宿をとってみると、毛布は動物の毛皮で作られており、床は酷く硬かった。
どうやら、ドワーフという種族は身体が頑丈に作られているから、そういった構造の寝具でも平気らしい。リシュアは、ちょっとこれは旅の疲れを取れないかもしれないな、と言って苦笑する。
ロンレーヌは、ベッドに横たわって気持ちいいと言った。
彼女の半透明な身体で、ベッドの感触などあるのだろうか? よく分からない。
「そう言えば、ロンレーヌ。もう人形の身体で移動するのは良いのですか?」
エシカは訊ねる。
「いいよ。なんだか、あの地下街の神殿の中に入ったら、身体を上手く実体化する事が出来るようになったんだ。エシカも人形の私をずっと持って歩くのは大変だったでしょ? だから、今がお互いに自由でいいかなって」
ロンレーヌは、そう言うと、すぴーすぴーとベッドを占領して寝始めた。……幽霊でも、眠るのは好きなのだろか。
†
「さてと。路銀稼ぎが出来るような場所が無いものか」
リシュアが翌日、街に行くと、商人達のギルドのような場所があり、フリーの仕事を選べるようになっていた。
その中でひときわ目立っていた仕事は、探鉱に巣食う巨大黄金トカゲの討伐だった。別名、ゴールデン・リザードとも言うらしく、金銀を集める習性があり、この個体は背中に大きな甲羅があるらしい。全身、黄金色の鉱石のようになっており、皮膚や鱗や骨などは特に価値のあるものとして様々な素材に使われるとの事だった。
せっかくなので、討伐に行こうと思う。
ロンレーヌは戦う為の魔法を使う事が出来ない。
となると、三人での仕事という事になるか。
……ロンレーヌは、行きたがるかもしれないけど、この討伐依頼はやはり彼女を参加させるわけにはいかないな。
リシュアは、そう考えながら、ロンレーヌの曇った顔を想起させて悩んでいた。
宿に戻って、みなに怪物の討伐依頼の話をすると、意外にもロンレーヌはすぐに頷いて納得した。
「そうだね。私は魔法で戦える力が無い。だから、此処で待っているよ。あるいは、街の中を一人で散歩する」
ロンレーヌは、そう言いながら、どうにか納得してくれたみたいだった。
ただ。
「私、パーティーのお荷物じゃないよね?」
そんな事をリシュアに訊ねた。
リシュアは微笑む。
「何を言っているんだよ。ロンレーヌ。俺達は世界中を旅する事が目的なんだ。だから、お前をお荷物だと思った事は無いし、怪物退治を専門にする冒険者とかじゃないんだ。あくまで、これは旅の路銀稼ぎ。だから、俺とエシカとラベンダーの三人で行くよ」
「路銀稼ぎか……。この前はアンダー・ワールドで服を買って貰ったし、私も何かお金を稼ぐ事が出来たらいいのだけれどね。………………」
ロンレーヌは申し訳なさそうな顔をする。
「エシカ、ラベンダー。このゴールデン・リザードを退治しに向かおうと思うんだけど、一緒に付いていくよな?」
<かまわん。この先の事を考えると、金はまだまだ必要だからな>
エシカは、少しロンレーヌに気遣いの言葉を掛けるべきか悩んでいるみたいだった。
そして、エシカはふと思い返す。
「あの。私とロンレーヌは、二人で旅のお金を稼ごうと思っています。せっかくですから、ロンレーヌも、お役に立ちたいのですよね?」
「うん…………。そうだよ」
ロンレーヌは頷く。
そして、リシュアとラベンダーの二人は怪物退治の為に鉱山へ。
エシカとロンレーヌの二人は、街中でお金を稼ぐ為に別々に行動する事になった。
街の公園の方まで、歩いていき、ロンレーヌは少し困った顔をする。
「どうやったら、お金を稼ぐ事が出来るのかなあ?」
ロンレーヌは、言ってみたものの、その考えに至らなくてどうしたらいいか分からなかった。
「私に考えがあります。ロンレーヌ、貴方は人形の中に入っていてください。腹話術人形として、公園のベンチでショーをやってみます! これでどうかな?と思いまして」
エシカは自信満々で告げた。
「なるほど。それはとても楽しそうだね。上手く稼げるかな?」
ロンレーヌは、持っていた人形の中へと自身の身体を入れる。
その後、ぱくぱく、と、人形の口を通して話し始める。
「これでいいんだよね?」
「はい。それでいいです」
二人は公園のベンチに腰掛けて、腹話術によって芸をする事になった。
†