教会の村の魔女リンディ。不死鳥の街での炎の鳥の教団。
邪悪な者達に触れて、更に邪悪な魔剣に触れた。
他にもアンデッドや狼男といった者達とも遭遇した。
彼らは独自の文化様式を持っており、独自の悪意を持っていた。
ロンレーヌは、旅路において、そのような者達との出会いが少ない。
これからは、悪しき者達も目にする事になるだろう。
ラベンダーは、そんな事を考えていたが、それは無粋な事なのかもな、と思った。
自分は多少、過保護が過ぎるのかもしれない。
それは自戒しなければならない。
†
しばらくの間、四名はカルダールの村に滞在する事となった。
人々は親切だった。
何か観光名所じみた場所は無いかと問うと、それならばと、美しい小島を案内された。その小島の正体は巨大な亀であり、亀の背中に独自な生態系が作られていると聞かされた。他にも、空を飛び回るロック鳥が、時折、星座を生み出す事を教えられた。この村の人々は自然から色々な景色を見ている。
一般的に怪物達と呼ばれる者を崇敬しており、実際、この村の主はドラゴンであるエリュシオンだ。ある種、此処は怪物信仰の村であるのかもしれない。
「花輪作りをしませんか? リシュア」
エシカはそんな事を提案してきた。
花輪を作ってみるのか。
リシュアはそれに応じた。
<俺を巻き込むなよ>
ラベンダーはそれだけ告げると、何処かへと飛んでいってしまった。
そして、半日かけてエシカとリシュアはこの村に咲く花を探して歩いていた。
季節の花、精霊花に似たような見た事の無い花。湖のほとりで咲く花。一面の畑に植えられた薔薇。それらを千切っては、花冠を作っていた。
畑で花を栽培している者達は、快く花をリシュア達に渡してくれた。
この村は長閑で、何処までも心が洗われる。
ブリンガーのような殺伐さは無い。
みな、自然と共に生き、詩を編み、自給自足によって生きている。貿易というものも少ないのだと聞く。それにしては、料理に香辛料などがふんだんに使われているのは、みな、食料を自給する力があり、逞しいのだと思う。
しばらくして、リシュアとエシカは花冠を創った後、ロンレーヌの頭に乗せた。
「似合っていますよ」
エシカは笑う。
「似合っているぞ。俺の作ったものもどうだ?」
リシュアは笑う。
エシカは寒色をベースに、リシュアは暖色をベースにして、それぞれ花冠を作っていた。ロンレーヌはとても嬉しそうだった。人形の身体ではなく、人間の身体があれば、飛び上がってはしゃいでしまいそうだった。霊体である身体となって、二人を抱き締めてしまいたいといった具合だった。
普段の崇拝とは違う形での友愛。
ロンレーヌは、この日の事を決して忘れないであろうと思った。
†
ラベンダーは、エリュシオンの玉座で、竜の王と話をしていた。
<リシュアの魂にこびり付いた、魔の王は、本当に消滅したのか?>
ラベンダーは単刀直入に訊ねていた。
<それは無いだろう。魔の王は、かつて誰の力を持っても倒せなかった。私も魔の王を封じ込める事に力を使ったものだ。当時の英雄と共に。魔の王は、意識の底にこびり付き、いつでも外へと上がろうするだろう。あの泉の魔力はその封印を何重にも込めただけなのだ>
<ならば、まだリシュアは危険領域にいるという理解でいいな>
ラベンダーは苦虫を潰した表情をする。
<そうだ。ゆめゆめ、何か引き金にならない事をさせない事だ。いつでも蘇る手筈を整える筈だ>
<そうか。それならば、俺は……俺達は全力でリシュアが受けた呪いを封じ込める必要があるだろうな。ああ、確かにそうするとも。俺は全力を持ってしてな。ドラゴンの王、エリュシオンよ。改めて礼を言う>
そう言うと、ラベンダーはその場を去っていこうとする。
<少し待て。ラベンダー、お主は何者なのだ? ただのドラゴンではあるまい>
エリュシオンは首を傾げる。
<さて。自分の事は忘れたな。俺はただ、リシュアやエシカ達のお守りをしている。それだけだ>
ラベンダーはそう返しただけだった。
そして、彼の中で魔剣を観光の道具にしていたブリンガーの街の者達に酷い怒りを想い出した。人間というものはどうしても愚かな部分がある。それを再確認するものだった。
†
ボートに乗りながら、リシュアとエシカ。そしてロンレーヌの三人は湖の上を移動していた。沢山の白鳥や桃色の鳥などが見えた。
湖の中心に向かうにしたがって、香しさが強くなっていく。
この村では、アロマやポプリがよく浸透している。
精霊花を摘んできた事によって、竜の王からしばらくの旅の路銀を貰える事が出来た。
なので、此処で買えるものは買っておきたいと思っている。
ボートを漕いでいると、しばらくして浮島が幾つも見つかった。
その浮島は、全て巨大な亀なのだと言う。
リシュアは試しに浮島の上に乗ってみる。
様々な植物が群生しており、羽虫などが飛んでいた。実に興味深い生態系を彩っているのだと思う。
エシカもロンレーヌを連れて、浮島へと登った。
この世界は、本当に摩訶不思議なものばかりで溢れている。
三人共、もっとこの世界を巡りたいと願った。
少しでも、長い時間をみなで共にしたいと………………。