結果は惨敗だった。
と言うか、途中からの記憶が無いのだ。負けたと言う事実はわかっているのだが、どうやって負けたのか……なぜ俺はこんな謎の液体でべっちょりと濡れているのか……。思い出そうとするとなぜか体が震えてしまいどうしても思い出せないでいた。これも理由はわからないが、暗くて狭い場所にも恐怖を感じてしまう。生暖かくてしっとりしているのものが苦手になってしまった。一体俺の身に何があったのか……知りたいのに知りたくないと言う矛盾した感情が俺を襲っていた。
なので、その時に俺の側にいたであろう守護精霊に真実を語ってもらおうと考えたのだ。きっとフィレンツェア・ブリュードが何か卑怯な事をしたのだと真相を話してくれるはずだ。そう期待したのだが、俺の守護精霊であるスイギュウはなんと俺の姿を見た途端に真っ青になって泣きながらゲロリと何かを吐くだけ吐いて消えてしまった。あの時の恐怖の目が未だに忘れられない。スイギュウは……俺を見てなぜ怯えていたんだ?
結局、俺が濡れていた原因は俺の守護精霊のせいになってしまった。そのせいでせっかく築き上げてきた俺の評判はガタ落ちだった。強くてかっこいい俺はもういないのだ。
しかし!なぜ守護精霊が俺を裏切ったのかわからなかったが、それでも俺は諦めなかった。諦めたら、そこで試合は終了してしまうんだからな!それからも真実を暴くために訴え続けた。
だが悪いことは続くもので、噂は悪い方に尾ひれをつけてしまった。なんと「加護無しの公爵令嬢に無理矢理迫ってフラレた男」だと、なんとも不名誉な事を言われてしまったのだ。
学園での視線が痛い。そのせいでハンダーソン嬢にも会いに行く事が出来なかった。きっとハンダーソン嬢は噂を聞いて不安に思っているだろうが……まずはなんとか名誉を挽回しなくては。それまで俺に愛しい女性と会う資格はない!
ツラかったが、だが俺にはまだ騎士になるという夢がある。騎士になればきっと誤解も解けるはずだ。なぜなら騎士とは強くてかっこいいからだ!だから俺は再び父と母を説得しようとしたのだが……なんと父と母の方から「侯爵家の事なら親戚から養子をもらうから心配などするな。なんならスラング家から出ていってもいいぞ。その方が騎士になることに集中出来るだろう!よし、そうしよう!」と俺の夢を後押ししてくれたのだ。
父は青ざめ、母は泣いていたが……その時父の手にはどこからか送られてきたであろう手紙が握られていたようだった。もしかしたら学園長あたりが俺には騎士になる才能があると父を説得してくれたのかもしれないと思った。
剣術はてんで苦手だが、その分体を鍛えていたかいがあったな……筋肉は俺を裏切らない!おぉ、そうか。励ましてくれてありがとう左大腿四頭筋のフランソワ!
やはり筋肉は正義なのだ。これで堂々とハンダーソン嬢に会いに行けると俺は嬉しくて仕方がなかった。
こうして俺はスラング侯爵家と縁を切った。父が何度も「絶対に戻ってくるなよ!今この瞬間から赤の他人だからな!」と念を押してくる。たぶん、俺が騎士団での生活に音を上げないように叱咤激励してくれているつもりなのだろう。ふふ、不器用な父だ。父の気持ちはちゃんとわかっているつもりだ。
なんとも晴れやかな気分だった。きっとこの青空は俺の門出を祝ってくれているのだろう。騎士団に入れば……さすがに学園生活との両立は難しいか。なぁに、ハンダーソン嬢が側にいてくれればそれだけで俺は幸せだ。
これからハンダーソン嬢に……いや、ルルに会いに行ってプロポーズするんだ。そうしたらすぐに騎士団に入団させてもらって……学園長の推薦状があれば採用は確実だろう。そうだ、せっかくだから幼馴染みのあいつにも挨拶しておくかな────さぁ、新しい俺の始まりだ!
「……全部、うまくいくと思っていたのに……」
地面に突っ伏していた俺がずっと呟いていた独り言を、近くで黙ったまま全部聞いてくれていた
「……ルルは、俺に会ってくれなかった。探し回ってやっと見つけたと思ったら逃げられて……。そしたら第二王子が俺に警告だと言って剣を向けてきて……。だから、きっとまだあの噂を信じて俺がルルを裏切ったんだと思っているんじゃないかと……」
その時の事を思い出し、なぜルルは俺の言葉を信じてくれないのかと思ったら涙と鼻水が同時な垂れ出てきて地面を濡らした。しかし、抑揚の無い声が「それで?」と上から振ってくるとなぜか少しだけ気持ちが落ち着いた気がした。
「さ、先に学園長に会いに行ったんだ。きっと、推薦状をもらってきたら信じてくれるだろうと思ったから。でも、学園長にもあっさり断られてしまった……。騎士団に推薦どころか、侯爵家からはすでに除籍したと連絡が来ているから退学手続きの書類にサインをしろと……。
しかも……俺の守護精霊があれから返事をしてくれなくて……今までは呼んだらすぐに出てきてくれて、一緒に筋トレもしてくれていたのに……全然……と思ったら不安になってきて……」
「それから?」