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第210話 村人達の視線



「なんだ、随分早いな? アンタ、もう調べ終わったのかよ?」


 セオドアがお兄さまに問いかけてくれると、此方にやって来てくれたお兄さまは私達に視線を向けたあとで、セオドアの言葉に頷いてくれた。


「あぁ、二階には寝室があるだけで、そこまで調べられる場所が多くなかったからな。

 それで、お前達の方は何か見つかったのか?」


 お兄さまの言葉にこくりと頷いて、私はアーサーから母親に送られた手紙に関してお兄さまに詳しく説明する。


 事情を全て話し終えると、考え込んだ素振りを見せたあとでお兄さまが


「そうか、俺もこの家の土地に関する借用書も含めた書類の束を見つけた。

 領主に許可を得て、着工からかなり早いスピードで家が建っていることを考えると、そこにもかなりの金額が投入されているだろう」


 と、アーサーの土地に関する書類をリビングの机の上に広げて私達にも分かりやすいように見せてくれた。


 煉瓦の2階建てが10ヶ月程度で完成しているところから見ても。

 それだけ潤沢な資金を費やして、この家を建設するのにアーサーが多くの人を雇ったことは窺えた。


 アーサー自身、病気の母親の為にも自分が騎士として大成し、これだけ楽にさせてあげられるのだと一生懸命になっていたのかもしれない。


「この手紙と照らし合わせて考えると、黒幕は随分と羽振りの良い主人だったことが窺えるな」


 少しだけ、眉を寄せたあとで、ほんの少し思い詰めたように黙り込んでしまったお兄さまに違和感を感じながら……。


「はい、そうですよね。

 皇宮で働いている官僚ならば給料も高い筈ですし、犯人の可能性もあるかもしれないなって……」


 と、声を出せば。


 私の言葉に、お兄さまは此方を見て


「いや……。そうだな、官僚の可能性もまだ残されているか。

 どちらにせよ、皇宮にいる人間が裏にいる可能性はこれでグンと跳ね上がったな」


 と、声を出してくれた。


 『官僚の可能性もまだ残されている』って、どういう意味なんだろう?


 皇宮で働いている人間なら、騎士とか、執事、侍女など、そういう人達もいるから……。


 お兄さまは、官僚よりもそういう人達のことを怪しいと思っていたのかな?


