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第3話

「汗かいちゃったし、ひさしぶりに一緒にお風呂はいろっか、和也」

「それマジで言ってる?」


 リビングで涼んでいると、美貴が入浴を提案してきた。たしかに汗だくで帰ってきたのだから、誰でもシャワーくらい浴びたい気分になろうというものだが……。正直、和也は困惑していた。


「着替えは……と、男ものはないけど、ユニセックスサイズのTシャツなら確かあるわ。下は……ないから、バスタオルでも巻いておいて。服は脱衣所のカゴに入れて。すぐ洗うから。乾燥機ついてるから晩ご飯食べてるうちにすぐ乾くわよ」


 美貴は一気に畳みかけるように言うと、スリッパをパタパタさせながら、どこかの部屋に入っていった。


「ったく、相変わらずマイペースなヤツだな……襲う気も失せるわ」



 そして、部屋から出て来た美貴に連れられて浴室へ向かった和也が見たものは。


 彼はマンションの風呂だからと油断していた。

「こ、これは――ラ、ラ、ラブホなのか?!」


 和也の眼前には、ガラス張りのドアと、オーシャンビューが楽しめるジャグジーがあった。あまりの非日常的な光景に和也は驚きを隠せなかった。


(いくら湘南のオーシャンビューがウリの分譲高級リゾートマンションだからといっても、あまりにエロくないですか? いやエロいだろ? だってこんなの、バスタブに札束入れて女はべらせてる広告とかでしか見たことないような風呂だぞ??)


「なにバカなこと言ってんの。洗濯機回すから早く脱いでよ」

「脱衣場に洗濯機なかったぞ?」

「洗濯室にあるに決まってるじゃない。こんなとこに置いたら狭くなるでしょ?」


「ええ~~~~……洗濯室ってナニ……(金持ちマジ分からない……)っていうか、脱衣場に住めるじゃん……(ドン引き)」


 和也が別世界の風呂に呆然としていると、美貴がイラつき始めたので、あわてて服を脱ぎ始めた。そして、彼が全裸になると、美貴がぎょっとした顔で見つめてきた。


「ん? どうかした?」

「服着てたからわかんなかったけど……なにその筋肉……いつのまにこんな細マッチョに」

「へ? ああ、健康になるからって店長に筋トレやらされてたらこんなになっちまって……。イヤか? こんな体は」


 和也は、苦笑するしかなかった。


「そうじゃないけど……あの頃とずいぶん変わっちゃったなあって」

「そっか、ごめん。じゃあもう筋トレしないよ。炭水化物中心の食事に変えて、もっとぷにぷにボディに」

「そういう意味じゃないんだけど……」

「そか。ごめん」


 美貴はしげしげと和也の体を眺めると、彼を風呂場に押し込んで、脱いだ服を持って脱衣場から出ていった。


 和也は風呂場に入ったものの見慣れないものだらけで、勝手が分からず途方に暮れていた。すると、まもなく洗濯室から戻って来た美貴が全裸で入って来た。


「洗濯機に入れてきたわよー」

「あ、ああ、どうも」

「なに股間隠してるの? 修学旅行でもあるまいに」

「美貴さんはもうちょっと恥じらいを覚えてもよいんじゃあないですか?」

「だって自分ちのお風呂だし」


「そーいうことじゃ……って、もういいや。これ、どう使うんだ?」

 和也はムダにおしゃれな浴室設備の使い方を訊ねた。


 ひさしぶりの美貴の裸にムラムラしたらどうしようかと思い、わざわざ股間を隠していたのだが、こんな高級仕様の風呂場では、エロい気分にもならないので隠すのを諦めた。


 結局、和也は落ち着いて風呂に入っていられず、ざっくりシャワーだけで済ませて浴室からそそくさと出ていった。


「……久しぶりだから、せっかく洗ってあげようと思ったのにい。和也のバカ」

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