「なっ、何⁉」
鳥達は一斉に飛び立ち、その後にはまた静まり返った森がアリシアと妖精の前に佇んでいる。
「何だったのかしら……」
アリシアが空を見上げる。のんびりと雲がただよう、いつも通りの青い空だ。鳥達は一斉にどこかへ飛んで行ってしまったようで、もう姿は見えない。
「……あら?」
頭上の雲の端に、何かの煌めきを見た気がして、アリシアは目を少しだけ細めるようにしてはるか凝視した。何か、小さな黒い点のような。
「あれは……」
つぶやいているうちに、黒い影はみるみる大きくなり、空気の揺れをアリシアの髪や頬、妖精の薄い翅が感じ取った。黒い小さな鳥かと思ったシルエットだが、すぐに違うと気付いてアリシアは目を見開いた。蛇のような細い体。空を飛ぶ恐竜を彷彿とさせる翼。まるで水中を泳ぐ魚のように悠々と、しかし魚ではあり得ないスピードで空をゆく姿。ピオ村の広場の中心にあった水盤のモニュメントをアリシアは思い出す。
「う、うそ!
さっき
(か、感心している場合じゃないわっ)
慌てたアリシアは、森の出入り口から遠ざかる形で、妖精が振り落とされぬように手を添えてやりながら駆けていく。しかし、
「きゃあっ」
強い風が吹き下ろす。ついに、
(お、お、お、おっきぃなぁああー!)
一般的な蛇のサイズからすれば、考えられないほど巨大だ。優子の世界の物に当てはめて想像するなら、ちょうどショベルカーくらいの存在感だろうか。
その時、金属の蝶の
「ひぇっ」
思わず声が漏れて、アリシアは慌てた。きっとこの
『マ、ママ……』
不安そうな妖精に、アリシアは「大丈夫よ」と声をかける。とはいえ、
その時だった。
「もしもーし、ポーレットさーん。聞こえますかぁ?」
朗らかな明るい声が、張り詰めた空気の中で響く。この蝶の
「コルヴィス先生! ご助言お願いいたします!」
アリシアが、安堵のために漏らした声は少し泣き言めいていて、通信先のリアムは面食らったようだった。
「ど、どうしました? ポーレットさん」
リアムが驚き、アリシアが説明する。
「あ、あの、うっかり呼び出し呪文の前半だけを、先生宛てにではなく不特定多数に向けて発してしまって、それが発動したようで……」
「ふむふむ」
「あの、目の前に今、
蝶に嵌められた小さな結晶が振動して互いの声を伝える中、リアムのほうから、ぶば、と口に含んでいた液体を吹き零したような音がした。
「つっ、つばさへびですって⁉ レアですねー! 脱皮途中の個体とかじゃないですか? もしどこかに乾いた皮膚片でもくっ付いてたら、ぜひ魔法薬の材料に……」
「せんせぇ~!」