兄であるアルデアルに連絡して、この街に巣食うブラッド・サッカー達を本格的に討伐したいとローゼリアはエトワールの街まで戻る事を先日、話した。
どうしても、人間達に害を為す吸血鬼達を赦す事は出来ないのだと。
「別に今生の別れではありません。また頻繁に会えると思いますわ」
ローゼリアはそう告げる。
「まあ。そうだよな」
<いつでも会いに来いよ>
「会いに来いって…………。いつも放浪しているんですから、ちゃんと会う場所を伝書使などを使って、決めてくださらないと困りますわね」
ローゼリアは、はあっと小さく溜め息を付いた。
数日間はエラルドとエルベルクの経営する宿に泊まって、この街、スカイ・フォールを堪能する事にした。ブラッド・サッカー達の血で塗れてしまった為に、南国の美しいビーチを泳ぐ事は止めにしたのだが、代わりに街中を散策する事にした。ローゼリアは街の人間から忌まわしい者を見るような眼で見られる事が多かった。吸血鬼。ただ、その事実だけで彼女が嫌悪される理由はこの街では事足りるのだ。なんだか、リシュアもエシカも不愉快な気持ちでいっぱいだったが、ブラッド・サッカー達のやってきた事を考えるとそれも仕方ない事でしかなかった。
「っていっても、なんだか釈然としないな………」
そう言って、リシュアは少し怒っていた。
「まあ、仕方ありませんわ。特に出入り禁止の場所はありませんし、それにエラルド様達は私達にとても感謝してくださいましたよ。猟奇殺人鬼共を始末してくれて、やっと、宿に客が戻りそうだと」
ローゼリアは何だか誇らしいような声で言った。
実際、ローゼリア達は人助けをしたのだと思う。
それはある意味で言えばエシカも嬉しかった。
過去の消えない罪。
沢山の人々を殺めた罪。
その十字架をエシカは背負っている…………。
だからこそ、こうやって少しでも他人に役に立てるという事は彼女にとってそれ自体が罪の償いに他ならないのだ。きっと、それはエシカが生きている限り行うのだろう。かつての無邪気で残酷に人を殺していたエシカ自身と決別する為に…………。
「なんか辛気臭いな。ほら、街の観光スポットである水族館にでも行かないか? 天蓋を魚達が泳いでいる海底水族館。天空水族館が売り文句の場所があるみたいだけどさ」
リシュアはそう言って街の地図をローゼリアに渡した。
「確かに、これは楽しいそうですわね。私はペンギンとアシカを見てみたいですわ」
ローゼリアは嬉しそうに言った。
そして、四名は水族館に辿り着く。
ローゼリアは少し店員に険しい眼つきをされたが、無事、館内に入場する事が出来た。
リシュアは何か言おうとしたが、当のローゼリアは平気そうな表情をする。
「今日はみんな楽しく、お魚をみましょう」
彼女はそう笑った。
色取り取りの珊瑚礁が四方の水槽から映し出されていた。四人は水槽の中に入れられたみたいだった。
魚達が沢山、珊瑚の中を泳ぎ回っている。とても神秘的な光景だった。そして、奥へと進んでいくと、今度はクラゲのいる水槽へと辿り着いた。変幻自在に形を変えるクラゲ達は不可思議で美しかった。更に奥へ進むと、透明なガラスケースの部屋に入って、まるで身体全体が水の上を歩いているような。四方が水槽である為に、身体全体が海底の世界へと投げ出されたような不可思議な気持ちに魅了された。巨大なサメやクジラが泳ぎ回り、ウツボが珊瑚の中から顔を出す。とてつもなく幻想的で、みなそれらに見とれていた。
奥に行くと、ローゼリアが楽しみにしていたペンギン達の姿があった。ペンギン達は水の中を泳ぎ回っていた。
「とても可愛らしいですわね」
そんなローゼリアは珍しく、普通の女の子みたいだった。
エシカはいつものように楽しそうに色々なものに見入っていた。
水族館の最奥では、アシカに曲芸を教えている者がいた。アシカ達の芸を見て、ローゼリアは思わず拍手を行っていた。
リシュアは気付いていた。
館内にいるローゼリアの姿を見て、何だか嫌悪感を抱いている者が何名かいる事に…………。ローゼリアが不快な気持ちにならなければ良い。リシュアはただただ、それだけを願った。
そして、水族館を出た後、貝殻などをアスレチックに散りばめた大きな公園を見つけた。公園には屋台が幾つかあり、南国のパフェや貝殻のアクセサリーなどが置かれていた。エシカはふと、貝殻のアクセサリーを手にする。そしてそれを購入してローゼリアに渡す。
「これ、私からのプレゼントですっ!」
エシカは言う。
「プレゼント?」
「このアクセサリーを見て、私達を想い出してくださいねっ! 旅の記念ですっ!」
「私は一度、城に戻り、この街に戻る事に決めておりますので、この街にいれば、このようなアクセサリーなどいつでも眼に出来ますのに…………」
ローゼリアはそう言いながらも、アクセサリーショップに寄って、今度はローゼリアも貝殻のアクセサリーを買ってエシカに渡す。
「では、私からも。これは私からの贈り物ですわ」
二人共、貝殻のペンダントを付ける。
とても可愛らしい。
「なんだか私好みじゃありませんわね…………」
ローゼリアはそう言いながら不貞腐れた顔をする。
「いえ。似合っていますよ。私は似合っていますか?」
エシカは訊ねる。
「エシカは似合っていますわ」
ローゼリアは笑う。
最後に、クラゲを象った菓子の入った飲み物をみなで購入して、それを手にしながら四名は公園を後にした。もうすぐすれば夕日が沈むだろう。四名での旅は明日までだ。それまで、大事な想い出を作ろうと、四人とも想ったのだった。