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第4話 陰キャ・ザ・キッド

 う、美女にそんな見つめられるといつもの悪い癖が出ちゃうよ。

 それに何だその〝魔銃使い〟って?

 ああ、でもコミュ症過ぎて詳しく聞けない。


「……今助ける」


 それだけ言葉を発する。


「あ、ああ、頼む」

「…………」


 実はお姉さんと会話するのが恥ずかしくてそれ以外言えないだけだ。

 二人が下敷きになっている馬車に駆け寄ると、ちょうど折れて転がっていた車軸をてこにして救出した。


「……大丈夫か?」

「おいらはへっちゃら!」

「あたいもだ」


 幸い二人とも大きな怪我はないようだった。

 良かった、ほっと胸を撫でおろす。


「返そう」

「お、おう」


 使わせてもらった彼女の拳銃〝ドラグーン〟を返却する。

 彼女はちょっと戸惑ったようにそれを受け取った。


「ではな……」


 そう言い残して立ち去ろうとした。

 なんでって?

 コミュ症だから初対面の人とこんな状況でどう会話するか分からないからさ!


「ちょ、ちょっと待ってくれよ坊や!」


 すると慌てた様子のお姉さんに呼び止められた。

 坊やって……僕30代なんだけどな。


「命を救ってもらったんだ。このままサヨナラはないぜ!」

「そうだよお兄さん!」


 男の子が駆け寄ってくると、手を取った。


「おいらアル! こっちはベル姐!」


 そう名前を紹介してくれる。

 アルは活発で利口そうな男の子だ。

 そして、あの美人のお姉さん――


「ベルネッタ・ブルックスだ。ベルでいいぜ、坊や」


 彼女が軽く笑ってウインクしてきた。

 可愛いというよりカッコイイ系の顔にその仕草がよく似合っている。

 立ち姿になって改めて相対すると、女性としてはかなりの長身でもある。

 小柄な僕から軽く頭一つ分は高いかも。

 まさに女ガンマンといった説得力に満ちた姿だ。現代の拳銃と比較すると長銃身で重いドラグーンを使っていてもおかしくない。

 無表情なまま内心でドキっとする。


(ぶっちゃけ超好み……)

『お前は性格が根暗そのものなのに女の趣味は派手なんだな』

(うるさいよ!)


 そんな彼女が歩み寄ってくると、後ろを親指で差した。


「んで、あっちに隠れてた腰抜けはマイク」

「ぶ、無事だとは驚いたぜ、ベルネッタ」


 向こうから馬車を引いていた馬を連れ、中年のしょぼくれたおじさんがやってくる。

 そういえば馬車にはもう一人いたんだった。

 たぶん横転しそうになった馬車から飛び降りて一目散に逃げたんだろうな。


「で、坊やの名前は?」


 ベルネッタと名乗った女は僕に尋ねる。

 にしても、さっきから何度も〝坊や〟って。


「……俺はガキじゃない」


 さすがに30過ぎて坊やと言われるのはちょっとな、とつまらないプライドが口に出た。

 こうやって堪えることができないから婚活上手くいかないんだけど……


「あっははは! アルもそうだけどガキはみんなそう言うのさ」


 笑い飛ばされた。

 うぐ、これ比喩じゃなくてほんとに子供って思われてるっぽいな。そっちの方が凹むかも。

 と、無表情に凹んでいると、意外なところから声が上がった。


「いや待て、ベルネッタ。そいつが持ってるの〝魔銃〟だろう?」

「なんだマイク? 魔銃くらいあたいも知ってるさ」


 マイクというおじさんが真剣な顔でこちらをしげしげと観察してくる。

 うーん、おじさんにそんな見られてもな……


「〝魔銃使い〟は歳を取らなくなったり、若返ったりするって話を聞いたことあるぜ」

「まさか……!?」


 ベルネッタは心底驚いた様子で、僕をウエスタンブーツのつま先からカウボーイハットのてっぺんまで見つめ直す。


 やだ、そんなに見つめないで……

 美女の熱視線もそれはそれで気恥ずかしいんだった。


「じゃ、じゃあこの姿で本当に大人……!?」

「その通りだ」


 〝魔銃使い〟というのが何なのか知らないけど、大人だととにかく理解してもらいたくて肯定する。


「すっげー! ねえねえ! お兄さんそれ〝魔銃〟だろ? どこで手に入れたの!?」


 アルが目を輝かせて更に聞いてくる。


(な、なあさっきから〝魔銃〟ってなんだ……なんかスゴいものなわけ?)

『ああ凄いぞ。魔法使いのガンスミスが作り出した究極の銃だ』


 魔法使いのガンスミス自体もはや意味不明な単語だ。

 〝ガンスミス〟というのが銃職人のことなのは分かるけど。

 昔の銃は職人が手作業で作っていたのもあって、個体によって性能にかなりの差があった。

 だから腕の良い職人が作った銃はそれだけで価値があったわけだ。この辺は刀工にも似ている。


『そして魔銃はその魔力を利用して銃や弾丸の威力に魔法を付与できる……それを〝魔弾〟と呼ぶ』

(さっきの戦いで貫通力を上げたようにってこと?)

『そうだ。貫通力以外にも様々な魔弾があるが、それは俺の力が回復したら使っていけるだろう』


 聞いた限りじゃ確かに凄い。


(はへえ、そんな大層なブツが何で僕のホルスターに収まってたんだ?)

『〝魔銃〟は場合によっては魔と業に憑りつかれ、持つ者の魂を取り込む』

(何の話だよ……)


 なんだかもったいぶった話が始まった。


『まあ聞け、つまりこの魔銃はな、今話している俺自身だ』

(えぇっ!?)


 いきなり驚愕の事実を打ち明けられた。

 僕をこの世界へ導いた――というか落っことしてきた頭の中の声の主。

 それの本体が拳銃!?


(なにそれキモイ……捨てちゃおうかな)


 ホルスターから魔銃をつまみ出したくなる。


『止めた方がいいぞ。俺はお前なしじゃ何もできんが、お前も俺なしじゃこの荒野じゃ生きていけない』

(はぁ~大した自信だねたかが銃の分際で)

『ふ、良い返事だ。持ちつ持たれつやっていこうじゃないか、相棒』

(相棒になった覚えはないんだけど……まあいいや)


 頭の中で長話してる時じゃない。


「こら、止しなアル。困ってるだろ。魔銃の出所なんて初対面の人間に話すようなことじゃないさ」

「ちぇー」

「悪いね。アルは本物の子供なのさ。

 じゃあ、魔銃使いのあにい、あんたのことは何て呼べばいい?」


 そうだ、ベルネッタに名前を聞かれたわけだけど、本名名乗っていいもんかな?

 相手は名乗ってくれたのに、名乗らないのはまあ失礼だろうけど……


「訳ありってことかい? まあ深くは聞かないさね」


 ベルネッタは無言の僕を見てそう察してくれる。


「でもな、通り名くらいは教えてくれてもいいんじゃないかい?」


 〝通り名〟

 渋い響きの単語だ。

 本名とは別に、自分を表す名前のことだ。

 それを名乗れば、なんだか今までの自分とは違う誰かになれそうな気がした。


「……キッド」


 咄嗟に僕は、そう言った。


「キッド?」

「ああ」


 僕は続けた。

 カッコつけた口調だけど、ほとんど思いつきのキメ台詞を。


「〝陰キャ・ザ・キッド〟だ」


 バキューンッ!!



【異世界マカロニ・ウエスタン ~陰キャの転生ガンマン荒野をゆく~】



 そんな感じでマカロニウエスタン映画のタイトルが脳裏をよぎった。

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