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『妖精達の森 1』

 この辺りの人々は特に竜や妖精といった、人間ではない者達を警戒している。

 もちろん、魔物の類はあらかた警戒しているみたいだった。

 当然、吸血鬼もよく思われていない。

 ローゼリアが今、旅の仲間にいたとしたら、彼女は随分と窮屈な思いをしたかもしれない。


 四名は馬車に乗りながら、森の中を進んでいた。

 この辺りの森は、妖精が住むとされている場所らしい。

 エシカとロンレーヌは、さっそく、妖精を見てみたいと言っていた。


「また、面倒事になっても知らないぞ」

 リシュアは馬車の中で言う。


「面倒事になったとしても、誰かの助けが出来るならいいじゃないですか!」

 エシカは穏やかな表情をしていた。相変わらずだな、と、リシュアは笑った。


 ごとり、ごとり、と、馬車は山道を動き続ける。

 特にあてもない場所を目指して、特にあてもないままに四名は何処かへと向かっていく。リシュアは地図を見ながら、この先、どうしようかと考えていた。この辺りには妖精が住む森があるのだと地図が書かれている。ただし、妖精は人間を警戒しているとも書かれていた。


「今度は妖精に会ってみるのも良いかもしれませんね!」

 エシカはにこにこといつものように楽しそうな笑みを浮かべていた。

「確かに私も妖精に会ってみたいな」

 エシカの傍にいる少女人形もぱくぱくと口を開いて喋る。


「妖精にも良い妖精と悪い妖精がいるのだろうか?」

 リシュアはふと、そんな事を告げる。


「もちろん、人間と同じように良い妖精も悪い妖精もいると思うよ」

 ロンレーヌはそう返した。


「じゃあ、もし、俺達がこれから妖精と出会うとすれば、良い妖精だといいな」

 リシュアは、言うと、ごとん、と、何か変な音がした。

 馬車はとまる。

 どうやら、車輪の一部が壊れたみたいだった。

 御者は急いで、車輪を修理すると言って車輪の方に向かう。


「なんか、車輪が壊れたみたいだし…………。しばらく、この辺りを散歩しないか? 何か妖精と会えるかもしれないらなあ」


 エシカとロンレーヌはそれに賛成した。

 ラベンダーはいつものように、馬車の中で留守番という形になった。



 三名は森の中を進んでいくと、小さな村落のような場所に辿り着いた。

 さっそく、彼らは村落に入ってみる。


 すると、村落の奥から、蝶の羽の生えた小さな人間のようなものが現れた。一般的な人間のようなこの辺りで村人が来ているような木綿の服を着ていた。性別は不詳だ。綺麗な金髪がうねっていた。伝承によるとフェアリーという種族らしい。


「こんにちは。人間さん、今、妖精同士で戦争をしているんです!」

 フェアリーは、さっそくとんでもない事を告げた。

「妖精同士で戦争、なのか?」

 リシュアは言われて戸惑った。

「はい。私の名前はシシャ。フェアリーの妖精の一人です。この辺りにはレッドキャップと呼ばれている真っ赤な頭部をした別の妖精達が、フェアリーと対立しています。レッドキャップ達はとても残忍で、話が通じるような相手ではありません…………」

 そう言うと、シシャは急に泣き出し始めた。


「そうか。何か手伝える事があれば、手伝うけど…………」

 リシュアが困って泣きじゃくる、シシャに対してどうしたらいいか戸惑っていた。


「では。レッドキャップ達を全部、退治して戴けませんか? 奴らは虫ケラにも劣る下等生物です! 私達フェアリーはとても困っているのですっ! 奴らを退治してくださいましたら、貴方達を未来永劫まで英雄として祀ろうと思っていますっ!」

 フェアリーの妖精は、ぱあっと明るい顔をしていた。


「彼らの助けになるのでしたら、虫ケラ退治もいいんじゃない?」

 ロンレーヌはそう言う。

「でも、向こうには、向こうの事情があるかもしれません。今までだって、そういう事は結構ありました。ですから、それを踏まえて向こうの事情を組んでみて、対話してみるのも良いかもしれませんよ?」

 エシカはそんな事を言い出す。


 すると、シシャは真っ赤な形相をした。


「いいえっ! レッドキャップ達はとても残忍で、対話なんてとても出来るような存在ではありませんっ! 今すぐに、全員、皆殺しにするべき者達ですっ! 私の同胞のフェアリー達が何名も彼らの凶刃によってやられましたっ!」

 シシャは完全に怒り狂っていた。


 その反応を見て、リシュアは直感的に、少し懐疑的になった。

 なんだか、本当にシシャ達フェアリーが正しいのかはよく分からない。戦争という穏やかではない単語を聞いて、どちらが正しいか分からない、といった考えがリシュアの頭の中では巡っていた。この事に対して関わるべきではないのではないだろうか。


 ただ、エシカは興味を持ったら首を突っ込むだろうと思った。

 なので、リシュアはしばらくの間、彼女に付き合う事を考えていた。


 妖精達の対立は、一体、どういう風になっているのだろう。その事に関してもリシュアは少し興味があった。


「分かった。協力出来るかどうか分からないが、その場所まで案内してくれないか? もし、俺達が協力出来る事があるのだとすれば、協力するよ」

 リシュアは少し言葉を選びながら、シシャの願いに対して頷く。

 シシャはぱあっと明るい顔になった。


「でしたら、こちらに付いてきてくださいっ! 仲間のフェアリーの皆さまが、貴方達をお待ちしていますっ!」


 シシャの後を、三名は追っていく。




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