気づく。とはいえ、話を聞いていないことには判断できないので、フランは一先ずカルロに何をしているのかとこそっと問う。



「みーちゃんが言い寄られているかの確認」


「この位置からだと話は聞きとりにくいですよ?」


「これ以上、近づいたら気づかれちゃうもん」



 ぼくちん目立つからというカルロにその自覚はあったんだとフランは口に出そうになる。確かに彼は目立つのですぐに気づかれてしまうだろう。


 話しかけてみればよいのではとフランは言ってみた。様子を見るにミリヤは困っているはずだからと。


 それはカルロも気づいてはいるようだが、声をかける理由がなくて近寄れないと眉を下げていた。



「挨拶するだけでも助けられると思いますよ?」


「挨拶の後ってどうしたらいいのさぁ」



 カルロは「ぼくちんはアドリブが苦手なんだよ」と腕を組む。挨拶した後のことなど思いつかないのだ。


 ミリヤに助け舟を出したくとも、話が浮かばなければチャンスを作れないとカルロは悩みながら様子を窺っていたということだった。



「いつものようにダル絡みすればいいだろう」



 話を黙って聞いていたアルタイルがそう言えば、「アルアルたちとは違うのー」とカルロは頬を膨らませる。


 何が違うのかとアルタイルが眉を寄せるも、カルロはミリヤに目を向けているので気づくことはない。どうしようといったふうだ。


 カルロのこんな姿というのは見るのが初めてだなとフランは珍し気にその様子を眺めてしまった。彼の事だからアルタイルの言った通り、いつものように絡みに行くことができると思ったから。



「そこまで考えなくても大丈夫だと思うのですが……」


「考えることだよー。アルアルたちとは違って一般枠な女の子なんだから」


「俺たちを別枠にするな。少なくともフランは一般枠だろう」



 アルタイルの突っ込みにカルロは同じだよと言い返していた。それはそれで複雑な心境になるのだが。フランはそう思ったものの、口には出さない。話が進みそうにないからだ。


 ミリヤが困っているのは表情を見れば分かることだ。なので、助けてあげるべきであるのだが、カルロは自分だけでは話が浮かばないからと声をかけれていないというのが、現状である。



「私たちと一緒に話しかけます?」


「挨拶した後はどうするのさー」


「それは……」


「カルロ」



 フランがどうするかと腕を組むと、アルタイルがカルロを呼んだ。何か思い浮かんだのだろうかと彼を見遣ればポーチからナイフを取り出した。



「これで怪我をしろ」


「何故!」


「彼女の特異性を思い出すんだ」



 ミリヤは怪我や風邪の放置に厳しい。掠り傷であっても許すことはなく、特にカルロは目を付けられている。怪我を放置しがちなお前ならば、怪しまれることはないとアルタイルは説明した。


 要はわざと怪我を作り、フランがミリヤに「カルロさんが怪我を放置して」と、報告するだけで彼女ならば違和感なく話に乗ってくれるということだった。



「確かにあの勢い状態になったミリヤさんなら違和感なく乗ってくれるかも……」


「でも、それぼくちんがしんどいよね!」


「彼女を助けたいのならば少しは身を削れ」



 日頃から世話になっているのだからこれぐらいできるだろうと言われては、カルロは従うしかない。


 何せ、怪我の手当てはミリヤにしてもらっているし、フランたちが居ない時に話し相手になってもらっているのだから。


 それはそれとして、ミリヤのあの説教は苦手らしい。でも、困っている彼女を助けるにはこれが一番なのはカルロも分かっている。



「分かったよぉ」



 仕方ないとカルロはアルタイルからナイフを受け取った。左手首に刃を滑らせて傷をつけてから血を軽く拭う。


 ナイフならカルロの武器でも良いのではというフランの疑問にアルタイルは「念のためだ」と教えてくれた。


 カルロのナイフで傷をつけたということがミリヤに見破られた時に言い訳ができないだろうと。


 アルタイルのナイフならば、素材を剥いでいる時に絡まれて傷をつけてしまったと誤魔化すことができる。



「カルロならやりかねないと想像できるだろう?」


「確かに……」


「ぼくちんへのイメージ酷くない?」


「日頃の行いが悪い」



 アルタイルはそう言ってカルロの首根を掴んだ。このまま引きずっていけばいつもの感じを出せると判断したのだろう。流石だなとフランは感心してしまった。



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