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『ラヂオの時間』

【作品情報】

製作:1997年/103分/日本

監督:三谷幸喜

出演:唐沢寿明/鈴木京香/西村まさ彦

ジャンル:私小説風悲喜こもごもモノづくりコメディ

(参考サイト:Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/)



【ざっくりあらすじ】

ラジオ弁天という放送局が主催した、ラジオドラマの脚本コンテストで受賞した主婦のみやこ。

受賞作である『運命の女』が、生放送でドラマ化されることに。


しかし主演の元売れっ子女優・千本のっこが放送直前にゴネ出したことが、悪夢の始まりだった。

本来は熱海を舞台にした、ヒロイン(パート主婦)と元カレと夫を巡るドロドロ恋愛ドラマだったのに、アメリカのシカゴを舞台にしたバイオレンス法廷恋愛ドラマへと変貌しちゃった。『マディソン郡の橋』もビックリだよ!


だがこれに、元カレのピーターを演じる浜村が反発。

本来ピーターの職業は漁師だったが、「録り直しが出来ない」という生放送の弱点を突き、無断でパイロットに転職しやがった。

あとなんか名前も、思いつきでドナルド・マクドナルドに改名しちゃった。

こいつ、フィーリングで生き過ぎでは?


もはや原型を留めていないドラマに、みやこは打ちひしがれる。

ディレクターの工藤はツンツンしながらも彼女を擁護するものの、プロデューサーの牛島は

「とにかく今回は、千本のっこに気持ちよくなってもらわんとダメなんで!」

と一切聞く耳を持たない。


それどころか、のっこの思いつきにますます便乗し、ハッピーエンドの結末までぶち壊そうとする。

収録ブースに閉じこもるという暴挙まで繰り出して抵抗するみやこの姿に、工藤が牛島へのクーデターを決意。


そして今までなんとなーく、長いものに巻かれろ精神で牛島たち上層部の判断に従っていた他のスタッフや演者も巻き込み、ビターエンドへ突き進みかけている物語の軌道修正を図ることに。


その場のノリで脚本を書き換えまくった結果、ドナルド・マクドナルドは宇宙空間で遭難しちゃってるけど、ここからの起死回生ってできるんですかね!?



【登場人物】

工藤くどう

肩にディレクター巻きしたトレーナーを引っ掛けている、肩書もそのままディレクターなツンデレイケメン。

冒頭からみやこに対して塩対応で「与えられた仕事をやるだけ」と公言しているけれど、いざ彼女の作った脚本が魔改造され続けていくと最後まで擁護してくれるし、クビ覚悟で奮闘してくれるいい人。さすがツンデレイケメン。


みやこ:

パチンコ店でバイトをしている主婦。不倫に走るパート主婦が主人公の、ドロドロ恋愛劇を書いているが、本人は公衆の面前で旦那にデコチューしてもらうぐらいにはラブラブ。

あと、どうやら息子が1人いる様子。

最初は業界人オーラに飲まれ、魔改造されていく脚本をグッと堪えて見守っていたものの、最終的に盛大にブチ切れて暴力に打って出る。いいぞ、もっとやれ。


牛島うしじま

闇金でなくラジオ局でブイブイ言わせている、受肉した風見鶏のようなプロデューサー。

四方八方にいい顔をして場当たり的に生番組 (しかもラジオドラマ)を進行するものだから、色んな不都合や火種を生み出しまくっている。諸悪の根源その1。

最終的に部下によって壁ドン(胸キュンの方でなく、『童夢』の方)をされる。


大田黒おおたぐろ

工藤の相方または右腕的なスタッフ。

局内を走り回り、ぶっつけ本番でSEを作ったりと、一番体を張っている功労者。好き。

後述の浜村さんを連れ戻す時、彼のズボンの腰部分を掴んでいるシーンに「なんか既視感があるなぁ……」と思ったら、あれだ。

帰宅拒否する柴犬を引きずる飼い主だ。


堀ノ内ほりのうち

放送局の編成部長で、牛島に輪をかけて八方美人かつテキトー人間。

ずっと目の奥が笑ってない笑顔過ぎて怖い。

エンディングの歌は彼が歌っているけれど、歌詞の中で千本のっこを何度も「あのアバズレ」と呼んでいる。歪んだ愛の持ち主だ。


千本せんぼんのっこ:

