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#138


 メリちゃんさんが言うには。

「なにからなにまで全部演技、ってわけでもねーんだけどな。実際、こういう振る舞いも、これはこれで気に入ってるっつーか。周りに気ぃ使わなくて済むぶん、気楽でな。両親もそのへんは心得てるから、何も言わねーし」

 なるほど。良家のご令嬢として、淑女然と取り澄ましているよりは、ガサツに振る舞ってるほうが気楽だと。礼儀作法とか、そういう窮屈さとも無縁でいられるだろうしね。ちょっと理解できる。

「わたしもそうだよー。メリちゃんがやってるから、付き合ってるんだ」

「あたしも! 結構、たのしーんだよね、これ!」

 取り巻き少女らも口を揃えて述べた。

 ついでに、彼女らの自己紹介も聞いた。サーラちゃんとファナちゃん、だって。

 彼女らは、もともとテッカー伯爵家の寄り子にあたる二つの男爵家の令嬢たちで、メリちゃんさんの幼馴染なんだとか。で、メリちゃんさんの境遇を知って、自分たちも不良少女になってみた、と。大好きなメリちゃんさんが寂しくないように……。

 そんなことを言い合いながら、はにかみ笑顔を交わす少女たち。

 瞬間。

 ズギャン! と、わたしの脳髄に電撃走る――。

 これは!

 なんて尊い!

 実にっ! 尊みあふれるシチュエーションじゃありませんか!

 いやもー、はからずも、大変エモい、素敵なお話をきかせてもらいましたよ。ありがたやありがたや……。

 事情を聴けば、なるほど納得。幼馴染たちの尊い友誼。まさに感じ入りましてございます。

 ……よろしい。ならばわたしも全力で、彼女らに力を貸しましょう!

 って決意したものの、まだお話は途中なんですけどね。本題にすら入ってないですね。

 なんやかや話を聞いてるうちに、もう通学路を抜けて、学園正門へさしかかっていた。

 メリちゃんさんたちとはクラスが別だからね。今朝のお話はここまで。

「では、続きは後ほど」

「お、おう。放課後、そっちのクラス行くから、待ってて」

「じゃーなーっ」

「またなーっ」

 挨拶を交わして、お別れするわたしたち。本当に仲いいな、あの三人……。







 教室に入ると。

「みてましたよー、アルカポーネさーん」

 ダイアナが、それはもう、にっこにこな笑顔で出迎えてくれた。

「D組の子たちとご一緒に登校されてたでしょう? もうすっかり仲良しさんですね!」

 なんでそんな嬉しそうなの、ダイアナ……。

 正直、まだそれほど、彼女らと仲が深まったわけではないけどね。

 あの三人の関係性のエモさに、わたしが勝手に打ち震えてただけです。

 その日のお昼は、学食にて、ダイアナと一緒にコミダセットをいただいた。例のパエリアとお野菜のスープのセット。

 パエリアもスープもおいしくて、逆に驚いた。先日チョイスしたプランツォセットって、実は大外れメニューだったんだな……。そればっかり食べてたゲームのルナちゃんって、いったい。

 ダイアナは例によって、わたしの三倍ぐらいの量を、ぺろんと平らげてた。彼女の胃袋も相当なものだね。アザリンと大食い勝負させたら、凄い光景が見られそうだ。

 食後、ハーブティーなどいただきながら、ダイアナに、ある話題を振ってみた。

「同好会、ですか?」

 ダイアナは、きょとんと目をしばたたいて、わたしを見つめた。ううむ。ダイアナって、こう正面から見ると、ほっぺが、ふっくらと上品な曲線を描いていて、すっごくやわらかそう。ぷにぷにーって、してみたい。

 いや今はそこは置いといて。

「そう。ルードビッヒさまの魅力を語り合ったり、ルードビッヒさまとポーラさまの仲をこっそり応援したり、お二人のご様子を絵画や詩にしてみたり……近々、そういう同好会をつくりたい、と思ってるんですよ」

「まああ!」

 途端、ダイアナは、両眼をキラキラと見開いた。

「素敵っ! 素晴らしいお考えです! ぜひにっ! わたくしも参加したいです!」

 がばっと身を乗り出して、声をあげてきた。

 おおう。想定以上の食い付きっぷり。

「もちろん、大歓迎です」

 と、うなずいてみせる。

「ありがとうございますっ! それで、それでっ? いつ結成するんですかっ? 他のクラスのお友達も呼んでよいですかっ? 一応、入会資格や会の規則なども決めておきませんとっ」

 うわー。乗り気とかいうレベルじゃない。断然やる気になっちゃってる。

「まだ思いついたばかりで、何も決めてはいないんです。でもよかった。ガルベスさんにご賛同いただけたのなら、まずは二人で同好会結成、ということにしませんか。そのうえで、どんどん賛同者を引っ張ってくる、という感じで」

「ええ、ええ! それがいいです! 同好会って、たしか学園の許可とかは必要ないんですよね?」

「そうです。なので、放課後、余裕のあるときに話し合ったり、活動したり、という形でやれたらと」

「わかりました! あっ、でも、今日はわたくし、午後に所用が……」

 それはちょうどよかった。わたしも今日の放課後は先約あるしね……。

「なら、明日の放課後、詳細を詰めましょうか」

「ええ。楽しみにしております!」

 ダイアナなら喜んで話に乗ってくれそう、とは予想してたけど、ここまで全力で食いついてくるとは。この情熱、本物だ……。

 ところで。

 そんなわたしたちの会話を、少し離れた席で、じーっと聴いてる人がいた。

 そう、例の辺境伯家嫡男、黒髪のザレック・リヒター。

 例によって、わたしが顔を向けると、ささっと目を逸らした。

 なんなんだろうなぁ。一度、ちゃんと話を聞いてみる必要がありそう。

 できれば、辺境伯家なんて雲の上のご身分の方とは、あまりお近づきになりたくないのだけど。

 でもメリちゃんさんという前例もある。話せば案外、わかりあえるかもしれない。

 問題は、どうやって声をかけるか、だけど……。

 いまはまだ、後回しでいいか。他にやるべき案件が多すぎる。

 放っといても、そのうち、あちらから接触を図ってくる可能性もあるしね。

 まずは……。

 その日、放課後。

 授業が終わると、早速、わがC組の出入口前の廊下に、三人組が並んで待っていた。

「迎えにきまし……きたぜ」

「あねご、おつかれー」

「おねえさま、こっちっすよー」

 いや、わたし、同級生ですからね? あねごとか、おねえさまとか、やめてね?

 まずは、彼女らのお悩みを解消してあげないとね。

 ともあれ朝のお話の続きを聞かせてもらいましょ。





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