リシュアと一緒にいると、見るもの全てが美しく、見るもの全てが楽しい。
エシカは窓の外の景色を眺めながら、ホットココアを口にしていた。
外は猛吹雪になっている。
明日の昼頃までは止めないらしい。
「何か、時間潰しでもいたしますか?」
ローゼリアは訊ねる。
「時間潰しですか」
エシカはぼうっとしながら、考えていた。
ひとまず、旅の荷物の中には、トランプなどがある。だが、それは馬車の中で頻繁に行っていて、飽き始めている。
代わりの提案は何か無いだろうか、リシュアも椅子に座りながら考えていた。
「では、怪談とかいかがです? 私は怪談など、面白いと思いますの」
ローゼリアは意外な提案を行う。
怪談か。
自分達はこれまで、ゾンビ、狼男、殺人鬼、悪魔と色々な者達に会ってきた。今更、怖いものなんてあるのだろうか。
「お前、自分が吸血鬼なのに怖いものとかあるのかよ?」
「ありますわよ。本当に、船の上とか怖かったですし。それに納豆というねばねばした辺境の国の食べ物も駄目ですわ」
「それは怪談とかにはならないだろう」
リシュアが呆れた声を出す。
「話しますわね」
「話してみな」
ローゼリアが得意げに怪談を語り始めた。
「ある雪の日の事です。ある一人の猟師がいました。その猟師は、自分達の住んでいる小さな村にやってくる大きな黒い怪物をどうにかしてやっつけようと考えていました。黒い怪物は、とても強く、どうやっても猟師が倒す事は出来ません。猟師が黒い怪物を放置している間に、どんどん黒い怪物は沢山の犠牲者を出していきました……」
「怪談なのか? それは」
リシュアは、ローゼリアの語り出す話の意図が何となく分かってしまった。
「で、黒い怪物をどうしようっていうんだ? 猟師は」
リシュアは不機嫌そうに、頬杖を付く。
「罠を仕掛ける事にしました」
「罠?」
「その怪物の欲する餌に毒を仕込んだのですわ」
ローゼリアはそんな事を語り出す。
「毒を仕込むか。正面から戦わずに?」
リシュアが訊ねた。
「はい」
ローゼリアが頷く。
「その怪物の弱みに付け込んだのです」
雪がごうごうと鳴り響いていく。エシカはぼうっと、外の景色を眺めていた。それにしても怪談か。エシカは幽霊とかを怖いとは思わない。一番、怖いのは自分自身だった。自分自身と向き合うのが怖い。あのリンディという少女は、自分の鏡のようなものだ。だからこそ、ある意味で言うと、あの少女の事を考えて引きずらざるを得ないのだ。そして、やはり彼女とは対決しなければならないだろう。それは自分自身との対決なのかもしれない。
「私が猟師だったら、絶対に諦めません!」
エシカはその言葉が自然と口に出ていた。
「怪物のねぐらに戻って、何度でも、その怪物と戦います」
「そうですの? その真っ黒な怪物を倒すには“銀の弾丸”が必要ですのよ? それでもエシカ。その怪物と戦いますの?」
「はい!」
えしかは頷く。
「ラベンダー。リンディさんは、何処に向かったと思います?」
エシカは部屋の奥にうずくまっているラベンダーに訊ねる。
<何処にも行っていないだろ。あの村、セルキーの教会に戻って、また儀式を行っているだけだろう。あの女は狩りをしに行っただけだ。どうせまた戻ってくるだけだ。あの教会が奴の拠点みたいだったからな>
ラベンダーは断言した。
エシカは息を飲む。
自分は今、思い詰めているのだろか。
雪はごうごうと鳴り響いている。
エシカはリシュアの処に行き、リシュアの腕を固く握り締めた。リシュアも頷く。
「そうだな。俺達は、黒い怪物を退治していない。猟師として。だから、退治しに行かなければならないな」
みな、気持ちは同じだった。
窓の雪はますます吹雪いていく。
リシュアは窓を見ながら、じっと考え事をしていた。
†
二日後、シンチアへと向かう船に乗った。シンチアに戻ったら、それからセルキーへと向かう。四人で計画を立てていた。