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#153


 ダイアナと、少しばかり、今後の予定を話し合った。

 まず真っ先にやるべきは、結成したばかりの『魔法工学研究会』の活動拠点。

 これをどこに置くか、考えなければならない。

 残念ながら、学園内に、部室とか、そういう気の利いたスペースはない。なにせ部活動が存在しないので。

 中央の上級貴族の子弟だけが出入りするサロンみたいな部屋は複数ある。

 たとえばルードビッヒは、生徒会長なので、当然普段は生徒会室にいるのだけど、第三王子派諸侯の子弟の集まりみたいなサロンがあって、時々そこに顔を出したりもするらしい。

 もちろん、我々のような地方貴族には縁のない場所である。

 では学園の外、となると。

 ダイアナは寮住まいだし、そういう場に心当たりもない、という。

 そのダイアナが言うには。

「べつに、ここでもかまいませんよ?」

「ここはさすがに……」

 この裏庭、人通りもないし、それでいて陽当たりはいいから、天気さえよければ、のんびりできる場所ではある。

 それに、この学園内でも、いくつかの運動系の同好会が、グラウンドの隅っこを勝手に拠点として占有してたりする。

 ゲーム内でルナちゃんが所属する「ブラスボール同好会」もそんな感じで、屋外に勝手に天幕を張って、お弁当食べたり、着替えたり、競技用具の整備をやったりする。無許可でやりたい放題ですな。

 ただ、この裏庭って、校舎と塀の隙間みたいな、狭い空間だからね。

 わたしとダイアナだけならともかく……こんな狭い裏庭にテントとか張って、人数集めて活動するというのは、さすがに難しいと思うんだよね。

 わたしの家……わがアルカポーネ家別邸の一室を提供する、という手も、ないではないのだけど。

 できれば、それは最後の手段としておきたい。他にもっと便利そうな場所を、候補として見繕っておくべきだろう。

 相談できそうな相手……いるには、いるな。

「そうですね、今日にでも、ちょっと当たってみます。明日の放課後までに、候補を決めておきますので」

 わたしが告げると、ダイアナは、にっこり微笑んだ。

「ええ。お任せします。ふふっ、活動が始まる日が楽しみです」

 本当にわくわく顔で、目を輝かせてる。わかりやすいなぁダイアナ。

 そんな彼女に喜んでもらうためにも、素敵な拠点を確保しないとね!







 で。

 ここは王都エフェオンの中央区画、聖光教ガリアスタ大聖堂。

 の、事務室。

 居並ぶデスクのひとつ。

 わたしは現在、そのデスク上に、ぴょこんと正座した状態で、レオおじさんと向き合っていた。

「なあ。だんだん、酷くなってきてないか?」

 レオおじさんは、なにか悟りを開いた人みたいな無表情で、呟いた。

「なんででしょうね?」

「おれが聞きてえよ」

 はい。

 ダイアナとの「結成式」を済ませた後。

 レオおじさんに会おうと思ってですね。

 ガリアスタ大聖堂の門前に『転移』したわけです。

 したつもりだったんです。

 でもなぜか、執務中のレオおじさんのデスク上に、しゅいんっ! と『転移』しちゃったわけです。それもなぜか正座の姿勢で。

 この転移座標ミスは毎回、レオおじさん絡みのときだけ発生する。本当に理由がわからないのだけど、とくに実害はないからいいかなって、ほとんど気にしてない。

 レオおじさんのほうでも、ようやく慣れてきたっぽい。その兆しが、いまの態度に表れてるね。

「とにかく、机から降りてくれ」

「わたしは、このままでも全然かまいませんよ?」

「仕事中だ。いま、きみの下敷きになってる書類に、目を通してたとこでな」

「あ、そうですか……」

 わたしは、机の横へ、しゅたっ! と飛び降りた。

 ところでこの事務室でお仕事中なのは、レオおじさんだけではなくて。

 他に二人、白い貫頭衣を着た聖職者な方々が、それぞれデスクについて執務中だったご様子。

 知らない顔だけど……ここにいるということは、大聖堂所属の幹部級でしょうね。

「大天使さま! ようぞいらっしゃいました!」

「大天使シャレア様。ご機嫌うるわしゅう」

 その幹部らしきお二人。

 わたしがレオおじさんの机の横に立った時点で、急いで椅子から立ち上がって、わたしに向かって片膝をつき、拝跪の姿勢を取った。

 だからね。誰が大天使だって。毎回、こういう反応だからね。教会の人たち。

 わたしがいくら言っても、いっこうに改まらない。

 おかげでまともに話せるの、いまだにレオおじさんぐらいしかいない。困ったもんだなー。

「ねえ、その書類って?」

 レオおじさんのデスク上。つい今しがたまで、わたしのお尻の下敷きになっちゃってた紙の書類の束が、ぺちゃんこになっていた。

「リヒター辺境伯からの返書だ」

 ほう?

「ほれ、例の……山にトンネルを掘って、反対側に道路を通す計画があるだろ」

「あれですか」

 わがアルカポーネ領の西の境界、イレネル大山脈。その麓にトンネルを穿ち、山脈の向こう側と街道を繋げてしまおう、という豪快きわまる土木計画。

 聖光教会の発案、主導によるもので、計画責任者はレオおじさん自らつとめる予定。

 ……というと聴こえはいいんだけどね。実際には、昔、わたしから受け取った財宝がまだまだ余ってるので、その使い道のひとつとして、レオおじさんが思いついた計画のひとつだとか。たしかに相当おカネかかりそうだよね、トンネル工事なんて。

 で、そのトンネルの反対側というのが、他でもないリヒター辺境伯領。ザレックの実家ってわけね。

 それで、レオおじさんのほうから、辺境伯に、工事の許可を求める書簡を出したという。

 そのお返事が、いまわたしがプレスしちゃった紙の束……と。

 レオおじさんが、内容を要約してくれた。

「きっぱり断られちまった。こちらにメリットが何もない、だいたい本当にそんな工事が可能なのか、できるとして、こちらが負担を求められてはかなわん……ま、大体そんなことが書いてある。これは、またすぐに返事を書かんといかん」

 ふーむ。辺境伯のお人柄は、わたしもあまりよく知らない。まだそこそこお若いはずなんだけど、その話からすると、保守的なお人なんだろうな。

 まずは辺境伯を説き伏せなければ、着工すらできない。まだまだトンネル計画は前途遼遠みたいだね。

「それで? シャレア、今日はどうした」

 あらためてレオおじさんに問われて、わたしは自分の用事を思い出した。

「ええと。ふたつばかり、ご相談が」

 テッカー伯爵家をめぐる一件について、レオおじさんに筋を通しておかないと。

 伯爵には、教会と話をつけておく、と約束しちゃったし。

 それと、『魔法工学研究会』の拠点となりうる場所の相談ね。

 まずは、伯爵家の件から片付けるとしましょうか。





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