 私がお兄さまの言葉に首を傾げて、どういう意味なのか聞こうと口を開きかけたら


「それで? これからどうするつもりなんだ?」


 と、先にセオドアがお兄さまに向かってこれからの方針を聞いてくれたことで……。


 結局、私はお兄さまにそのことを聞きそびれてしまった。


「あぁ、そうだな。とりあえず、病気の母親の元へ話を聞きに行くのがいいだろう。

 それから、村の人間にもアーサーについて、地道な聞き込みをしていくしかないだろうな」


 セオドアとお兄さまのテンポの良い会話の遣り取りで、話が前進していくのを聞きながら。


「はい、そうですよね。……アーサーがまだ生きているのだとしたら、本人が行きそうな場所の心当たりなどが無いか聞いて回った方がいいですもんね」


 と、私も声を出す。


 どちらにせよ、アーサーの身元に関してはその生死も含め、探し出すことには意味がある。


 もしも、まだ生きていてその身をどこかに隠しているのだとしたら、一刻も早く見つけてあげることが彼を救うことにも繋がってくるはず。


 そうなると、アーサーの母親や、村人から。

 困ったときにアーサーが頼れそうな親戚がいないかなどの有力な情報が得られるかどうかが、今後を大きく左右する鍵にもなってくるだろう。


「ここからだと最寄りの教会は、確か馬車で2時間ほど掛かったはずだ。

 どちらにせよ、既に日が傾いて来ていることを思えば、今日直ぐに行くことは出来ないし。

 そちらには明日出向くとして、今日は村人から話を聞くことにしよう」


 そうして、お兄さまの言葉に頷いたあとで、私達はアーサーの家から外に出た。


 村長さんの言っていた通りに鍵を元々あった場所の、庭の植え込みへ戻すと。


 村人達がアーサーの家の周辺に集まって、私達の事を遠巻きにしながら此方へと視線を向けていて。


 丁度良いタイミングで『村人さんたちがいるから話を聞けるかも』と思い立った私は、彼らの元へと話しかけるために、そっと近づいた。


 ……だけど、何故か私が近づくと、彼らは同じ歩幅の分だけ後ずさっていく。


 そうして、まるで、私の事を迷惑だと言わんばかりに、眉を寄せて厳しい顔をしながら、じりじりと下がっていく村人たちに


「……あ、あのっ……!」


 と、意を決して喋りかければ。


「「「……ッッ!!」」」


 途端、驚いたような顔をして、何人かいた村人の全てに蜘蛛の子を散らすように逃げられてしまった。


 しかも、村人達はそれぞれ自分たちの家に入り、ぴしゃりと扉を閉めてしまうというオマケ付きで。


 何もしてないのに、赤色の髪を持っている私だから、みんな避けるんだろうか、と落ち込んで……。


 もしも、お兄さまが声をかけていたのなら、ちゃんと話を聞いてくれたんじゃないかと思ったら申し訳なさすぎて


「……あぁ……っ、ご、ごめんなさい、お兄さま。……私が余計なことをしちゃったからっ」


 と、思わず謝罪すれば。


「……あー、いや、第一皇子が話しかけた所で一緒だったと思うぜ?

 多分、村人には俺等が調査の為に入るって話自体、ちゃんと伝わってなかったんだろうな。

 この国のトップである皇子がわざわざやって来て、アーサーの家を何かごそごそと探ってりゃぁ、何か問題でもあんのかと、敵認定されても可笑しくねぇっつぅか。

 こういう小さな村ほど閉鎖的だったりするからな」


 と、セオドアから、私の髪色の所為じゃなくて。


 私達がアーサーの家を調査していたことに関して、村人から何か不審に思われて、ああいった態度を出されたんじゃないかと説明してもらえた。


 その言葉に、普段、あまり外に出ない所為か、そういった事に関して疎い私が。


 最初はあんなにも歓迎ムードだったのに。


 アーサーの家を調査したっていうだけで、私の髪色だけじゃなく、お兄さまに対しても村人の好感度が落ちてしまうような……。


 そんなことがあるのかな、と思っていると。


 お兄さまが同意するように、セオドアの言葉に頷いてくれるのが見えた。


「あぁ、そうだろうな。

 事前に今回の調査に関しては、領主から村人にきちんと説明しておくようにと伝えていたんだが……。

 あの領主のことだ、村長だけには事情を伝えておいて。

 最初の村人達の歓迎っぷりを見るに、貴族としての面子めんつを守るために村人達には自分の都合の良いような話を伝えていても何ら不思議では無いな」


「……ふむ、それならば、尚更、有り得ぬな。

 あの領主、自分の仕事もきちんとこなせていないくせに、僕達をやたらと家に招きたがっていたのか?」


「まぁ、上の通達が末端にまで届いてねぇってのは良くある話だろ。……驚くほどのことでもねぇよ」


 アルもセオドアもお兄さまも、村人達の態度に対して普通に受け入れていることに、思わずびっくりしながらも。


 私自身、まだまだ外の世界のことについて知らないことばかりだなぁ、と反省する。


「あっ、でも、それなら尚更、どうしましょうか? こういう時って、少しでも好意的に話してくれるような人を探した方がいいんでしょうか?」


 これからのことを考えて、村人達に煙たがられてしまったら聞きようがないけれど。


 それでも、話をしてくれるような人がいることを願って、根気よく村人達に話しかけていった方がいいのかな、と私がお兄さま達に向かって声を出すと……。


「いや、それは難しいだろう。

 一度不審に思われてしまった以上、こういうのは村中に伝染してしまうものだからな。

 どちらかと言うのなら、俺たちに気を遣って事情を話してくれるような人間がいたら、今度はその人間が村八分むらはちぶみたいなことになってしまう可能性もある」


 と、お兄さまから言葉が返ってきて、私は目を瞬かせた。


「……えっ? たった、それだけのことで、ですか……?」


 それだけのことで、魔女を差別するのと同じように。


 その人のことを除け者にするような人が大半になってしまうのかと、にわかには信じがたくて、お兄さまにそう問いかければ。


 セオドアからも、お兄さまの言葉に同意するように『あぁ』と言葉が返ってきた。


「一先ずは、俺等が無害だってことを村人に知ってもらうのが一番の近道だろうな。

 こういう村の人間は、基本的には余所者には冷たい場合も多いし。

 可能なら“アーサーの母親”か、役に立ちそうもねぇが“あの領主”かに、村人たちへの事情を説明するための協力を仰いだ方がいいかもな。

 ……行方不明になっているアーサーのことを俺たちが心配していることが分かれば、村人達も口を割るだろう」


 そうして、ハッキリと今後どう動けばいいのか、今の段階で改めて説明してくれるセオドアに。


「それじゃぁ、今日はもう動けないのかな……?

