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#113


 入学式は無事に終了した。

 前世のわたしの経験では、高校ぐらいの入学式の後って、新入生はぞろぞろ教室に入って席に着き、担任教師の挨拶やらなにやら、という流れだったと記憶してるけど。

 王立学園は違うようだ。

 生徒会主催の、新入生歓迎立食パーティーが催されるという。

 会場は講堂ではなく、校舎内のイベントホール。そこへ新入生全員がぞろぞろと誘導を受けて移動した。

 ホールの規模が、またすごい。さすがに学校なので、それほど華美な装飾はないけれど、大掛かりなダンスパーティーができるだけの広さがある。

 そこにずらりっと並べられた白いテーブル。さらに、奥のほうの長卓に、色とりどりのお料理と飲み物がひしめいている。ローストビーフっぽい肉料理、クリームシチュー、グリーンサラダ、素材不明な揚げ物たち、パンも何種類もあるし、ショートケーキもある。リンゴ、葡萄、イチゴなどのフルーツ類もどっさり。それらをビュッフェ形式でいただけるみたい。

 これは凄い。さすがは王立学園。生徒のほとんどが貴族の子弟だから、これくらいは贅沢でもなんでもなく、当たり前のことなんだろうね。

 アザリンが見たら問答無用で突撃していきそうな光景……。

 これ一応、ゲームと同じ流れではあるんだ。ただ、ゲームでは、主人公ルナちゃんは庶民の出ということもあり、遠慮して隅っこに退がってしまう。

 それを見た第四王子アレクシスが、両手にグラスを持って、そっとルナちゃんのもとへ歩み寄り、声をかけてくるのだ。

「きみは赤と白、どちらが好きかな?」

 と。

 ここで選択肢が出る。その答え方でアレクシス王子の好感度が……って、いや、これはゲームじゃないし、わたしはルナちゃんじゃない。当然、そんなイベントが、いま発生するわけもなし。

 わたしは、他の新入生らとともに、てきとーに料理をお皿に放り込んで、赤のドリンク……ワインっぽいけど、実は葡萄ジュース……をグラスに汲んで、手近なテーブルについた。

「こんにちは」

 と、たまたま、わたしの隣りに立った女子生徒が、声をかけてきた。

「同じクラスの方ですよね?」

 学園制服の襟には、学校側から配られる小さなバッジを付ける決まりになっている。バッジは所属に応じて、色付きの横線があしらわれていて、学年とクラスがひと目で判別できるようになっていた。

 わたしは青の一本線。これは1年C組の所属であることをあらわしている。

 その女子生徒の襟バッジにも、同じく青の一本線。同じクラスってことだ。

 ここの新入生は、出身地、もしくは入試成績によって、大体のクラス分けがなされている。一部、例外もあるそうだけど。

 以前、父に聞いた話だと、1年C組は地方出身の成績上位者が集められてるんだって。

 地方……つまり田舎貴族ってことだね。ええ。わがアルカポーネ家も、ばっちり当てはまっておりますとも。

「わたくし、ダイアナ・ガルベスと申します。あなたは?」

 ん?

 ガルベス?

 それって、うちのお隣、ガルベス子爵家?

 しかもダイアナって……。

 などと色々思考を巡らせつつ、わたしは表面上はいたって平静に、ご挨拶を返した。

「シャレア・アルカポーネです」

「まあ!」

 そう名乗るや、女子生徒は、少し驚いたように、まじまじわたしを見つめた。

「アルカポーネって、うちのお隣さんですよね? うちと同じ子爵家の!」

「ええ、そのようですね」

「わあ、嬉しい! ぜひ一度、お会いしたいと思っていたんです!」

「え、そうなんですか」

 話しながら、少しじっくりと彼女を観察してみた。

 ダイアナ・ガルベス。

 ……ゲーム「ロマ星」においては、名前だけが語られるキャラクターだ。

 ガルベス子爵キシールの一人娘。五歳のとき、馬車で移動中、盗賊の襲撃によって母親ともども惨殺された悲劇の令嬢、として。

 もちろん、あくまでゲームの話だ。彼女が、いまここにいるということは、何らかの理由で、ゲームとは異なる運命を歩み、元気に成長してきた、ということだろう。

 ゲームと違う展開。死んでいるはずの人物が、いまここにいるという状況。

 ふむふむ。こういうこともあるのか。

 一種の吉兆、といえるかもしれない。

 ゲームでは、何がどうあっても死ぬ運命のルードビッヒ、それによって必ずラスボス化するポーラ。

 けれど、ダイアナが生きているという事実は、やはりこの世界はゲームとは違うのだと、再確認させてくれた。

 ルードビッヒとポーラを守りきることだって、決して夢物語ではなく、現実に可能なはず、ということ。

 ダイアナの存在は、その一端の証明たりうる。

 そう思うと、なんだかダイアナってなかなか重要人物な気がしてきた。

 お隣の貴族家でもあるし、できれば仲良くなっておくべきかな……。

「ね、アルカポーネさん。あなた、入学式のとき」

 そのダイアナが、少し声をひそめた。

 え?

 もしや、わたしが結界魔法を使ったこと、勘付かれちゃってたんだろうか?

 と一瞬焦りかけたのだけど。

「ずーっと、ルードビッヒさまのこと、見つめていらしたでしょ? とってもご熱心に」

 あ、そのことですかー。

「ええ。わたし、その……ルードビッヒさまの、ファンでして」

 正直に答えた。そうでなくとも、あれほどの美形、見惚れて当然ではないですか。ねえ。

「まあっ! 実は、わたくしもそうなんですっ! 二年前に、ブランデル侯爵家のパーティーで、ちらっとお会いしたことがありまして! そのとき以来、もうずっと! あのお方の大ファンなんです!」

 おおっ。それはそれは、羨ましい経験をなさっておいでで。

「そのとき、ルードビッヒさま、公爵家のポーラさまとご一緒なされてて! それはもう、とってもとってもお似合いで! それでっ、わたくし、あのお二人を応援してるんです!」

 ……うわお。

 これは、同志発見?





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