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第79話 大統領謁見 北南崎桜太郎と鬼堕皮 蛇兒誣

【某所/死刑囚収容所】


「どうも。大統領の北南崎桜太郎です」


「ひゃっひゃっひゃっ! どうもどうも。鬼堕皮きだかわ蛇兒誣じゃにむです。世間的にはジャニーム鬼堕皮で通っております。ひゃっひゃっひゃっ!」


 何が楽しいのか鬼堕皮はアクリル板の向こうで、おぞましい笑顔で笑っている。

 TVでは決して見せなかった本性なのだろうか。


「ご機嫌ですね? 貴方は最低でも終身刑。しかも今回の仇討ちの結果は、勝ったとしても五体満足とはいかないでしょう」


「つまらん事を聞きよるのう」


「つまらン?」


「ワシ1人対869人での870P!! 多分世界記録の乱交にして最後の酒池肉林じゃぞ!? あ、酒は無いか。まぁこんな燃えるシチュエーションは絶対無いじゃろうて! 死ぬには最高じゃ! ひゃっひゃっひゃっ! 仇討ち第二号の斎藤詐利は良い前例を作ってくれたわ!」


 良い前例――

 それは決着が付くまで、誰も横槍を入れない事。

 仇討ち第二号の時の斎藤詐利は、強姦被害者に対し、更にこの場で強姦する事を宣言した。

 本心なのか、策戦なのかは分からず仕舞いだったが、それなりに被害者の心を乱す、効果的な宣言だった。


「なるほど。確かに決闘が始まれば止めませンが、869人相手に性行為を行い、なおかつ勝つつもりですか?」


「おっと、前提条件が違ったな。ワシと戦う事を望んだ869人の中には、かつて愛した者でも年月の経過でワシの好みから外れた者も居るじゃろう。そんな奴らは悪いが瞬殺じゃて」


「それは……」


 瞬殺――

 その言葉に北南崎は強烈な違和感を持った。

 ルーレットで与えられた武器を頼らない自信を感じたのだ。


「お? 気が付いたかね? ククク! ワシは教え子を襲った時に傷一つ負った事が無いのじゃよ! 少年程度は苦にならんし、20代の弾ける肉体もワシの前には意味がない。運動神経抜群の若手もワシの餌となったわ! もう理由は分かったじゃろう?」


「えぇ。貴方は柔道、または合気道の奥義を修練……? いや、強姦の中で身に着けてしまったのですね?」


 両方の格闘技に共通するのは力の流れを見極める事。

 相手の力を利用し、逃がし、反発力に付け込み、最後には抵抗不能に追い込んでしまう。

 天は鬼堕皮に悪魔の力を授けてしまったのだ。


「多分そうじゃろう。鬼堕皮流柔術とでも名付けようか? ヒヒヒ! まぁ、何人が性行為の対象となるかは現れた弟子たちの容姿次第じゃな。状況によってはネクロフィリアにも挑戦しなくてはなぁ?」


 ネクロフィリア――

 要するに死体に対する性行為である。

 869人相手にするには、動きを封じる大ケガで済ませなければならないが、中には殺さなければ動きが止まらない者もいるだろう。

 その者が好みのタイプならネクロフィリアにも躊躇しない。


 勝っても一生塀の中なのだ。

 しかも老い先短いのだ。

 ならば性癖は全開にして、新たな事に挑戦するのが人間だろう。

 はた迷惑な挑戦ではあるが。


「ま、それに流石のワシも生き残れるとは思っておらんわいな。相手できたとしても100人が限界じゃろう」


 勿論、限界とは性行為の事だ。

 しかし戦うだけなら話は変わってくるのは、邪悪な覇気から十分察せられた。


「それでも、貴方には10%の勝率を保証しなければならない。1対869。両者ハンデ無しでは話にならない。銃を扱ったことは?」


「あぁ。ありますぞい。自分で言うのも何ですが、中々の腕前と自負しております」


 恐らく観光客が射撃を楽しめる外国で試したのだろう――北南崎は、そう思うことにした。

 絶対、日本のどこかで試射したに決まっているが、もうこれ以上罪を追加しようが判決結果は変わらない。


「ルーレットで選ぶ武器はサブマシンガンで弾数最低869発。又は段数を減らし、武器を与えるかになるでしょう」


 サブマシンガンというと、強力な武器を思うかもしれない。

 それは半分正解で『面制圧』に優れた『接近戦用』の武器である。

 弾は普通の拳銃と同じなので、特別破壊力が高い分けでもない。

 特徴は、1秒引き金を引けば、20発以上は弾丸がバラまかれる。

 3~4人に同時に襲い掛かられても、余裕で射殺できるだろう。


 故に大きな弱点がある。


 つまり、1人に対し1発以上の弾丸を使ってしまう。

 今回の対決では鬼堕皮は無駄弾を使えば、即終わりだ。

 フルオート、つまり引き金を引きっぱなしでは、50発の弾倉が3秒以内に空になる。

 3秒で50人倒せるなら良いが、そんな事は不可能だ。


 ならば、フルオートではなく、単発撃ちに切り替えるのも手段だが、果たしてじっくり狙いをつけている暇があるだろうか。

 何人かは倒せるだろうが、間に合わず869人の波に飲み込まれて終わりだ。


「あー、ルーレットは何でも構いませんぞ。貰える物は貰っておきますが、それに頼るつもりもない。疲れた時の気休めに使う程度じゃろうて」


「わかりました。何でも良いといわれたからと言っても必ず10%の保証は実現します。その為に確認させて頂きたい」


 北南崎は防犯カメラに向かいながら喋った。


「確認?」


 鬼堕皮もつられてカメラを見た。



【防犯カメラ先/別室】


「嫌な予感がしたけど的中しちゃったわ……」


「紫白眼副大統領……」


 紫白眼が頭を抱え、金鉄銅が心配そうに背中をさする。


「まぁ……相手は性的嗜好が女では無いなら……仕方ないわね」


 紫白眼副大統は幼少期から合気道の達人だ。

 僅かでも相手に触れたら、あるいは殴られたとて、それはもう紫白眼の支配下だ。

 ただ、空手や拳法と相手をした事はあっても、合気道で同程度は当然、自分以上のレベルの相手と試合をした事は無い。

 犯罪者相手ではあるが、あの老人がどれ程の腕前なのかは気になるし、10%の保証の為にも働くのが義務だ。


 紫白眼がボタンを押しマイクに向かって話しかけた。


「大統領、承知しました」


《良かった。鬼堕皮さンは恐らく世界レベルの達人です。実力を測れるのは貴女しか居りませンし、紫白眼さンがより強くなるのにも役立つでしょう》


《紫白眼? あぁあの女副大統領ですか。確かに合気道の技は仇討ち法適用第三号で見せてもらいましたな。自分も腕試しは初めてじゃ。楽しみじゃのう!》


 鬼堕皮は武術家では無いが、天然の才能を持ち合わせていた。

 だが、天然の才能という点では紫白眼も負けていない。

 ただし、鬼堕皮は1000人以上の強姦実戦を積んでいる。

 紫白眼も信長真理教時代に猛特訓を課せられたが、それでも1000試合もやっていない。


 両者共、どちらが強いかには興味が勝った。

 性的嗜好もかみ合わない以上、男女であっても差は無いに等しく、何なら単純な腕力なら若い紫白眼が上回るだろう。

 故に、合気道は腕力頼みでは勝てない。


 こうして、世界史に名を刻む世紀の大犯罪者にして天然柔術の使い手鬼堕皮vs女にして実力は男性特殊部隊にも負けない紫白眼魎狐の模擬戦が始まる事となった。

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