強大なヘビのようなドラゴンであるアルダージュのいる沼地へと、四名は向かっていた。
そこは不気味な場所で、まるで沼全体が自分達を飲み込もうとしているかのようにも思えた。正直な処、歩みを進めるのは気がひける…………。
それでも、エシカとロンレーヌは楽しそうだった。
色々な場所を見てみたい、自分の知らない世界を見てみたい。そういった共通の目的を二人は抱えていた。リシュアもそうだった。この旅で色々な知り合いが出来た。旅の仲間が出来た。とても喜ばしい事だった。
<とにかく、この辺りは毒蛇や血吸いヒルなども存在するから気を付けろよ>
ラベンダーは慎重に沼地を警戒していた。
所々に奇妙な遺跡のようなものが見える。
古代の遺物といった処だろうか。
ある意味で言えば、奇怪なものとして四人の眼には映った。何か不気味で得体の知れない者達が潜んでいるような場所のような……。
「なんだか、この辺りは怖いですね……」
エシカは言う。
「確かにそうだな。俺達は怖ろしい場所に来てしまったのかもしれない……」
リシュアも同意する。
けれども、みなで決めた事だから進む事を止めるわけにはいかない。生い茂る雑草などをかき分けて、四名は沼の奥へ奥へと進んでいった。
そして、しばらくして神殿のようなものが見つかった。
「あれはなんだろう?」
リシュアが呟く。
<おそらく、あの奥に、アルダージュがいるんじゃないのか? 中に入ってみる価値はありそうだな>
ラベンダーが指揮を執るように言う。
「そうだな。中へと入ってみるとするか。……ラベンダー、みなに危険が及んだら、すぐに脱出しよう。それでいいな…………」
<今回も俺頼みか。……まあいいだろう>
ラベンダーは渋々頷く。
そして、四名は神殿の階段を登り、神殿の中へと奥へと入っていく。
中はまるで、迷宮のようになっていた。
一体、どうやって進めばいいか分からない。もしかすると、奥へと進んでいくにつれて悪辣なトラップなどが仕掛けられているのかもしれない。リシュアは警戒しながら中へと入り込んでいく。エシカは炎の魔法を指先から灯して、電灯代わりにしていた。人々を死へと導く罠が仕掛けられているのかもしれない。此処は極めて危険極まりない場所だった。もちろん、此処はいわゆるダンジョンと呼ばれるような場所だろう。どんな魔物が奥に生息しているのか分かったものではない。
「とにかく、何がいるか分からないから気を付けないとな…………」
リシュアもカバンから懐中電灯を取り出して、辺りを照らしていく。
いつ、魔物が現れるか分からない。闇の中、襲撃されたら、とてつもなく怖ろしいものでしかなかった。リシュアはいつでも短刀を取り出せるように動く。光の刃によって現れた怪物を切り付けてやろうと思った。
闇の中から物音がする。
リシュアは身構える。
次々と、多頭の蛇達が現れる。伝説におけるヒドラの類だろうか? それにしては、小さかった。リシュアは次々と現れたヘビの怪物達を光の刃によって切り付けていく。
<おそらく、あの蛇達は、何かを守っている。あの蛇達が多くいる場所に何かがある筈だ!>
ラベンダーが叫んだ。
エシカも炎の魔法を駆使しながら、蛇の怪物達を焼き払っていく。
そして、みなで奥へ奥へと進んでいった。
しばらく行くと、大きな空間が広がっていた。
そこは、まるで誰か人々が手入れしたような場所だった。まるで巨大な用水路のような場所になっている。あるいはダムだろうか。モンスターの類のようなものは、此処にはいない。
ラベンダーが翼を翻して、辺りを見回していく。
そして、水路の奥の場所まで翼を広げていって、一度、何かを確認するとこちらの方へと戻ってきた。
<どうやら、この水路だが、あの湖と繋がっているみたいだな>
この遺跡は、どうも何か人工的なものによって手入れされているみたいだった。おそらく、何かあるのだろう。四名は更に奥へと進む事にした。
水路から湖へと繋がるルートとは別の方向へと、四名は歩いていく。
何かの気配を感じた。
どうやら、何かが水路の中で泳ぎ回っているかのようだった。
「誰ですか?」
エシカは訊ねる。
ただ、水音ばかりが聞こえる。
エシカは何者かがいると思われる、場所へと近付いていく。
すると、そこには何名かの人影のようなものが現れた。
「人ですか? 此処に住んでいらっしゃるのですか?」
エシカは訊ねる。
「いいえ。私達は人間ではありませんよ」
人影はそう答えた。
人影は姿を現す。
どうやら。彼らは下半身が魚になっており、全身が水のようになっている人魚のような姿をした者達だった。伝説にあるような人魚。彼らは男も女もいた。
「貴方達はなんでしょうか?」
エシカは訊ねる。
「我々は貴方達、人間が言う処の“ウンディーネ”。水の精霊と呼ばれる存在です」
彼らのうち、一人が答える。
「ウンディーネの皆さまは、この辺りに住んでいらっしゃるのですか?」
「はい。我らは偉大なるドラゴンであるアルダージュ様に仕えています」
女性のウンディーネがそう答えた。
「あのドラゴンは、人間の村で何をしているんだ?」
リシュアは訊ねる。
「それは、天候を操り、天候が人々に害を為さないように現れているのです。どうやら、人々のほとんどは、アルダージュ様が、人間に害を為す邪悪な存在だと考えているみたいですが。それは違います。あの御方は、人々を導いているだけなのです。とても悲しい誤解を受けているのです」
ウンディーネの一人は、そう涙ぐんだ。
「そうだったのですか? あの地震は?」
「地震が起きる事に関しては、地盤が緩んでおり、アルダージュ様はあらかじめ、地震の警告の為に現れていると言っても過言ではないです。そして、もうじき、あの村には大地震が起きます。それをアルダージュ様は警告しているのです!」
ウンディーネの一人は必死で訴える。
「けれども、警告は届いていないみたいだ。どう伝えればいい? あんたらが直接、行って伝えればいいんじゃないのか?」
リシュアは訊ねる。
すると、ウンディーネの一人は首を横に振る。
「私達が直接、出向かって、警告の言葉を発する事は固く禁じられております。それは昔からの伝統的なものなのです。あの村に住む者達は幾度となく地震によって多くの者達が亡くなってきました。かつて、我々はそれを警告しました。けれども、彼らの多くは耳を傾けませんでした……………。悲しい事です」
「そうなんですか…………」
エシカは悲しそうに心が沈む。
「なあ。アルダージュに会わせてくれないか?」
リシュアは提案する。
「喜んで」
ウンディーネ達は、四名を水路の奥へと案内した。
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