元人気女優だが今は落ち目な、アンパンマン声の人。あと最近リリースした新曲が、クソダサい演歌らしい。

今回のドラマも、事務所の後輩のおこぼれ的な仕事であることに拗ね、

「主人公をアメリカ人の女弁護士メアリー・ジェーンにしようよー!」

と無理難題を言いまくる。つまり諸悪の根源その2。

なお生放送ドラマを希望したのも彼女だが、おかげで共演者の暴挙を許す羽目になる。ざまぁ。


浜村はまむら

色々と偏屈なイケボのおじ様。

牛島から収録前に断られていたのに、自分が演じるヒロインの元カレ・ピーターを無理やり漁師からパイロットにジョブチェンジさせた。あと勝手に改名もした。偏屈な割に自由人だね。

自分の仕事にプライドを持っている一方、千本のっこへの特別待遇に不満を抱えている冷え性。あなたはもうちょっと、筋肉をつけた方がいい。


広瀬ひろせ

常にニコニコと楽しそうな、メアリー・ジェーンの夫・ハインリッヒ役のタレントさん。のっこのワガママでギスギスしがちな中、ヘラヘラと場を和ませるムードメーカー。共演者の中で唯一、のっこにも紳士対応。

かなりアレな無茶ぶりにも頑張って応えてくれるので、軽薄な態度に反してプロ根性はすごそう。

しかし怒らせると一番怖いしバイオレンス。


野田のだ

メアリー・ジェーンのメンター的なマルチン神父役――のはずなんだけれど、脚本魔改造のあおりを受けてどんどん出番が減っていく。そして音割れするレベルに地声がデカい。

自分も被害を大々的に被っているからか、演者の中では一番みやこに協力的。


保坂ほさか

ドラマではナレーターを担当している、生真面目メガネな男性アナウンサー。

真面目なので「シカゴに海はない」等の耳に痛いご指摘を繰り出し、みやこやスタッフ陣に渋い顔をさせている。

でもこの辺ちゃんとしないと後で外野からヤイヤイ言われるので、ファクトチェックはマジ大事。

終盤、ジャケットを脱いでからの、冷静さをかなぐり捨てたナレーションに超痺れる。


大貫おおぬき

世界のケン・ワタナベ演じるウエスタンなトラック運転手だけど、基本的にずーっと横顔での出演だよ!でも熱い男だよ!



【感想など】

突然ですが。

私は幼少期から「じゃない方」を愛しがちな、生まれついての捻くれ野郎です。


小学生の頃はコロコロコミックではなくコミックボンボンを読み、思春期に入ると『Final Fantasy7』ではなく『WILD ARMS』を買ってもらい、大人になった今も『ロボコップ』はリメイク版が好きだったりします。


あと田中芳樹さん作品の最推しも、『夏の魔術』シリーズです。今絶版っぽくて、悲しい。


しかも逆張りではなく、素で負け組に全額ベットしてしまう、ナチュラルボーンな判官贔屓ほうがんびいき野郎というわけですね。


そんな「じゃない方」な人間だらけの映画ですよね、これ。

舞台がラジオ局という時点で、すでに「TVじゃない方」ですもの。

Spotify等で気軽に配信・視聴出来る今よりも、ひょっとしたら90年代末のラジオはだいぶ落ち目だったかも。


劇中劇の昼ドラバイオレンス愛憎劇ラジオドラマに出演する面々も、旬が遥か彼方に過ぎ去った人たちばかり。

だから当然、彼らも制作スタッフも、どことなくやる気や前向きさに欠けていて……

そんな人たちが終盤、ただ一人ドラマに愛情を持っていた原作者・みやこに感化されて熱くなっちゃうわけですよ。


泣くしかないじゃん。


まあドラマ自体は度重なる改造手術により、怪人より呪物に近いイロモノと化しているため、泣きつつ爆笑しちゃうのですが。

なので終盤の、ハッピーエンドをもぎ取るために工藤が走り出してからの展開は、笑いながらずっと目が潤んじゃっています。


学生時代に初めて観た時も泣き笑いしちゃったけど、社会人となって改めて観ると、風見鶏クソ野郎な牛島にも感情移入できる部分がありまして。


仕事仲間からは疎まれがちだろうけど、こいつが嫌われ役になっていることで結束している側面もあるんだよね。

作中でも、実際その通りだし。

牛島がもっと要領よければ、工藤もみやこもドラマの改変エンドを渋々受け入れた気がする。


本人は意図していないと思われるけれど、見事な必要悪だ。


なんだかんだで、三谷幸喜さんの映画作品では本作が一番好きかも。次点は絞れないので、選べませぬ。


なお三谷さんのドラマは、『王様のレストラン』が今も昔も一番好きです。

その中でもソムリエの大庭さんがお気に入り。

本作の大田黒さんといい、こういう「不器用で地味な頑張り屋さん」ポジが好きなんだな。


……こういうところにも、己の負け組ベット気質が出ている気はしなくもないけれど。

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