 アーサーの母親は馬車で2時間かかるような所にある教会にいるし。

 領主に関しても、この村に住んでいる訳じゃないから馬車で行かないといけないだろうし……」


 と、私が声を出せば。


「ふむ、僕達の動ける期間が限られていると思えば、今はあまりにも時間が惜しいな。

 今日、村人達へ話が聞ければ、明日教会に行ってアーサーの母親から事情を聞き、その足でアーサーのことを探しに動こうと思えば出来た筈であろう?

 今日と明日動くのでは、効率を考えれば、段違いだ」


 と、アルから言葉が返ってきた。


 アルの言葉は確かにその通りだけど、村人達から話が聞けない以上は、仕方の無いことなのかな、とは思う。


 それでも出来ることとなると、一つしかない気がして……。


「さっきの領主の対応からすると、私達が夜に押しかけて行っても喜びそう、だよね?

 明日、朝一番にブランシュ村の人達に話をして貰うために、これから領主の元へお願いしに行くっていう方法は、どうかな?」


 と、私はみんなに、今自分が思いついたことを提案してみる。


 私の言葉に、アルは『それも有りだな』という雰囲気を出してくれたけど。


 お兄さまとセオドアは渋い表情を浮かべていて否定的だった。


「いや、アリス。それは止めておいた方がいいだろう。

 そもそも領主、貴族というのは、民から税金を徴収する存在だからな。

 俺たちが来る前から、行方不明のあの騎士の為にも調査するということが村人にも知れ渡っていたら、問題はなかったのかもしれないが。

 一度、村人に不審に思われてしまっている今の状態から、領主が事情を伝えても。

 他に何か裏があるんじゃないかと勘ぐられて、中々口を割ってくれなくなってしまうのを助長させるだけに為りかねない。

 ……そもそも、あの領主自体、あまり信用が出来なさそうだったしな」


 そうして、お兄さまからそう言葉が返ってきて、私は肩を落とした。


「あっ、それなら、村長さんから声をかけて貰うのはどうでしょうか?」


「あー、姫さん。

 俺たちには柔らかい態度だったが、村長も、どっちかいうなら領主の手先に見られがちだろう?

 パン屋と村長は、そもそも、庶民の敵ってのが相場で決まってっからな」


「うむっ? ……いったいどうして、パン屋が庶民の敵なのだ?」


「パン屋は、一般庶民から金を取って領主に納税する義務があんだよ」


 セオドアの言葉に、私も政治のこととか一生懸命に色々と勉強してはいるものの。


 思わずアルと一緒に『そうだったんだ』と驚いてしまった。


「オイ、語弊ごへいがあるような言い方をするな。

 パン屋は別に庶民から金銭を奪い取って領主に納税している訳じゃないだろう。

 きちんとパンを売ったお金でその料金の一部を領主に納税しているだけで……」


 そうして一つ、溜息を溢したあとで、呆れたような口調でお兄さまからそう声がかかって。


 ――あっ、そ、そうだよね……っ!


 パン屋さんが領主の部下みたいな感じでこうっ、組織ぐるみ的な怪しい雰囲気を醸し出しながら。


 『オラオラ、いいからっ、領主様のために金だせよっ!』とか、『チッ、これだけしか持ってねぇのかよっ! シケてんなっ!』とか、そういう事を言って、領民からお金を奪い取っているのかな……?


