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第83話 貰った盾は…… ~アグリサイド~

ジェナさんからアスビモの話を聞いて、俺たちは東方面へ向かうことになった。

まずは出立前にいろいろと準備をしようと思い、街に必要な物資を買いに行くことにした。


一応、王様も考えてくれているらしく、申し訳ない程度にはお金を定期的に届けてきてくれる。

それはそれでありがたいのだが、やっぱりなかなかそれだけではやりくりが厳しい。

ゾルダが剣に入って出てこなかったときに、ギルドを通じて依頼を受けてその分はあるが……

生きていく以上、どこの世界でもお金は必要だ。

場合によっては何かしら依頼を受けてお金を稼がないといけないかもしれない。


そんなことを考えながら、必要な物資を買いそろえていった。

いったのだが……

なんで俺一人?

あいつら、結局手伝ってくれないじゃん。

出かけるときに


『ここに欲しい物を書いておいたのじゃ。

 あとはよろしく頼むのぅ』


『マリーは今回は本当に疲れましたわ。

 いつもならちゃんとお手伝いはしますが、今日だけはごめんなさい』


とか言って、二人とも装備の中から出てこない。

本当にいいように封印のことを使っている。

なんか強制的に装備から引きずり出す方法はないのかな……

都合のいい時だけ出てきてさ……


ブツブツと独り言で文句が出てきてしまう。

それでも一通り、旅の準備仕度も整ったので、宿屋に戻ることにした。

クタクタになりながら部屋の扉を開けて中に入る。


「ただいま。

 やっと終わったよ」


ふと見ると、二人とも姿を現していた。


「おぬしも大変よのぅ。

 ご苦労であった」


そうゾルダが言ったが、それはねぎらいの言葉か?


「あのさ、あれだけいろいろ頼んでおいて、それだけか?

 他人事だな」


「……

 おぬしの必要なものもあったじゃろ?

 ついでじゃついで」


何やら考え込んでいる様子のゾルダは、素っ気なくそう答えた。

一方、マリーは


「アグリ、ありがとうございます。

 助かりますわ」


丁寧にお辞儀をしてお礼を言ってくれた。

マリーは魔族にしては礼儀正しいのかもしれない。

それでも、何か気になるのか、さっとゾルダの方へ行ってしまった。


「ゾルダ、どうした?

