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【紺碧の湖】

 夜だ。

 明日には魔女集会が行われる。

 エシカは一人、寝間着のまま宿を抜け出して、外を散策していた。

 ディーバという魔女に会って、彼女は混乱した。


 夢の中、悪夢を見た。

 悪魔が現れて、彼女の罪を断罪するように想い出させた。

 かつての災厄の魔女と呼ばれていた頃のエシカ。記憶を掘り起こされ、自分が本当に罪人なのだと思い知らされた。いつもニコニコ笑っているエシカは、仲間達と笑っていてはいけないのではないかという想いにさえ駆られた。生きているだけが罪。本当は永遠に時間を闇の森で過ごす罰が与えられた者なのだと理解しなければならなかった。


 ……それでも、リシュアは自分を外に連れ出してくれた。

 だから、こんなに遠くまで来たのだ。

 きっと、それは想い出の一ページ一ページを飾っていく事なのだと思う。色々な人達と出会い、色々な村や街に訪れ、色々な危険な目にあった。


 償いのようなものが旅の中で出来ると思った。

 けれども、自分は色々な面が未熟で、リシュアやラベンダーの力を借りなければ、街で起こっている問題一つさえ解決する事が出来ずにいた。


「なんだか、私は本当に自分の為だけにしか生きていなくて、自分の事しか考えていない…………」

 ふいに、そんな事を呟いてしまう。


 村を歩いていると、崖のような場所があった。

 そこから、湖へと通じる団体があった。この湖は海へと通じているのだろうか。ふと夜の湖を見ていると、吸い込まれそうな気分になってくる。自分は生きていていいのだろうかとか。そんなネガティブな感情が湧き上がってくる。


「どうしたいんだい? エシカ」

 ふいに、後ろから声を掛けられる。リシュアだった。


「もう、お身体は大丈夫ですか? リシュア?」

「ああ。薬草を口にして、もう大丈夫だよ。本当に恥ずかしいよな」


 恥ずかしい、か。

 リシュアもある意味で言えば、この地に訪れた特殊な力を持つ魔女の被害者になったと言える。不気味な天使が現れる空間に迷い込んで、まるで二日酔いのような感覚になって空間から出た後も苦しんだそうだ。


 超越的な力を持つ魔女達。

 それは自分達を苦しめる存在でしかないのかもしれない。

 この地で行われる魔女集会に関しては、かなり興味がある。

 大きな祭りではなく、ひっそりと行われる儀式。

 もしかすると、集まる魔女達は、みな、心の闇や自身の罪を抱え、それを凄惨する為に生きているのかもしれない。実際、ティアナも冒険者だった頃に、仲間達を、ゴルゴンという強大な怪物に殺されて、それを悔いている。…………。


「寒いよ。そろそろ風邪引くよ。戻ろう」

 リシュアが優しく言う。

 いつも……リシュアの言葉には、生きる事に対して励まされる……。


「はいっ!」

 魔女集会はいよいよ、明日の夜だ。

 エシカはリシュアの手を取り、宿へと戻る事にした。


 紺碧の湖は、何処までも底の無い心の深淵のように揺らめいているのだった。


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