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『花の街キテオン 4』

 そして、エシカはリシュアと共に花の街キテオンを回った。

 様々な露店、美しい景色。


「こんなに世界は輝いて見えるのね」

 エシカの声で、別の人間がリシュアに語り掛けてくる。

 リシュアは、やはりどう反応すればいいか分からない。


 ロンレーヌ女王が処刑された塔へと辿り着いた。


「あそこに入りますか? あそこに興味があります?」

 エシカは独り言のように、自分自身に語り掛けているみたいだった。

「あそこは興味が無いよ。本来なら、私とは関係が無い、同じ名前を持つ私よりも百年くらい前に生きた女王様を祀っている場所だから」


 エシカは自分自身と会話しているかのように、リシュアには見えた。

 リシュアは考える。

 結局の処、この国の女王をしていたロンレーヌが本当に民の為に政治を考えていたのかは分からない。それに関しては諸説あるのだから。けれども、エシカに乗り移った幽霊。百年くらい後に誕生して人身御供になって死んで霊となった少女は、確かに民の為に生きたのだから。生きたのだからこそ、少しくらい時間が欲しい。自分自身の人生を楽しむ為の時間が。


 この幽霊と一緒にしばらく共存出来ないだろうか、と、リシュアは思った。

 彼女の幽霊がいなくなれば、しばらくの間は、聖クイーン教団の者達は困る事になるのではないだろうか。


「……いつまでも、エシカの身体に入られても困るしなあ…………」

 それがリシュアの本音だった。

 何か別のものを媒介にして、しばらくの間、一緒に旅が出来ないかと思った。それでふと思い付いたのが“人形”だった。人形を媒介にして旅をする事が出来るかどうかを、少女ロンレーヌの幽霊に訊ねてみた。


「出来るかもしれないよ」

 彼女はそう答えた。


「なら。骨董屋とか、ぬいぐるみ店とか、そういう場所に行かないとなあ…………」

 二人は、骨董店へと向かった。

 そこでちょうど良い少女の人形を見掛けた。

 そして、それを買う事にした。


 二人は宿を借りに向かった。

 聖クイーン教団からは、この街を旅立つまでいても良いと言われていたが、少女ロンレーヌの幽霊に出会ってから、そうもいかなくなった。リシュアは教団に置いた旅の荷物を取ってくると言った。少女ロンレーヌの身体は、小さな骨董品の人形に移る事となった。


 世界中を旅する仲間が増えた。

 エシカはとても嬉しかった。

 宿の部屋で人形の身体に移った少女ロンレーヌは、とても楽しそうだった。球体関節の身体をした人形を選んだ為に、上手く関節部位を動かせるみたいだった。


「こんなものですみません…………。上手く身体を動かせそうですか?」

 エシカは訊ねる。


「ううん。私の魔法の力もあるから、この身体で充分。あと、服が少し汚れているから、お洗濯して欲しいかな?ってくらいかな」

 ロンレーヌは、そう答える。

「はい! お洋服の洗濯くらいいたしますわ!」

 エシカは、なんだか、この少女が可愛らしく思えた。

 自分と少し境遇が似ているからだろうか?


 いや、全然、違うのかもしれない。

 それでも、エシカにとってこの少女はとても親しく感じるものだった。

 これからの旅において、しばらくの間、この少女は旅の同行人になるのだろう。旅の仲間が増えるという事はとても良い事だった。


 ただ、リシュアとの二人だけのデートの時間は減るなあ、とも思った。


 しばらくして、リシュアがバッグに荷物を詰め込んで戻ってきた。この花の街、キテオンを明日には離れる事になった。


「なんだか、帰りにお菓子を貰ったよ。最後までいい人達だったな。あの教団の人達って」

 リシュアは貰ったクッキーを手にしながら、エシカのいる宿へと向かった。何処かへと行ったラベンダーもすぐに合流するだろう。また新しいメンバーを加えての四人旅が始まる。


 やはり、旅の仲間は多い方がいいな、とリシュアは思った。

 賑わっている方が旅は楽しいものだ。


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