【作品情報】
原題:Dream Scenario
製作:2023年/102分/アメリカ
監督:クリストファー・ボルグリ
出演:ニコラス・ケイジ/ジュリアンヌ・ヌコルソン/リリー・バード
ジャンル:人間とSNS怖すぎ不憫スリラー
(参考サイト:映画.com https://eiga.com/movie/101015/)
【ざっくりあらすじ】
大学の終身教授のポールは、下の娘・ソフィから
「夢の中にパパが出てきて、私が困っててもずっと棒立ちで何もしてくれないんだけど」
という愚痴を聞かされていた。知らんがな。
理不尽なクレームに、ポールは
「パパ、そこまで頼りなくないもんっ! ちゃんとソフィを助けるもん!」
とプンスカ反論するものの、ツルッツルの頭頂部+冴えない服装のパパの講義は、まあ人気がない。学生もみんな、講義中にウトウトしがち。
モブおじさんと呼びたくなるぐらい花のない、しかし波風もない穏やかな生活を送っていたポールだったが、その生活が元カノに会ったことで一変する。
元カノの夢の中にも、自分が毎日出てきているらしい。娘の夢と同じく、ずっと棒立ちなのだという。
WEBライターをしている元カノが「この話、記事にしてもいい?」と言うので二つ返事で了承したところ、ポールは一躍時の人になった。
彼が夢に出てくるのは、娘と元カノだけではなかったのだ。
大バズりでニュース番組にも出演し、何故かスプライトとのプロモーション契約の話まで持ち上がって有頂天のポール。
しかし大いなるバズりには、大いなる炎上が伴うのは世の常である。
ある時から夢の中のポールは、暴力・淫行何でもありな世紀末ヒャッハーおじさんへと変貌してしまったのだ。
自分の教え子には怯えられ、友人の奥さんからも犯罪者扱いされる始末。
遂には楽しみにしていた、娘の発表会にも出られなくなり――とうとうポールはプッツンした。
バズりと炎上に巻き込まれたモブおじさんに、明るい未来は来るのか?
【登場人物】
ポール:
スーパーマーケットの服飾売り場に山積みされてそうな、もっさいセーターを着込んだ猫背気味の、ハゲ散らかしたおじさん。
でも相変わらず目が綺麗でまつ毛がキュート。
最初は露骨に調子に乗っていて、観客の共感性羞恥を大いにくすぐってくれる。
でも上映時間102分の間に、これでもか!とひどい目に遭っているので、なんやかんやで深い同情を禁じ得ない。
ジャネット:
バズる夫に最初から不安そうなポールの妻。デザイン系の会社にお勤めっぽい。
結婚15年目だけど、ポールが元カノと話しているだけでムッとしていたり、今でもとってもラブラブ。
「自分のことを本気で愛してくれる人の意見には、割と真面目に耳を傾けるべし」ということを我々に教えてくれる人。
ハンナ:
SNS大好きなポールの上の娘。カイルという彼ぴっぴがいる模様。
夢の中の父の悪行のせいで、どうやら学校でかなり酷い目に遭ったらしい。それでもなんやかんやで父親とお出かけしたり気を使ってるので、いい子やん……
ソフィ:
個人的にはポールと並んで不憫な、彼の下の娘。
現実での父親の炎上によって、学校のほのぼの発表会で血を見る羽目になった。
こんなんもう、転校するしかないやん!
【感想など】
ポ、ポールが何したっていうんやー!!
たしかに冗談はクッソ面白くないし、話長いし、価値観押し付けがちで独善的な、ちょっと厨二病こじらせた感じの調子乗りおじさんではあるけれども!基本は大人しい、いい人だぞ!
――そう。ポール自身は犯罪らしい犯罪なんて犯していないけれど(むしろ年下の女の子に襲われてかけている)、前半はむっちゃくちゃ天狗にはなってたんですよね。ハイ。
そこが割と悪手だったのは事実。家族の安全より、自分のバズりを選んだ節もよくない。
たとえば終盤の釈明ライブ配信で、某元県議よろしく号泣しながら
「私が一番の被害者なんですぅぅぅー!」
とシャウトしたのは普通にあかん。
そこはナンバーワンでなく、みんながみんなオンリーワン精神であれ。そういうことで優劣つけるなし。
そもそも
「夢の中の、自分でない自分に私も襲われたので、私が一番かわいそう」
という主張は、
「その自分でない自分の手柄で、お前は散々バズって甘い汁吸ってたやろがい!」
って反撃されちゃう可能性があるわけですし。
とはいえ、それはそれ。これはこれで。ポールが周囲から受ける仕打ちは、九割方が理不尽かつ不憫。
夢の中での自分の悪行なんて、自分で止められるわけないですし――と思いながらも、実は一つだけ気になることはあって。
ポールが現実世界に一人ぼっちでいる時、ずっと画面がグラグラ揺れてるんですよね。
あれは彼のメンタルが、常時不安定なためだとは思うのですが。
炎上真っ只中ならともかく、バズり中も揺れてた記憶があって。
夢の中のポールは当初無害だったけれど、彼の出てくる夢はどれもこれも最初から悪夢だったし。
それにポールが夢で悪いことをするようになったのも、元同級生に論文のネタをおパクリあそばされてからなのも気になる。
果たして本当に、ポールが夢に出てくる現象に全く本人の非というか、影響はなかったのかしら。
でも現実のポールのメンタル=夢の中のポールの行動に関係しているなら、上述のおパクリ野郎が諸悪の根源になるわけで……
そしてこの関連性も、ポールが夢に出てこなくなれば永遠に謎のままという……ぐぬぬ。
とりあえず作中のポールが
「何なんこれ、ワケ分からん……」
と終始モヤっていたように、観た人間も同じくモヤるのがベストな楽しみ方なのかも。
あと「カウンターカルチャーと集団心理、マジで怖い」という教訓だけは、ひしひしと感じられます。
やはり人間はクソ。
でもこんだけクソな仕打ちを受けてもなお、堅実に生きようとするポールは本当に偉い。
これ、作品が作品ならラスボスが世界を滅ぼすきっかけになるぐらいの、最悪理不尽パラダイスですもの。
人によってはキレ散らかした挙げ句、無差別殺人とか起こしかねん。
舞台は銃社会のアメリカですからね。人を殺すのにもってこいじゃん。
ちょっと天狗になっちゃった経験も活かしつつ、これからはポールも植物のように静かで穏やかな――そう、吉良吉影のように暮らせればいいなと思ったり。
今度は人間の醜悪さを全面に押し出した、サスペンス小説とか書くといいと思います!私、買うよ!