 って、ふわんふわんと勝手に想像が膨らんでしまっていたから、お兄さまのその言葉には何故だか安心してしまった。


「一緒のことだろう? どちらにせよ、奪う側ってのは信用されねぇものだ。

 世襲制せしゅうせいの場合もあるが、その大半が領主から名指しされて決められる村長も。

 領主に限りなく近い位置にいて、小麦粉に関しての税金を含め、パンの代金に上乗せして料金の一部を納税しているパン屋もな」


 そうして、セオドアからそう言われて。


 確かにパン屋さんが領主に納税していると言う言葉だと、今一、理解することが出来なかったけれど。


 “小麦粉”と言われたら、その言葉が意味するものは何となくだけど私にも理解出来た。


 どこの領地でも、大体、小麦には税が課されるものだ。


 だから、粉挽こなひきの役目を担っている人は、領主から水車の管理を任されていて、農民から料金を取って、小麦から小麦粉を作っているんだよね。


【そして、その一部の金額を領主に納めていたはず】


 多分、その流れでパン屋さんも小麦粉自体が税金の対象になっているから、パンの代金に税の分を上乗せして販売しているっていうことなんだと思う。


 税率を決めるのは領主だし。


 税が軽ければ、問題はないのだろうけど。

 重たい税を課されてしまったら、それだけで一般の人達が暮らすには大変な思いをしなければいけなくなることも関係しているのだろう。


 ――小麦は一般の人達にとって、必要不可欠な食材だから。


 日々の食事をとるために必要なものに税が掛かってしまっていることで、捉えようによっては領主と結託していると思われても可笑しくなさそうだし。


 パン屋さんが一般の人達から、あまり信用を得られないという言葉には納得してしまった。


「じゃぁ、やっぱりアーサーの母親に事情を話して、その上で村人に彼女から協力を仰いで貰った方がいいのかな」


 脱線した話を元に戻して、私がみんなに向かってそう声をかけると。


 お兄さまもセオドアも、頷いてくれて……。


「うむ、そういう事ならば致し方がないな。……今日はもう帰るしかないのだろう?」


 と、アルから問いかけるような言葉が返ってきた。


「あぁ、そうだな。

 俺の身分をかざして、強行突破するようなことも出来なくはないが、そうすれば無駄に村人との確執を広げてしまうだけだろうし、明日、改めて出直す方がいいだろう……」


 その言葉に、お兄さまが頷いてくれようとした瞬間……。


「いや、まだ、一つだけ、手立てが残されていない訳じゃねぇよ。

 シュタインベルクは炭鉱が多く存在する国だからな……。

 村の中の酒場には入れて貰えねぇかもしれねぇが、村の外れにあるような酒場になら入れる可能性がある。

 そっちには、俺らだけじゃなくて、一攫千金を夢見て炭鉱で一発当てたいような余所者も多く集まってるだろう?」


 と、セオドアが私達に向かって声をかけてくれた。


 ――確かに、シュタインベルクは鉱山の国だ


 その殆どは、国のもので。


 採掘量などには、明確な制限が設けられて決められているけれど。


 採掘する人達に、完全な自由が無い訳じゃない。


 幾つかの炭鉱に関しては、そもそもが国の事業の一環で、危険区域以外の所は観光地にもなっているし、お金を取って採掘出来るような場所もある。


 旅行で来た観光者が、ちょっとだけ体験する程度のものから……。


 一攫千金を夢見て、初期費用を払ってでもシュタインベルクの鉱石を求めに他国から来る人なども多い。


【そういった人達のことを、私達は“冒険者”と呼んでいる】


 そうして、そういった鉱山の近くには、自然に旅の商人が集まって商いをしていたり。

 宿屋だけじゃなくて、酒場が出来ていたりと、わりと、夜でも明るく賑わっていたりするみたい。


 私は、この国の歴史を学んだ時に先生から習って、聞きかじった程度のことしか知らないけれど。


 確かに村の中で情報収集することが出来ないのなら、そっちに行ってみるのもありなのかもしれない。


 まだ、時間的に別荘に戻るには早い時間だし。


 暫くこの村の近くで暮らしていたような人達が集まっているのなら、アーサーのことに関しては分からないかもしれないけれど……。


 村に住んでいる人で、情報に詳しいような人が誰かとか。

 そういったブランシュ村に住んでいる人達の情報関しては教えて貰える可能性だってある。


「成る程、酒場か。……確かに事情を聞くには悪くない提案ではあるな」


「うむ、酒場かっ!

 そういった場所には行ったことがないが、どんなものなのかは、僕も本で読んだから知っているぞっ!

 大人の社交場とも言えるような場所なのであろう? 人間とは本当に面白い物を作る生き物だなっ!」


「オイ、お前はダメだぞ、アルフレッド。

 子供が好奇心で手を出してもいい場所ではないんだからな?」


「なんだとっ! 僕に馬車の中で留守番してろっていうのかっ!?

 あんまりだぞ、ウィリアムっ! 横暴だっっ!」


「……オイ、アンタ、まさかこんな何もない場所にぽつんと置かれた馬車の中で、アルフレッドと姫さんのこと、放置するつもりじゃねぇだろうな?

