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【再びセルキーへ。】

 教会ばかりの村。セルキー。

 その中にある、とある教会へと四人は向かっていた。

 まるで、四人を待ち構えていたかのように、邪悪な修道女リンディはいた。

 修道女姿ではなく、今宵も真っ黒なマントを羽織っている。

 夜の闇の中に吸い込まれるように、彼女は嘲り笑っていた。

「血の匂いが前回よりも、濃くなっていますわね」

 ローゼリアが告げる。

 リンディはこの数日間の間で、更に沢山の人間を殺している。

 四人が止めなければ、彼女は幾らでも犠牲者を増やすだろう。

 リンディの背後から、巨大な魔方陣が出現する。

 そこから、大量の人間の腕が現れる。

 そして、その腕の中央に甲冑を纏ったような男がいた。

 リンディの召喚する悪魔。リンディが契約している悪魔。バヤルザードと言ったか。まずは、それとリンディを引き剥がす事がラベンダーの計画だった。ラベンダーは激しい稲妻の猛攻によって、リンディの背後にいるものを攻撃し続けていた。

「ふふふっ。無駄で仕方ないのになあ?」

 彼女はせせら笑う。

 何もかも、余裕といった口ぶりだ。

 だが、計画を練っていたのはリシュア達の方だった。

 リシュアは刃物を取り出し、光のヘビを生み出していく。ヘビの頭はくるくる、と、回りながら、リンディに向かって突撃していった。リンディの嘲り笑いは止まらない。彼女は光のヘビを難なく避ける。だが、それは囮だ。彼女は背後を攻撃されている事が分かったみたいだった。

 エシカも悪魔バヤルザードを炎の魔法で攻撃し続ける。


「よくも…………」

 どうやら、リンディにはそれが効いているみたいだった。

 リンディは四人を睨み付ける。


「汝は忘却の彼方に消える。汝は時の歪みに魅入られて、時の流れに貪り食われる。昼と夜が燦然と続き。終わりの無い饗宴が始まる。永遠の時間。永遠の刻限。それらは貪る命と共に終わり、始まる。神よ魔よ、我らを漆黒へ、酷薄へと導き給え」

 何やら、奇妙な歌をリンディは詠唱していた。

 契約の際の文言なのだろうか。


 魔方陣は巨大化していく。

 魔方陣は膨張していく。


 そして、大量の黒い得体の知れない魔物が、魔方陣から吐き出された。黒い獣の群れだ。ラベンダーはそれを電撃によって、打ち倒していく。

「うふふふふっ。お馬鹿さんねえ。私は本当に悪魔と契約しているのよ? 私を倒そうとするなんて…………」

 瞬間。

 リンディの首元に、ナイフが入れられた。

 ローゼリアだった。

 リシュアは人を殺せない。

 エシカも人を殺せない。

 だから、その役割は、ローゼリアが行う事に自然となった。


 ごとり、と、リンディの首が地面に落ちていく。



 リンディの思考が、辺り一面に漏れ出していく。


 リンディは幼い少女だった。

 十六、七の時に、好きになった人がいた。

 リンディは図書室にて、誤って、悪魔を見つけて、悪魔と契約する事になった。

 それから、不幸は行った。

 悪魔が、永遠が欲しいか?と説いた。リンディは好きな人と永遠に生きる事を望んだ。そして、悪魔はリンディの恋人をアンデッドへと変えた。心の無いアンデッドへと。リンディはそれから絶望した。そして、別の悪魔と契約して、恋人の魂を取り戻そうと思った。その代償として、沢山の人間を殺す必要があった。リンディは狂気に心を蝕まれている。

 そして、リンディの運命は決まった。


 エシカは涙を流していた。

 その時のリンディの悲しみ、絶望が心に入り込んできたからだ。

 辛い彼女の思考。そういう生き方しか出来ずに、何十年もの間、悪魔に不死にされて生き続けているリンディという少女の思考。悪魔に心が囚われたものの思考。それは果ての無い孤独だった。


「貴方も違った形の私だったのですね…………」

 エシカは言う。

 頭部を失ったリンディの胴体が、地面へと落下していく。

 リンディの身体は魔方陣によって落下直前に消されていった。

 そして、リンディと契約していた悪魔バヤルザードは何処かへと消えていってしまった。後には虚無ばかりが残った。


 雪が辺り一面に振り始めていく。

 このセルキーの村にも、雪が訪れたのだった。

「……寒いな。リシュアが呟く」

 まだ、宿を取っていない。

 開いている宿はあるだろうか。

 時刻は、12時を過ぎていた。

 だが、闇と契約した悪魔の申し子であるリンディを倒す事は出来た。これで彼女による犠牲者はいなくなるだろう。

 今日は仕方なく、四人で野営を決め込む事になった。

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