メリちゃんさんが言うには。
「なにからなにまで全部演技、ってわけでもねーんだけどな。実際、こういう振る舞いも、これはこれで気に入ってるっつーか。周りに気ぃ使わなくて済むぶん、気楽でな。両親もそのへんは心得てるから、何も言わねーし」
なるほど。良家のご令嬢として、淑女然と取り澄ましているよりは、ガサツに振る舞ってるほうが気楽だと。礼儀作法とか、そういう窮屈さとも無縁でいられるだろうしね。ちょっと理解できる。
「わたしもそうだよー。メリちゃんがやってるから、付き合ってるんだ」
「あたしも! 結構、たのしーんだよね、これ!」
取り巻き少女らも口を揃えて述べた。
ついでに、彼女らの自己紹介も聞いた。サーラちゃんとファナちゃん、だって。
彼女らは、もともとテッカー伯爵家の寄り子にあたる二つの男爵家の令嬢たちで、メリちゃんさんの幼馴染なんだとか。で、メリちゃんさんの境遇を知って、自分たちも不良少女になってみた、と。大好きなメリちゃんさんが寂しくないように……。
そんなことを言い合いながら、はにかみ笑顔を交わす少女たち。
瞬間。
ズギャン! と、わたしの脳髄に電撃走る――。
これは!
なんて尊い!
実にっ! 尊みあふれるシチュエーションじゃありませんか!
いやもー、はからずも、大変エモい、素敵なお話をきかせてもらいましたよ。ありがたやありがたや……。
事情を聴けば、なるほど納得。幼馴染たちの尊い友誼。まさに感じ入りましてございます。
……よろしい。ならばわたしも全力で、彼女らに力を貸しましょう!
って決意したものの、まだお話は途中なんですけどね。本題にすら入ってないですね。
なんやかや話を聞いてるうちに、もう通学路を抜けて、学園正門へさしかかっていた。
メリちゃんさんたちとはクラスが別だからね。今朝のお話はここまで。
「では、続きは後ほど」
「お、おう。放課後、そっちのクラス行くから、待ってて」
「じゃーなーっ」
「またなーっ」
挨拶を交わして、お別れするわたしたち。本当に仲いいな、あの三人……。
教室に入ると。
「みてましたよー、アルカポーネさーん」
ダイアナが、それはもう、にっこにこな笑顔で出迎えてくれた。
「D組の子たちとご一緒に登校されてたでしょう? もうすっかり仲良しさんですね!」
なんでそんな嬉しそうなの、ダイアナ……。
正直、まだそれほど、彼女らと仲が深まったわけではないけどね。
あの三人の関係性のエモさに、わたしが勝手に打ち震えてただけです。
その日のお昼は、学食にて、ダイアナと一緒にコミダセットをいただいた。例のパエリアとお野菜のスープのセット。
パエリアもスープもおいしくて、逆に驚いた。先日チョイスしたプランツォセットって、実は大外れメニューだったんだな……。そればっかり食べてたゲームのルナちゃんって、いったい。
ダイアナは例によって、わたしの三倍ぐらいの量を、ぺろんと平らげてた。彼女の胃袋も相当なものだね。アザリンと大食い勝負させたら、凄い光景が見られそうだ。
食後、ハーブティーなどいただきながら、ダイアナに、ある話題を振ってみた。
「同好会、ですか?」
ダイアナは、きょとんと目をしばたたいて、わたしを見つめた。ううむ。ダイアナって、こう正面から見ると、ほっぺが、ふっくらと上品な曲線を描いていて、すっごくやわらかそう。ぷにぷにーって、してみたい。
いや今はそこは置いといて。
「そう。ルードビッヒさまの魅力を語り合ったり、ルードビッヒさまとポーラさまの仲をこっそり応援したり、お二人のご様子を絵画や詩にしてみたり……近々、そういう同好会をつくりたい、と思ってるんですよ」
「まああ!」
途端、ダイアナは、両眼をキラキラと見開いた。
「素敵っ! 素晴らしいお考えです! ぜひにっ! わたくしも参加したいです!」
がばっと身を乗り出して、声をあげてきた。
おおう。想定以上の食い付きっぷり。
「もちろん、大歓迎です」
と、うなずいてみせる。
「ありがとうございますっ! それで、それでっ? いつ結成するんですかっ? 他のクラスのお友達も呼んでよいですかっ? 一応、入会資格や会の規則なども決めておきませんとっ」
うわー。乗り気とかいうレベルじゃない。断然やる気になっちゃってる。
「まだ思いついたばかりで、何も決めてはいないんです。でもよかった。ガルベスさんにご賛同いただけたのなら、まずは二人で同好会結成、ということにしませんか。そのうえで、どんどん賛同者を引っ張ってくる、という感じで」
「ええ、ええ! それがいいです! 同好会って、たしか学園の許可とかは必要ないんですよね?」
「そうです。なので、放課後、余裕のあるときに話し合ったり、活動したり、という形でやれたらと」
「わかりました! あっ、でも、今日はわたくし、午後に所用が……」
それはちょうどよかった。わたしも今日の放課後は先約あるしね……。
「なら、明日の放課後、詳細を詰めましょうか」
「ええ。楽しみにしております!」
ダイアナなら喜んで話に乗ってくれそう、とは予想してたけど、ここまで全力で食いついてくるとは。この情熱、本物だ……。
ところで。
そんなわたしたちの会話を、少し離れた席で、じーっと聴いてる人がいた。
そう、例の辺境伯家嫡男、黒髪のザレック・リヒター。
例によって、わたしが顔を向けると、ささっと目を逸らした。
なんなんだろうなぁ。一度、ちゃんと話を聞いてみる必要がありそう。
できれば、辺境伯家なんて雲の上のご身分の方とは、あまりお近づきになりたくないのだけど。
でもメリちゃんさんという前例もある。話せば案外、わかりあえるかもしれない。
問題は、どうやって声をかけるか、だけど……。
いまはまだ、後回しでいいか。他にやるべき案件が多すぎる。
放っといても、そのうち、あちらから接触を図ってくる可能性もあるしね。
まずは……。
その日、放課後。
授業が終わると、早速、わがC組の出入口前の廊下に、三人組が並んで待っていた。
「迎えにきまし……きたぜ」
「あねご、おつかれー」
「おねえさま、こっちっすよー」
いや、わたし、同級生ですからね? あねごとか、おねえさまとか、やめてね?
まずは、彼女らのお悩みを解消してあげないとね。
ともあれ朝のお話の続きを聞かせてもらいましょ。