 何か考え込んでいるようだけど……」


ゾルダとマリーのいる近くへ近寄ってみると、そこには盾があった。

そう、ジェナさんから貰った盾である。


「その盾に何かあった?」


「うむ。

 何かしら魔力を感じるのじゃが……」


「えーっ。

 呪われていたりするのかな?」


ジェナさんがそんなものを渡すわけないとは思うんだけど……


「その手の類ではないのぅ」


「そうですわね。

 マリーも嫌な感じというよりかは、身近に感じていたような魔力を感じますわ」


「なんだろうな……」


俺は盾に近寄って置いたまま隅々まで確認をした。

特に変わった何かがあるわけではなかった。


「うーん……

 でも、なんか俺も違和感と言うか既視感と言うかそういうのはあるな」


さらに細かく確認をしてみるが、特に何かある訳ではない。

少し離れて、全体を確認した時にその違和感に気づいた。


「この模様って……」


俺は部屋に置いてあった剣と兜を確認する。


「あーっ」


そう、感じたのは俺の剣や兜に書かれている模様と同じだったことによる既視感だった。

ゾルダやマリーも


「そう言えば、ワシらが封印されているものと同じ模様じゃのぅ」


「確かにそうですわね。

 全然気づきませんでしたわ」


ジェナさんが言っていた『あとでいいからその盾をよく見てみなよ』はそういうことだったのか。

でもジェナさんはなんでそれを知っていたのだろう。


「これってもしかして……

 ゾルダの仲間が封印されているってこと?」


「うむ。

 そうやもしれぬのぅ」


「もし封印されているとしたら、残りの3人のうち誰でしょうか……」


とにかくゾルダの仲間であれば、ここから出してあげないと。

ゾルダもいるし、特に暴れることもないだろう。

それに魔王軍から攻勢を受けている現状では、一人でも戦力になる仲間がいるのは助かる。


「なら封印を解こう。

 今までの感じからすると、きちんと装備すれば飛び出てきそう」


俺は盾を持ち上げるとしっかりと左手に持って構えてみた。

が……何も起きない。


「あれ?」


前に出してみたり、横にしてみたり、下を向けたりしてみたが……

反応がない。


「まったく反応がないのぅ。

 偽物を掴まされたのかのぅ」


「掴まされたって……言い方、言い方。

 善意でジェナさんがくれたんだからさ。

 もう少しチャレンジしてみよう」


グルグル回したり、持ったり置いたりを繰り返してみたが何も起きない。


「やっぱりダメなのかな……」


と思って、最後に力いっぱい天にかざしてみた。

すると、模様が急に光始める。


「……まぶしいのぅ」


「何ですの?

 この光は……」


辺りが光に包まれて見えなくなるくらい白くなった。

思わず目をつむり耐えていた。

しばらくしてその光が消えたようで、目を開けられるようになった。


するとそこに黒髪で背が高くすらっとした男の人が立っていた。

執事のような出立の男は、ゾルダを見るとその足元に跪いた。


「お嬢様、よくぞご無事で」


「おぅ、セバスチャンか……

 お主も元気で何よりだ」


「ありがたいお言葉。

 もったいのうございます」


「マリーもいるわよ。

 セバスチャン、久しぶりですわね」


ゾ……ゾルダが……お嬢様ー!

それにこの恰好、明らかに執事だよな……


「ゾルダ、お前って、いいところの出なの?

 他の奴らを蹴落として魔王になっていたと思っていたけど……」


「そ……そんなことはないぞ……」


「ねえさまは、先代……じゃないですわ、先々代の魔王のご息女ですわ。

 セバスチャンは先々代から仕えているのですわ」


「ということは……

 ゾルダより、年上?

 そうは見えない若さ……」


「魔族にとって100歳や200歳ぐらいの差はあまり関係ないですわ。

 マリーだって……やっぱり年齢の事は言いたくないのでやめます」


確かにゾルダやマリーは俺よりか遥か年上なんだろうけど……

その上を行くってセバスチャンはいったい何歳なのだろう。


「ところで、お嬢様。

 この輩は何ものでしょうか?

 人族と思われますが、この場で抹殺しますか?」


「はい?

 会ってすぐに抹殺って、どういう考えなのかな……」


「人は誰であれ抹殺する対象です。

 今すぐ葬り去りますか?」


魔族だもんねー。

ってそれで納得がいくかい。

そこから出してやった本人だぞ。


「セバスチャン、慎め」


「はっ」


ゾルダが間に入ってとりなしてくれて、命の危険は去った。

でもなんでこうぶっ飛んだ奴らが多いんだ。

魔族にとってそれは当たり前なのかもしれないけど……


「こやつは、ワシとマリーのことを封印から外に出してくれた奴じゃぞ。

 それに今そこからお前を出してくれたのも、こやつじゃ」


「それは、大変失礼いたしました」


セバスチャンはそう言うと、俺に深々と首を垂れた。


「いや、それほどでもないですが……

 まずは無事出られて良かったです」


案外にセバスチャンは律儀なのかも。

それに先々代から仕えているのであれば、ゾルダの言うことはしっかりと聞きそうでもある。


「しかし、なぜ私がこのようなものに封印されていたのか、見当がつかないのですが……」


「あぁ、それはじゃな……」


ゾルダはことの経緯をセバスチャンに話した。

ゼドがこの封印をしたことや封印を解くカギがこの俺にあることも。


「なるほど、承知しました。

 アグリ殿、これからよろしく頼みます。

 私はどうなっても構いませんが、お嬢様を早く封印から解放いただけますと。

 私もこれから共に協力させていただきます」


丁寧な言葉使いで俺に対してお辞儀をするセバスチャン。

こうしてまた一人、俺たちと行動を共にする仲間(?)が増えたのであった。

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