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第117話 カルロの告白


「何、やってんの?」



 ひょっこりとアルタイルの背後からハムレットが顔をのぞかせた。何やってんだと疑問符を浮かべる彼にアルタイルは簡潔に事情を話した後に「見ていればお前なら分かる」と、カルロを指差す。


 見ればとはと思っているような顔をしながらハムレットは二人の様子に目を向けた。今は好青年の冒険者が言い返している場面だ。



「貴方はハンターとしての自覚はあるのか? 頻繁に我儘を言っているのを見かけるが。そんな冒険者に何を言われても説得力はない!」



 痛い所を突かれている。確かにカルロは駄々をこねているのだ、頻繁というほどではないが。傍から見れば子供が我儘を言っているように見えるだろう。


 いくら友人とはいえ、ハムレットや同じハンター同士であるアルタイルに迷惑かけているのではないか、そういった疑問を抱くのは当然だ。



「そうだね!」


「自分で認めているということは自覚があるということだ。迷惑をかけているとわかっていてやっているなんて質が悪い!」


「誰彼構わずやってるわけじゃないけど?」



 ぼくはぼくちんが信頼している人以外にはしないもん。カルロは胸を張る、誰でも言いわけじゃないと。


 これに好青年の冒険者は「友人であっても迷惑だ!」と噛みつく。限度というのは友人関係でもあるわけで、彼の言い分は分からなくもない。


 フランはどうなんだろうかと、アルタイルたちを見れば、二人は顔を見合わせていた。



「ハムレット、お前はどう思う」


「おれ? カルロの駄々こねだろ? あれはもう慣れたな」


「俺もだ」



 面倒くさいとは思うと認めながらも、二人は「こいつだから許している」とも言った。それには好青年の冒険者が何故と疑問をぶつける。


 面倒くさい、またかと呆れるというのに許せるのか。信頼しているからとしても、そんなことが多々あれば、愛想も尽きるのでは。


 そんな好青年の冒険者の疑問にアルタイルは「信頼の重さが違う」と答える。



「お前の言う信頼と俺がこの馬鹿に抱いている信頼の重さは違う」



 そんな軽いものではない。重く、芯のある信頼をカルロに抱いている。アルタイルは言う、生半可なものではないのだと。


 ハンターである以上、ギルド長からの信頼と責任を背負うことになる。それは半端な心では重みで潰れてしまう。ハンターとして成し遂げている、それだけで心の強さというのが分かる。


 互いに助け合ることができ、共に狩りをして、相手の動きを見抜き合わせることができる。それは相手の事を理解しているからこそ、できることなのだ。



「確かにこいつは駄々をこねる。だが、任された仕事はきっちりとこなし、ギルドの信頼と責任を果たしている。助け合うこともできるし、相手の事を理解して行動ができる。だから、俺たちはこいつの我儘を聞いてやれるんだ」



 カルロの事を分かっているから、俺らは許せる。アルタイルは「これを分かっていない人はお前のように思うのだろう」と腕を組んだ。


 それは不満を抱いたとかではなく、周囲からはそう見えていることが多いのかと納得したようすだった。


 ハムレットもアルタイルに同意するように頷いている。「これは付き合いが長くなと分からないよな」と笑って。



「まー、ミリヤちゃんとはまだ短いんだけど。なんか、ミリヤの性格がカルロと上手く合ってるんだよなぁ」


「上手くカルロの手綱を掴んでいる」


「そう、それな!」



 無茶しすぎる時もあるカルロだが、最近はミリヤに叱られてから怪我をしなように気を付けていた。楽しいからと前に出るのは止めて。


 ミリヤの説教というのはちゃんとカルロに響いている。怪我をすれば反省をし、戦い方にも気を付けるようにできるほどに。


 こういった様子を見て「二人の性格が上手く合っている」とハムレットやアルタイルは感じたようだ。それを聞いてなるほどなとフランは納得した。



「そう! 何も知らない人にとやかく言われたくないね!」


「それはお前が人前で駄々こねをしなければいいだけだが?」


「アルアルさぁ。ぼくちんをフォローするのか、指摘するのかどちらかにしてくれない?」


「本当のことを言っただけだ」



 人前で駄々をこねるからこういった印象になるのだと、指摘されてはカルロは言い返せない。けれど、アルタイルは「それ以外で俺たちは別に気にしてはいない」とフォローをする。


