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【魔女集会の村ペイガン 1】

 世界各地の魔女達が集まってくるとされる秘密の村、

 そこは月の夜の下に、光の精霊達が集まり、まるで美しい花々のように輝いている。

 その村の近くにいるだけで、不思議と何か巨大な神秘的なものに触れたような気分になる。村に近付くにつれて、太古の謎の遺跡などが広がっている。


「とても綺麗な場所ですね」

 そうエシカは呟いた。

「ああ。そうだな」

 リシュアも頷く。


 長い旅路だったと思う。そしてこれからも長い旅路を続けたい。


 エシカは何か強い不安のようなものを、村に近付くにつれて感じ取っていた。それは自分自身そのものと向き合う事なのかもしれない。……なんだか、そんな不安があった。自分と向き合う事……? それは“災厄の魔女”として闇の森に封じられていた自分と向き合う事なのか?


 ただ、今は仲間達がいる。

 自分に優しくしてくれる仲間達。

 確かに闇の森の中にいた頃も、みんな森の魔物達は自分に優しかった。ただ、とてつもなく閉塞感があって、ずっと自分は閉じ込められて、外の事を何も知らなくて自分は一生、年を重ねないままに森の牢獄の中にいるのだと思った。


「何か私は私自身を見つけられるような気がします…………」

 エシカは不安そうな声を出す。


「そうか。エシカはエシカ自身を見つけられるかもしれないんだな」

 リシュアはエシカの手を握り締める。

 それは温かいぬくもりだった。


 ラベンダーとローゼリアの二人は、彼らを少し離れた場所から見守っていた。彼らの運命が幸せなものになればいい。二人共、そう思う。



 村へと向かう途中の山道で、浅黒い肌をした女性に声を掛けられた。


「あんたら、魔女集会へと向かっているのかい?」

 毛皮のような服を着た真っ黒な髪の毛を編み込んだ女は、エシカ達に訊ねる。


「貴方は?」

「あたしの名はヴォルディ。獣使いさ。動物と契約を交わしている魔女という事になるかな」


「獣使い? 興味深いですわね」

 ローゼリアはまじまじとヴォルディと名乗った女の顔を眺めていた。


「そういうあんたは、吸血鬼だろ? この辺りだと珍しいな」


「お互い、珍しい者同士。仲良くやっていきましょう」

 ローゼリアは冗談めかして言った。


「ははっ。違いない」


 二人共、妙に意気投合したのか笑い合っていた。


「魔女集会の村というのは、どのような場所なんですか?」

 エシカは毛皮をまとった女ヴォルディに訊ねる。


「毎年、一回、行われる魔女やシャーマン。自然主義者のドルイドを名乗る女達の集会だよ。まあある種の交流会みたいな場所だ。各国の者達が集まってくる」


「へえ。そうなんですね」

 エシカは興味津々といった顔になる。


 色々な魔女達が集まる村か。それはきっとお祭りみたいなものなのだろうか。どんな処なのかエシカはますます興味を持った。そもそも、エシカは見るもの全てが眩しいものだった。


「とにかく行ってみたいですっ!」

 エシカは楽しそうだった。




 エシカは孤独な時間を過ごし過ぎて、その孤独という感覚がある意味で麻痺してしまっていた。エシカを連れ出してくれた王子様であるリシュア。


 様々な街を回った。


 エシカはふと、予感がする。

 自分の正体は一体、何なのか。

 ある意味で言うと、ずっと自分自身、眼を背け続けている。本当の自分を知ってはいけないような気がする。もし知ってしまうと、リシュアとの……みなとの関係が壊れてしまうかもしれない。ただ、その不安だけがある。


 自分はかつて、沢山の人々と苦しめて殺したのだと聞かされている。

 その罰として闇の森の中に閉じ込められていたのだと。


 自分では背負いきれない程の罪。

 本来ならば、そんなものを背負って生きていかなければならないのだ。ただ、それを考えるとどうしようもないくらいに胸が苦しくなる。自分が生きているさえも申し訳なくなる。そしてみなと旅をして楽しむ事さえも。


 そういった色々な苦悩を隠しながら、エシカは明るく振舞っている。

 リシュア達を心配させない為に。


「大丈夫です? エシカさん」

 ローゼリアが物想いに耽るエシカに声を掛けてくれた。

 エシカは笑って誤魔化す。


「私も沢山の人間を殺めました。色々な経緯がありますが」

 ローゼリアはそれだけ、ぽつりと呟く。

 この吸血鬼の娘は、感受性が鋭い時がある。

 エシカはローゼリアに癒される事もある。残酷な部分もあるが、気遣いが出来る娘であるとも思う。




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