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第63話 駄目天使

 アルに普段通りに接しろと言われたミカエルがスクッと立ち上がる。そしてそのままアルに抱き着いた。いきなりの事で驚くアルだが、その光景を見ていた一同全員が唖然とする。


「お、おいミカエル! 何してんだよ!」

「ずっとお会いしたかったです」

「答えになってない!」

「スーハ―スーハ―」

「ちょ、何を──」

「あぁ、もう我慢できません、子作りしま──ぎゃふん!?」


 何やら暴走していたミカエルの頭にジブリールのゲンコツが炸裂した。

 頭をおさえるミカエルをジブリールが力づくでアルから引き剥がすと、ミカエルに向かって怒鳴りつける。


「貴方はいきなり何をやっているんですか! 仮にも教皇でしょう!」

「だってだってしょうがないじゃない! 1000年ぶりの魔力に興奮しない方が無理よ!」

「それが天使の発言ですか!」

「そんなの知らないわよ! 私は私がやりたいことをするだけなの!」

「はぁ、教皇となって少しはまともになったのかと思っていたのですが、昔と少しも変わっていませんね」

「人は簡単には変わりませんー」


 二人の言い合いがまるで子供のケンカに見える。これが大天使の姿なのかと思うと残念な気持ちになるのは仕方のない事だろう。

 そんな二人の言い合いに、クレアが遠慮気味に間に入る。


「あ、あの……ミカエル様!」


 クレアに呼ばれたミカエルがハッとした表情をした後にクレアに向き直る。


「こほん。久しぶりですねクレア」

「は、はい」


 クレアの前だからなのか、ミカエルが最初の教皇様モードでクレアに接するが、それが逆に可笑しく映るが誰もそこには触れなかった。


「私の言った通りアルファードと一緒に旅に出たのですね。よく此処まで来ました。ミカエルの名において貴女に祝福をさず──ぎゃふん!?」


 厳かな雰囲気で話すミカエルの頭に再びジブリールのゲンコツが炸裂した。


「何を真面目ぶっているんですか! クレアは頑張って此処まで来たんです! もっと褒めてあげてください!」

「いったぁ~い! 今それをやろうとしてたのに~」


 再びジブリールとミカエルが言い争い、放ったらかしにされたクレアが「は、はは……」と苦笑いを浮かべる。

 このままでは話が進まないと判断したアルが割って入る。


「二人共いい加減にしろ! とくにミカエル! お前の啓示でクレアがどれだけ苦労したか分かってるのか!」


 アルの一喝で二人共ピシッと気を付けの態勢になる。名指しされたミカエルは額からダラダラと汗をかいて顔が引きつっている。その姿はおよそ天使もとい教皇が見せて良い姿ではない。現にその場に居るシドは白目をむいて倒れてしまった。

 シドが倒れた事で、この場は一旦解散となった。夜にもう一度拝謁の場を設ける事になり、アル達は客室で待つように言われた。


 客室着き荷物を置いたりしていると、客室の扉がコンコンとノックされ、その後に扉が開き、白い修道服を着た修道女が入ってきた。


「この度滞在されている間アル様御一行のお世話を任されましたアンリエッタと申します。紅茶と茶菓子を用意致しましたのでどうかごゆっくりおくつろぎください」

「ありがとうございます」


 アルがお礼を言うと、アンリエッタと名乗った修道女はテキパキとお茶の用意をし、無駄のない動きであっという間に準備が終わった。


「ではこれにて失礼します。御用の時はそちらのベルを鳴らしてください」


 アンリエッタはペコリと綺麗なお辞儀をして客室から出ていった。

 用意された紅茶を一口飲んだアルが驚きの声を挙げ、それに続きクレアも声を挙げる。


「こんな美味しい紅茶は初めて飲んだ! やっぱり高価な茶葉を使ってるのかな」

「確かに美味しいです! ですが茶葉は一般的な物だと思います。恐らくアンリエッタさんの淹れ方が上手いのでしょう!」


 美味しい紅茶を飲みながらアルとクレアが談笑していると、部屋の隅で正座しているジブリールから蚊の鳴くような声で二人に声が掛かる。


「あの~、私も飲みたいなぁ~なんて……」

「どうして正座させれているかちゃんと理解してるのか?」

「それはもう! 二度とあのような醜態は晒しません!」

「本当か?」

「はい!」

「はぁ~、分かった。こっちに来ていいぞ」

「ありがとうございます!」


 ミカエルにジブリールがいちいち突っ込むので話が進まなかった責任で正座させられていたが、アルの許しを得て嬉々としてソファーに座り紅茶を飲む。


「確かにこの紅茶は美味しいですね。王族であるクレアが褒めるのも納得です」


 と、ジブリールからもアンリエッタが淹れた紅茶は絶賛された。

 改めて紅茶の話題になったのでアルが疑問に思った事を二人に聞いてみる。


「そういえば修道服の色が人によって違うのはなんでなんだ? 確かダルク教の修道服や司祭服は赤を基調としてるのにアンリエッタは真っ白な修道服だったし」


 アルの疑問に答えたのはクレアだった。


「恐らくですが、見習いの段階では白い修道服なのではないでしょうか? 司祭様から祝福を受けて一人前の修道女と認められて初めて赤い修道服になるんだと思います」

「なるほどなぁ。というかあれだけテキパキ仕事が出来て見習いなのか! ダルク教って案外厳しいのかもな」

「そうですね……、反面教師なのでしょうか」


 クレアがボソッと反面教師と言った事で先程までのミカエルが脳裏に蘇る。


「クレア、それは考えない様にしよう」

「そうですね! きっと先程は久しぶりにジブリール様に会えて嬉しかっただけでしょう!」

「ははは」

「うふふ」


 アルとクレアが脳裏に浮かんだ駄目天使を笑って誤魔化す姿をジブリールが無言で眺めていた。ジブリールだけは知っていたのだ────アレがミカエルの本性だということを──── 

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