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第51話 みんなの力に

「――でね、ママにすごく喜んでもらえて! やっぱり喜んでもらえるとこっちまで嬉しくなってくるよね」

【けーちゃんが嬉しそうだと俺らも嬉しい】

【ママさんが羨ましい】

【写真だけでも美味しそうなの伝わってくる】


 しおりお姉ちゃんに料理を振舞ったあと、部屋を借りて配信している。しおりお姉ちゃんの方は別室でレポートを頑張っているだろう。邪魔にならないように、声のボリュームには気をつけているが、テンションが高くなるとついつい声も大きくなってしまう。気を引き締めなければ。


「でしょー? ママは忙しい人だから軽く食べられるものがいいかなと思って。でもサンドイッチもスープも美味しそうでしょー! みんなもっと褒めてくれていいんだよ?」

【ほんと美味そう】

【でも褒めたら調子乗るからなー】

「なんだと!?」


 【けーちゃんすごい】とか【けーちゃんの料理食べたい】とかのたくさんの褒め言葉が並ぶ中で、舐めたような口をきくコメント主を捕まえる。こういう舐めたやつは早めに処理しておかないと。さて、煮るか焼くか……どうしようかな。


「調子乗ったっていいじゃないか! その方が可愛いでしょ? ね!?」

【可愛いから許す】

【これは可愛い】

「でっしょー! 自信ある女の子って可愛いと思うの!」


 コメントとのレスポンスも交えながら、他のコメントにも反応して話を広げていく。配信を続けていくごとに、トークスキルに磨きがかかってきているような気がする。常連さんが多くなってきたのもあってか、私が心を許せる人が増えてきているからかもしれない。

 常連さんが増えているというのも、心を許せる人が増えているというのも、それによってトークスキルが上がっているということも、全部が嬉しかった。VTuberとして成長できているという証だし、上手く話せるという才能はVTuberとしての人気に直結する。


 最初こそ前世で見ていたVTuberの言葉や仕草を真似ただけの配信も多かったが、最近ではどんどん素の自分を出すことができている。それはとてもいい変化だと、自分でも思う。


「それでさ、やっぱこういう配信ってみんなの反応があるからできるわけで。みんながいてこその私って感じだから、ほんとにみんなが来てくれるのありがたいんだよねー。私の頑張る力になってるわけだし、みんなも自信持っていいからね!」

【元気出た】

【ファンサがすごい】

【今、めっちゃ涙出てきた】


 コメントの反応が目に見えて良くなっている。VTuberとして私の頑張りが形になって返ってきていることが、とても嬉しかった。私はこの人達に、かつて私が推しにしてもらったようなことを出来ているだろうか。

 少しでも元気になってくれたらいいな。少しでも笑顔になってくれていたらいいな。少しでも……明日を生きようと思ってくれているだろうか。


「私の配信に来て元気になってくれたら嬉しい! でも無理はしないでね。みんなも忙しでしょ? 私も勉強しないといけないし、皆も学校やお仕事があると思うから、ほどほどに頑張ろうね!」

【学校行くの辛くて】

【仕事行きたくない】


「ほら、人生辛い時ってあるじゃん? そういう時に頑張ろうって思えるように応援できたらなぁって思うんだよね。私でよければ話聞くよ? あ! でもなるべくしんどいことは抱え込まないでね。無理して抱え込んでもいいことないから!」

【優しい世界】

【けーちゃんが天使すぎてつらい】

「あははは! 大袈裟だなぁ」


 ほんと大袈裟だ。私は大したことを言ってない。ただ、ちょっとだけ言葉のチョイスに気をつけただけだ。相手を立てるような喋り方をして、相手の心に寄り添うような言葉を選んだだけ。ちょっとだけ工夫をして、少しだけ頑張っただけ。

 前世で推しが私に……リスナー全員にそうしてくれたように。私も誰かにそうしたいと思ったから。やっぱりそういう意味でも、推しの存在は自分の中でとても強いものだ。


「いつも応援してくれてるみんなには感謝してるんだよ。だから、これからも一緒に頑張っていけたら嬉しいな」

【一生ついてく】

【一緒にって言葉最高か?】

【俺、もうちょっと頑張ってみる】

「あはは! じゃあ私ももっと頑張らないとだね!」


 視聴者のみんなが私の応援をしてくれる。そして私がみんなに元気を与える。それはとっても素敵なことだと、私は思う。だからこそ、この活動をもっともっと頑張っていきたい。もっと色んなことに挑戦したい。


「これからも応援よろしくね! それじゃ今日の配信はここまで。おつかめーん、ばいばーい!」


 こうして今日も配信を無事に終えたのだが、しおりお姉ちゃんの方はどうだろうか。私の声が邪魔になってなければいいのだけど。ちゃんとレポート書けているだろうか。邪魔になるといけないから、様子を見に行くのもちょっと気が引ける。

 ということで、改めて部屋をじっくり見て回ることにする。空き部屋ということもあってか、配信用の机とゲーミングチェア、そして色んな本が置かれた本棚くらいしかない。しおりお姉ちゃんの性格がよく表れていて、無駄なものは一切置かれていないのがよくわかる。本の種類も多種多様で、小説や漫画、雑誌など幅広いジャンルの本が揃えられている。色んな知識を仕入れるにはもってこいの空間だ。


 ……そういえば、私の推しも博識だったっけ。学力を測る企画やゲームをしている時はもちろん、ちょっとした雑談の引き出しがめちゃくちゃ多くて色んな人に刺さっていた。私もそれを見習って何か勉強した方がいいだろうか……


「かなちゃん」


 しおりお姉ちゃんの部屋を物色していると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこにはレポートを書き上げたらしい、目に力が入ってないしおりお姉ちゃんがいた。よほど疲れたのか、先ほどまでの凜々しさが嘘のように消えている。


「あぁぁぁ! 疲れたぁぁぁ……癒しがほしい……」

「あはは、おつかれ。じゃあ一緒にプリン食べる?」

「食べる」


 いつも気を張っているからか、電池切れすると美味しいものを食べている時よりも子供っぽくなる。それだけ頑張っているんだなと思うと、尊敬するようなそれでも可愛すぎて悶絶するような……不思議な感情が湧いてくる。そんなしおりお姉ちゃんと一緒にご褒美のデザートを食べると、私も日々の疲れが抜けていくのだった。


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