ここはどこなのでしょうか?
私はいったいいつまでこのままなのでしょうか。
周りもほとんど見えない真っ暗な中、どのくらい月日がたったのでしょうか。
月日ぐらいでは済んでいないですね。
何十年、何百年たったのでしょうか。
ことの始まりはアスビモとかいう輩がぼ……ではなくゼド様の元を頻繁に出入りするようになってから。
最初はさほど気にはしていませんでしたが、出入りを重ねるたびにゼド様の様子が変わっていったのです。
流石に看過できないと思い、ゼド様に進言をしたく、ご面会をお願いしました。
ゼド様は快く面会を受けてくださり、その時に私は進言をしました。
『近頃出入りしているアスビモのことです。
あまり相手にされない方がいいのではないでしょうか?
ゼド様の様子も以前に比べると変わってきたように思います』
『余の様子が変わっただって?
余は何も変わってないぞ。
アスビモも特に必要な取引をしているだけだ。
お前が気にするようなことは何もない』
ゼド様はそうおっしゃって、私の進言は受け入れていただけませんでした。
『ゼド様がそうおっしゃるなら……
私の杞憂であれば問題ございません』
『そうだな。
お前が考えすぎているだけだ。
余はそんな軟な男ではない』
『それは重々承知しております』
そうは言っても長年の感が騒ぎます。
本当に何事もなければいいのですが……
その後もまたアスビモの出入りが続きます。
やはり気にはなってしまうため、お嬢様にゼド様へ忠告をしていただこうと思った矢先です。
ゼド様から呼び出しがありました。
急いで駆けつけると、そこにはなんとも禍々しく感じる1つの盾がありました。
『セバスチャン、急に来てもらって悪いな。
この盾をたまたま貰ったのだが……
どう思う?』
『どう思うと申されましても……
嫌な雰囲気は感じますでしょうか。
ゼド様には相応しくないものとは思います』
『そうだな。
余には相応しくないのは、わかっている。
でも、気になるのだ。
セバスチャン、もう少し見てもらえないか』
『はっ。
ゼド様がそう仰るのなら』
ゼド様に促されて、盾を触った瞬間……
辺りが真っ暗になって、今の状態になってしまいました。
今考えれば、あの盾が何かしらの力を発動させたということなのでしょう。
それからかなり長い年月が経ったように思います。
ずっと同じ場所に置いてあったと思ったら、動かされている気配も感じたりしました。
真っ暗なので外の様子が見れるわけではないのですが……
止まっている動いているぐらいの感覚は感じていました。
それからしばらくはずっと動きがない日々でした。
しかし、急に動き始めたと思ったら、今まで真っ暗だった世界に一筋の光が見え始めました。
そこから外の様子が伺えるようになったのです。
そこには一人の男が見えました。
『……りま……た。
後で……し……
……はありがとう……』
何やらお礼を言っているのが見えました。
急に世界から外が見えるようになったのもビックリしました。
ただまだ外の世界の言葉ははっきりと聞き取れない状態です。
それでも様子が伺えるのは大変すばらしいことです。
街をしばらく歩いているようでしたが、そのうち宿屋なのか部屋の中に入っていくのがわかりました。
そして男の手から離れ、部屋の一角に盾が置かれたようです。
すると、そこに見えたのは、お嬢様とマリーの姿でした。
お嬢様……
無事でおられたようで何よりです。
思い切って、声を出そうとしました。
『お嬢様、私です。
セバスチャンです』
しかし、声が届いていないようです。
外の様子は見えても、私の声は届かないようです。
そのまましばらく様子を見ていると、また例の男がお嬢様と親しげにしているではないですか……
あの男はいったい何者なのでしょう。
人族のように思いますが、魔王でもあるお嬢様が人族と何をしているのでしょうか。
それにしても、あのお嬢様が感情豊かに男と話をしている様子。
まっ……まさかあの男は……
お嬢様を懐柔しているのか……
これは一大事です。
あの男は大変危険が高い者かもしれません。
お嬢様を何としてもお守りしなければ……
しかし、ここから出ることが出来ないので何ともしようがありませんでした。
そのまま一晩が過ぎ、男はその部屋から居なくなりました。
良かったです。その後特に何事もなかったようで……
男がその部屋から出ていった後、一生懸命に私の存在を訴えますが、やはりお嬢様やマリーには聞こえません。
ただ、その願いが通じだのか、二人が私の方をジロジロと見るようになりました。
『お気づきになられましたか、お嬢様
私です。
セバスチャンです。
ここに閉じ込められています』
大声で訴えるもやはり聞こえていないようです。
そのうちに出ていった男が戻ってきて、今度はその男が私の方をジロジロと見始めます。
やがて私を持ち上げると、前に後ろに下にと動かし始めました。
『な……何をやっているのですか?
あなたはいったい誰ですか?』
次第に動きが激しくなり、グルグル回したりもされました。
もうわけがわかりません。
ただ、段々と視界が開けてくるのがわかりました。
その分、動かされて気持ち悪さも倍増です。
最後に男は、私を上の方に持ち上げました。
すると、まぶしい光が差し込んできたかと思うと、体が外に引っ張り出される感覚がありました。
『いったい何が……』
まぶしさで目を閉じてしばらくすると、その男やお嬢様、マリーが目の前に居ました。
それと同時に手足がある感覚もありました。
手の方や体を見やると、明らかに私の体がそこにありました。
どうやら出られたようです。
『よっしゃ!
ようやく出ることが出来た!』
思わず嬉しくてガッツポーズもしてしまいました。
…………
そう言えばすっかり目の前にお嬢様方がいるのを忘れていました。
こんな恥ずかしい姿は見せられません。
慌てて男やお嬢様の方を見るとまだ目を閉じていらっしゃるようです。
「グホン」
咳ばらいをしたのちに平静になるように、自分自身に言い聞かせます。
「…………ふぅ……」
どうやら落ち着きは取り戻せたようです。
見られてもいなさそうですので、ここは改めてしっかりと挨拶をしないといけないですね。
「お嬢様、よくぞご無事で」
目の前にいたお嬢様方はようやく目を開けて、私の方を見てくださいました。
「おぅ、セバスチャンか……
お主も元気で何よりだ」
お嬢様が私を見てねぎらいの言葉をかけていただきました。
大変うれしく思います。
「ありがたいお言葉。
もったいのうございます」
こうしてまたお嬢様と再開が出来たことに心にこみ上げてくるものを感じました。
今後はお嬢様のおそばを離れないと誓います。
何としてもお守り申し上げます。