 アルタイルにむーっとカルロは頬を膨らませるも、「ぼくちんのことはいいんだよ」と話を戻す。



「みーちゃんが嫌だって断っているのにぐだぐだと迫ったのはキミでしょ! ぼくちんそんな迷惑なことしないもん! てか、人の事を言えた立場じゃないよね?」



 他人が嫌がることをしても止めなかったのだから。カルロがぎろりと睨む。好青年の冒険者はそれはと言葉を詰まらせた。


 これはカルロの言う通りだとフランは思った。相手も同じように傍から見れば迷惑なのではといった行動をしているのだ。


 ミリヤは二人を交互に見遣りながら「あたしは大丈夫なんで」と止めに入るも、睨み合いは治まらない。ここまでカルロが強く出るというのはフランは見たことがなかった。


 何があったのかとフランが疑問符を浮かべていれば、ハムレットが「あー、なるほど」と手を打った。どうやら彼にはカルロの行動が理解できたらしい。


 そういうことねと少し面白そうにしている。なんだろうか、凄く気になるとフランが問いかけようとして、カルロが口を開く。



「だいたい、そこまでみーちゃんのこと知らない人に渡したくないんだけど! ぼくちんのほうが知ってるからね!」



 付き合いの長さなら負けないぞと言うカルロの発言にフランはうんっと首を傾げた。その言い方はなんだが――



「カルロさんがミリヤさんを誰かに渡したくないみたいに聞こえるんですけど……」


「そりゃそうだろ。だってカルロはミリヤちゃんのことが好きなんだから」


「え、ええぇ!」



 フランより先に驚いたのはミリヤだった。ハムレットの返答を信じられないといったふうに。そんな素振りはなかったじゃないかと。


 ミリヤの疑問にアルタイルは「こいつは悟られないようにするのが得意なんだ」と教えてくれた。カルロは感情を隠すのが上手いのだという。


 けれど、懐いている、好きであるというのは行動にちゃんとでていると言われてミリヤはぱっと思い浮かばないようだ。



「まず、説教されても逃げずに聞いていること。嫌いな相手からだったからこいつはまず逃げる。それからミリヤからの頼みを断らずに聞いていること。そして、今の状況。好きでもない相手にここまで強気に出ることはない」



 こいつはそういうやつだと言うアルタイルにハムレットがうんうんと頷いている。まだ疑っているようにミリヤはカルロに目を向けた。



「付き合いの長さなど関係ないだろ! 子供みたいに騒ぐ相手が良いとは思えないが?」


「ぼくちん、ハンターなんだけど? 信頼と実力が無ければこの称号はもらえないし、キミより強くてみーちゃんを守り切る自信があるんだけどぉ?」



 その返しは強い。フランはそれは反則ではないだろうかと思った。ギルドからの実力と信頼が無くてはハンターの称号は与えられない。実力があるということは強さはお墨付きということだ。


 誰かを守ることもできるほどの力があるからこそ、ハンターとして依頼を任せられる。その自信がなければハンターにはなれないのだ。


 カルロの大きな声は周囲の冒険者にも聞こえていたようで、「ハンターの称号は最強札だろう」という声がする。



「えっと、とりあえず落ち着いてください。あたしは大丈夫ですからね?」


「みーちゃんは優しすぎる! 嫌だったらはっきり言うべきだよ!」


「カルロさん、そこまで必死にならずとも……」


「フーちゃん、よく考えてみてよ! 誰かにアルアルを取られたらどうするの? もう二度と一緒にパーティ組まないってなったらさ!」



 カルロの言葉にフランはえっと固まる。もし、アルタイルが他の誰かの元へ行く、一緒に居られなくなったら――



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