 そっちのがどう考えても危ないだろう? ……夜盗にでも狙われたらどうするつもりなんだよ」


「冗談だろうっ!?

 お前っ、まさかアリスを、酔っ払いしかいないような酒臭い場所に連れて行くつもりなのかっ?

 ああいった手合いは、柄が悪い連中が殆どだってことを、お前だって知らない筈がないだろうっ?」


 むぅっと、怒りながら声を出して『自分も連れて行けっ!』と主張するアルに。


 セオドアとお兄さまの論点が、アルから外れて何故か、私になってしまって。


 お互いに一歩も譲らないようなそんな雰囲気に、私は声をかけるタイミングを完全に逃してしまい、2人の間でオロオロとしてしまう。


「俺もいるし、そっちの方がどう考えても絶対に安全だろっ?

 アンタの騎士が一人でもいりゃあ、俺は酒場に行かないで姫さんと一緒に馬車で待つことも出来たが、見知らぬ土地で、馭者しかいない馬車の中で一人姫さんのことを待たすことの方が不安でしかねぇよ。

 第一、アンタ等が乗る馬車があんなにも高級なのが悪いんだろうが。

 ……こんな場所じゃ、目立ってしょうがねぇよっ!」


「文句を言うなっ。……アレしかなかったんだから仕方がないだろう!」


「むぅ、いい加減にしろ、お前達っ。喧嘩をしている場合ではないだろう?

 アリスが困っているし、農民達が何ごとかと此方を見つめているぞ」


 ヒートアップする二人の会話に横やりをいれて、どうどうと、アルが二人の遣り取りを止めてくれた。


 見れば、各々の家から何ごとかと顔を出して、私達の様子を盗み見るように窺っている様子の村の住人達が。


 私と目が合うと勢いよくその視線を逸らして、そそくさとまた扉をしめて、家の中に引っ込んでしまう。


 そんな村の人達の視線を受けて、お互いに落ち着いてくれたのか。

 セオドアも、お兄さまも、気まずそうな雰囲気になって口を閉じてくれたのを見て、私は口を開いた。


「あの、お兄さまもセオドアも私のことを心配して、そう言ってくれているんですよね?

 そもそも、酒場って年齢制限とか無いのかな……?

 そういうのがないのだとしたら、私一人で馬車にいる方が、何かあったとき逆にみんなに迷惑をかけてしまいそうだから、セオドアの言うとおり、私も付いて行った方がいいのかな、って思うんだけど……」


 そうして、二人に向かって、自分の意見を声に出せば。


「あぁ、子供だけで行ったら基本的には、門前払いだが……。

 片親だけで仕方なく子供を連れて利用するような奴もいるし、成人している人間と一緒に動いてりゃ、問題はねぇよ。

 ……ただこの男の言う通り、酒を飲む場所ってのは、どうしても柄が悪い連中も多くなる。

 姫さんにとっては酒場も危ない場所の可能性は高いし、絶対に俺から離れないようにな?」


 と、セオドアがそう声をかけてくれて。


 お兄さまも私の言葉には一理あると思ってくれたのか。


「それしか方法が無さそうだし、仕方が無いな……。

 だが、アリスもアルフレッドも、絶対に俺たちから離れることはしないように」


 と、念押しするようにそう言ってくれて、私はこくりと頷いた。


「うむっ! 任せておけっ! お前達の傍から離れなければ良いのだなっ!」


 この中で、危険なのは私だけで。


 アルは全然、平気だと思うのに、お兄さまに言われた言葉に私と同様、素直に頷いたあと。


 ウキウキしながら、アルが……。


「酒場かっ、どんな所なのか楽しみだなっ、アリスっ!」


 と、にこやかに声をかけてくれる。


 その様子を見ながら、お兄さまが


「アルフレッド、お前、本当に分かっているのか? 遊びに行く訳じゃないんだぞ?」


 と、声を出して心配そうな表情を浮かべてくれることに


【戦力外なのは、多分、私だけです……っ!】


 と、言えないもどかしさを抱えつつ。


 私がいなければ、馬車に残るか、酒場に行くかでどっちが危険なのか、セオドアとお兄さまが揉めてしまうようなことも、そもそも起こらなかっただろうなと思うと、申し訳なくなりながらも。


 アルが私の手を引っ張って、明るく


「アリス、そうと決まれば早く目的地に向かうぞっ!」


 と、声をかけてくれたことで、私の意識は其方へと向いた。



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