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『地下世界アンダー・ワールド 2』

 ショッピングモールの外には、巨大なモグラの怪物が現れて、ビルの上をよじ登っていた。人々は悲鳴を上げ続けている。どうやら、逃げ惑う人々の話を聞く限り、あの怪物は、度々、このアンダー・ワールド空間に現れては、害獣として人々に危害を与え続けているみたいだった。


「どうしますか? リシュア」

 エシカは訊ねる。


<いや、待て。人々の様子を見てみよう。もしかすると、専門の討伐隊がいるのかもしれない。彼らの邪魔をしてはいけないんじゃないのか>

 ラベンダーは釘を刺すように告げる。


 しばらくして。弓矢を手にしたドワーフの兵達が現れた。

 弓矢を放ち、モグラの怪物に命中させていく。

 怪物は雄たけびを上げていた。


 巨大なモグラは雄たけびをあげながら、ビルを壊し始めた。

 これによって。瓦礫の山が辺りにまき散っていく。

 ラベンダーとリシュアはすぐに動いていた。

 ラベンダーは稲妻を放ち、大地に落ちて人々に当たろうとしている瓦礫を電撃で撃ち落として砕き、リシュアも懐から出した短刀から光の刃を放って、瓦礫を次々と消滅させていった。


 それでも、モグラの怪物による被害は甚大みたいだった。

 ドワーフ達は、何とか魔法によって、怪物を退けようと必死みたいだった。だが怪物は一向にこの場から離れようとはしない。みな、苦戦を強いられているみたいだった。


 エシカは巨大化したラベンダーの背中に飛び乗り、怪物の方へと近づいていった。そして、炎の魔法を放ち、怪物の顔面めがけて撃ち込んでいく。まるで攻撃が通らない…………。羽虫でも叩き落とすように、モグラは片腕を振るうと、突風が吹き荒れて、ラベンダーの身体は弾き飛ばされていく。どうにもならない状況が始まりを告げようとしていた。


「撤退っ! 一時撤退するぞっ!」

 ドワーフの魔法使い達は、打ち手なしと言わんばかりにその場から去っていく。


 しばらくして、あの巨大モグラの怪物もビルから、のそのそと降りていって、何処かへと向かっていく。どうやら、自らの住んでいる穴倉へと向かっているみたいだった。


「旅の人っ!」

 街の住民の一人が、リシュア達に声をかける。


「先ほど、あの怪物との戦いに協力してくださいましたね。街の偉い人たちは、あの化け物を討伐した者に対して、莫大な報奨金を支払うと言っております。よければ、怪物退治を手伝ってみては?」

 そんな事を聞かされた。


 リシュアとエシカは顔を首を縦に振る。


「分かった。どうにか力になれるかもしれないから、何とか出来るか試してみよう」


 …………といっても、あれ程に強大な怪物を倒した事は今まであっただろか。リシュア達はドラゴンと戦って勝利した事なんて無いし、悪魔達にはいつも苦しめられている。せいぜい、倒せる相手と言えば、狼男くらいなものだ。


 あれは、巨竜程の強さを持った怪物かもしれない。

 ならば、果たして自分達が役に立てるかどうか…………。


 結局の処、四名は情報収集に回る事しか出来なかった。

 聞く処によると、あの怪物モグラは、数年前から時折現れて、暴れ回るそうだ。そしておそらく巣にしている場所は捨てられたドワーフ達の鉄工所なのではないかと調査の結果、判明している。討伐隊を何度も募ったが、何度も返り討ちにされたらしい。あの怪物モグラが存在する限り、この地下都市に平和は訪れない。住民達は、日々、あのモグラに怯えているという始末らしかった。


「俺達で何とか討伐出来ないものかな」

「それよりも、モグラさんは、何で現れるのでしょうか?」

 宿に戻りながら、みんなにしてどうすればいいのかを話し合う。


「そもそもが此処が人間の土地だっていうのが、傲慢そのものなのかもしれないな」

 リシュアは、ぽつんとそんな事を呟く。


 言われてみると、その通りなのである。

 エリュシオンのように崇められている竜もいれば、アルダージュのように誤解を受けているドラゴンもいた。悪魔達のように明らかに悪意を持って人々に関わってくる者達とは違う。モグラも竜の類と同じように、あくまで野生に生きる者達の一部だとすれば、何か事情があってアンダー・ワールドの街にやってきているのかもしれない……。……といっても、沢山の人的被害が出ている為に、放置し続けるわけにはいかないし、討伐しなければならないという感情も分かるのだが。


「人間にとって、都合の良い怪物は善で、都合の悪い怪物は邪悪な存在か。なんだかなあ」

 リシュアはそう話す。


 エシカの目的は世界中を巡って、その地の者達を助けたい。人助けがしたい。だから、当然、このアンダー・ワールドに生きる者達も助けたいと思っているのだが……。


 自分達では、あのモグラの怪物を倒すのは難しいだろうと思った。

 ブラッド・サッカーや狼男とは、まるで桁違いの強さなのだ。

 この世に顕現してくる悪魔などよりも、当然、強いのだろう。そう、倒せない。そういう結論にやはり至ってしまう。


<俺の方で調査を進めておこうか?>

 ラベンダーが、そう提案した。


「頼んだ。ラベンダー。いつも通りに」


<そうか。なら、そうする>

 ラベンダーはにんまりと笑った。



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