美貴は和也に横抱きにされ、そのまま自室に連れて行かれた。
和也はドアを開けると、数舜、感慨深そうに室内を眺めてから、美貴をベッドに下ろした。
その途端、和也は堰を切ったように彼女の口を貪り始めた。美貴の太股に和也の固いモノが時折当たる。美貴は、自分を想って和也のモノがそんな風になっているのが嬉しかった。
最後に彼と寝たのは引っ越す前なので、もう四年も経っている。
四年前とは何もかも違う。
求め合う理由にかつての悲壮感はなかった。
引越前から美貴の両親の仲はあまりいいとは言えなかった。休日など、父親が家にいる時はギスギスした空気にいたたまれなくなり、美貴はいつも和也の所に逃げ込んでいた。二人が抱き合うのは性欲よりもむしろ、救いのない状況からの逃避だった。
心ここにあらずな恋人に気付くと和也は手を止めた。
「美貴……どうかした? イヤならやめるよ」
「ううん、ちょっと昔を思い出してただけ……」
「そうか。ムリなら言うんだぞ。こないだみたく怖がらせるようなことは……可愛そうなことは、もうしたくないから……」
ナナメ下に目線を投げてうつむくのは、いつもの和也のクセだった。
「あの時はちょっと驚いただけで……うん、大丈夫」
「そ、そうか。大丈夫なんだな?」
(和也ってば、相変わらずボソボソとものを言うよね。
でも前と違って、どこか自信なさげで――)
熱を帯びた目で美貴を見つめながら、慈しむように感じやすい場所を撫でていく。指が滑っていくたびに、ぴくり、ぴくりと美貴の体がはねる。
「ひあッッ」
いつのまにかショーツが剥ぎ取られ、むき出しになった秘部に、和也が顔をうずめていた。水音をたてて吸われたり舐め上げられたりする度に、美貴の体がびくんと跳ねた。
「んぁあああ、いいのぉ……か……ずやぁ……あっんんぅ」
イきそうなのか、頭を左右に振って美貴があえぐ。
暴れ出した美貴の太股を和也は抱え直した。
「ん」
突起を吸いながら短く返事をする。
まもなく果てた美貴は体を痙攣させてのけぞった。
「も、とめて、だめぇ、やめてってば」
「――」
しかし、一度イッたのに和也は、ジュルジュルと音を立てて執拗に責めてくる。
耐えかねた美貴は、強い語気で、
「イヤ!」
と叫んだ。
その瞬間、和也の動きがピタリと止まった。
「う、ご、ごめん」
「バカバカバカバカ、や、やめてって言ったのにウソツキぃッ!」
「ごめん、一生懸命だったんでつい……許してくれ」
いじけた子犬のような目で見つめる和也に、美貴は一瞬違和感を覚える。
昔の和也ならこんな顔はしなかった――
「い、いいわよ……もう、それより……続き……」
「ごめん……」
和也は自分も全裸になると、手早く避妊具を着けた。
「ごめんはいいから」
「ごめん」
「だからもう、ごめんはいいから!」
「ごべ、むッ」
美貴は苛立ちを抑えつつ、和也の口を塞ぐ。
いまの和也はすぐに『ごめん』と言う。
あの頃の和也は、そんなこと言わなかった。
何があったらこんなに誤り癖がつくのか。
美貴は苛だった。
つい一昨日までは無愛想な男だったのに。
仲直りした途端、どうして?
何が和也をこんなにしてしまったの?
あのつらい経験のせい?
――私が元の大好きな和也に【戻して】あげなければ。
美貴はそう心に決めた。
「いくよ、美貴」
「んん――――――ッ」
身構える間もなく、和也の熱いモノが一気に打ち込まれ、それだけで軽く達してしまう。美貴はせわしなく浅い呼吸を繰り返し、視点は泳いでいる。
「みきぃ……ごめん、俺も久々過ぎて……ヤ、バ……い。ヤバイよ……」
「や、あ、らめ……あ」
美貴は頭を小さくふるふると揺らす。
「美貴の中……よすぎて……」
この上なく切ない顔をしている和也。
しかし、あまりにも扇情的なこの表情を一番楽しめる当人が上の空だ。
「美貴……かわいい」
「あたりまえ……でしょ」
「お前が思ってるより百倍可愛い」
「へんなこと……いわ……な」
美貴の胎内がぎゅっと締まる。
「かわいすぎ」
「かず……や、の、ばかあ……んぁっ」
「美貴、いっぺん……出してもいいよな。すぐ復活するから」
こくこく、とうなづくので精一杯な美貴。それを合図に、激しい抽挿が始まった。
「ぃあ、あ、あん……はげし……いい、よぉ……いい、いっちゃうぅぅッ」
美貴は全身をビクビクと痙攣させて達した。
ものの数秒で先に達したのは美貴の方で、一拍遅れて和也も達した。
「美貴ぃ……愛してる」
「わたしも」
和也は美貴にぴったり密着しながら、肩で息をしている。
「和也の……中でどくどくいってる……」
和也はびくっと体を起こすと、両手のひらで顔を覆った。
「そ、そういうの恥ずかしいからやめて」
「だって嬉しいから」
「嬉しいのか?」
指の間から恋人を見下ろす。
「二度と抱かれることもないって思ってたから」
「そりゃこっちのセリフだよ。――俺も、すごく嬉しい」
「よかった」
和也は美貴の中から慎重に己が分身を抜き出すと、避妊具を付け替えた。
「じゃ、続き……いいよな?」
「普通着ける前に聞かない?」
「お前のそのどこかで冷静なとこ、ガキの頃からムカついてた」
「えー、それいま言うこと?」
「いっつも俺だけ……なんか熱くなってさ。お前に置いていかれる気分になったりとかさ。だから余計につなぎ止めたくて、でも――」
和也は美貴を抱き締めた。
「お前も結構感情的になるんだって大きくなるにつれて分かってきて、ちょっと安心してた。実は思いのほかガキ臭いこと言ってたのもわかって安心した。抱き合えば夢中で俺を求めるお前がたまらなく愛おしかった。――あの時までは」
美貴の体が腕の中でこわばるのが和也に伝わった。
「俺が言える義理じゃねえが――捨てた方の俺だって、十分トラウマになったよ」
美貴が和也の胸に頬を擦りつける。
「もう離れない」
「ああ。離れない。あんなつらいのはもう、ごめんだ」
互いが同時に唇を求めた。
数年ぶりに抱き合った二人が眠りについたのは、空が白み始めた頃だった。