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第62話 大天使ミカエル

 馬車から降りたアル達の前に一人の聖騎士が現れた。

 聖騎士はシドに向かって敬礼の様な仕草をした後、シドに話しかける。


「シド様、ようこそおいで下さいました。ここから先は私がご案内します」


 そう言うと、聖騎士は機敏な所作で方向転換し、ホワイトパレスに向かい歩き出した。シドは何も言わず聖騎士の後ろを歩いていくので、アル達もそれに続いた。


 ホワイトパレスへと続く道は左右に木々や草花が植えられ、職人によって只の木が芸術作品の様な様相になっている。それらを眺めながら歩くこと数分、ホワイトパレス本殿に通じる豪奢な扉の前に辿り着いた。

 扉の前には道案内した聖騎士とはまた別の騎士が門番をしており、聖騎士と一言二言話すと、騎士が扉の横にあるベルを鳴らした。

 すると、ベルの音に呼応する様に豪奢な扉が開かれた。

 聖騎士の案内で扉をくぐり、ホワイトパレス内に入ったアル達は神聖さに満ち溢れた内装に驚いた。

 入って一番最初に目に入ったのは天井まで伸びているステンドグラスだ。日の光を浴びたステンドグラスが色鮮やかに輝き、その存在感を増している。

 そしてその光を一心に浴びているのはミカエルを模した石膏像だ。本来白いはずの石膏像がステンドグラスの光を浴びて、まるでミカエル本人がその場に居る様な存在感を醸し出している。


 アル達が感嘆の思いでそれらを眺めていると、聖騎士に話しかけられた。


「心を惹かれるのは分かりますが、今はミカエル様がお待ちです。足を止めないようお願いいたします」

「す、すみません」

「では、まいります」


 アルが謝ると、聖騎士は再び歩き出した。ミカエルを待たせてはいけないという気持ちは理解できるが、聖騎士との会話が淡泊に感じた。

 それからいくつもの曲がり角を経て、他の扉と比べてひと際豪華な装飾がなされている扉の前でようやく聖騎士が足を止めた。

 聖騎士が扉をノックすると、鈴の音の様な声色の女性の声で「入れ」とだけ返事が返ってきた。

 返事を聞いた聖騎士が扉を開け、アル達に中に入る様に促す。

 アル達は促されるまま部屋の中へはいると、扉が閉められた。扉を閉めたのは聖騎士だが、聖騎士は部屋の中までは入って来なかった。

 また他の騎士に案内を引き継ぐのか? と疑問に思っていると、先程聞こえた女性の声が再び聞こえた。


「待っていたぞ、よくぞ参られた」


 声のする方へ向くと、そこには装飾が施された椅子に座っている赤い髪の女性が居た。

 シドはすぐさまひざまずき、言葉を述べた。


「御命令通りガブリエル様一行をお連れしました」

「うむ、感謝する」

「有難きお言葉」


 女性はシドにお礼を言うと椅子から立ち上がり、ゆったりした動きでアル達──いや、ジブリールに向かって歩き出した。そしてジブリールもそれに合わせて歩き出し、ちょうど部屋の真ん中でお互いが対峙した。

 一体どうなるんだ? と内心ヒヤヒヤしていたアルだったが、赤い髪の女性の態度が急変した。


「ジル、ひさしぶりー!」


 そう言ってジブリールに抱き着いた。抱き着かれたジブリールは真顔で返答する。


「久しぶりですね。ですがさっきまでのはなんなのですか?」

「あれはお仕事モードだよ~。肩が凝ってしょうがないわ~」

「そうですか、というかいつまで抱き着いているんですか」

「いいじゃない、久しぶりなんだから~」

「私は嫌です」

「相変わらずつれないんだからジルちゃんは~」


 赤い髪の女性が仕方なくといった感じでジブリールから離れた。

 アルはこのタイミングしかないと思い、ジルに質問した。


「ジル、もしかしてその女性が……」

「はい、ダルク教の教祖にして教皇のミカエルです」


 ジルがさらっと答えたが、アルには衝撃的だった。最初こそ威厳のある振る舞いだったが、ジブリールとのやり取りには一切の威厳は無かった。それどころかジブリールに甘える子供の様に写った。

 そんな人物がダルク教の教祖で教皇だと言うので更に驚き、開いた口がふさがらなかった。

 きっとシドも同じ心境だろうとシドを見ると、またかといった感じで頭を抱えていた。その姿を見たアルは、後に見せただらしない姿がミカエルの本当の姿なのだと察した。

 呆然としているアルを見たミカエルが、さっきまでとは打って変わって機敏な動きでスタスタと歩いてきて、アルの前で跪いた。


「ようこそおいで下さいましたルシフェル様」

「えぇ!」


 ミカエルの言葉に面を喰らうアルだが、それ以上に驚いていたのがシドだった。そのシドが立ち上がりミカエルに向かって動揺した様に質問する。


「ミカエル様、ルシフェル様というのはどういう事なのでしょうか!」

「どうも何も、この方は我々の生みの親であるルシフェル様の生まれ変わりなのだ」

「そんな……その少年が大天使ルシフェル様の生まれ変わりとは……」


 驚きを隠そうともしないシドに向かってミカエルが叱責する。


「シドよ、いつまで呆けている!」

「は、ははぁ! 申し訳ございません!」


 そう言ってシドは慌てて跪く。


「私の信徒がとんだ無礼を。申し訳ございません!」

「い、いや、俺は気にしてないから! というか、ミカエル? もそんなにかしこまらなくてもいいから!」

「ですが……」

「あぁ、もう! じゃあ命令だ! 普段通りに接しろ!」

「は! 畏まりました!」

「だからそれを止めろって言ってるんだよ~!」


 会って早々、ろくに会話もしていないのにこれから面倒な事になりそうだという予感しか感じられないアルだった。


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