「そーっと、そーっとよ。そうそうその辺……」
「ちょ、ちょっとまりどいて。見えないから!」
さっきのプレゼントのお返しになればと思ってクレーンゲームに挑んだ私だが、想像以上に難しかった。アームの力が弱かったり目当て以外の景品にアームが当たって上手く取れなかったり。あとは横の女の子がうるさかったり。
「あー、まただめかぁ……難しいなぁ」
「落ち込んでる暇はないわ、かな! さぁ、あのクマちゃんを捕まえるのよ!」
「どんなテンションなの……」
まりが指差すそのクマは、ピンク色のリボンを首に巻いている。そのリボンがまた可愛い。多分まりもそこに惹かれて立ち止まったのだろう。
私は気合を入れ直して再び100円を投入する。しかし、アームは無情にも景品を持ち上げるどころか、かすりもしなかった。
「くっ……私には、才能がないのかっ!」
「かな……落ち込むことはないわ! 諦めたらそこで試合終了なのよ!」
私の肩を摑むまりは、何故か熱くなる。しかし、その言葉は私のやる気を奮い立たせるには充分だった。
まりの言葉に乗せられるがままクレーンゲームを続けること10回ほど。私はまりの隣で再び100円を投入する。アームは難なくクマを持ち上げた。
そして、ぬいぐるみはそのまま出口へ向かって転がっていった。私は無事手に入れたぬいぐるみを抱えながらまりの方を見ると、彼女は笑顔で親指を立てていた。
「まり! やった、やったよ! ついにゲット!」
「かな、おめでとう! 貴方ならやってくれると思ってたわ!」
「いやいや、まりがいなかったら無理だったよ。ありがとね」
クマのぬいぐるみを抱きしめながら感謝を伝えると、彼女は嬉しそうに頬を染めた。それを誤魔化すかのようにまりはそっぽを向く。その反応が可愛くてついからかいたくなるけど、今は我慢しよう。
私は手に入れたクマをまりに手渡す。まりは突然のことに困惑しながらも、嬉しそうにそれを受け取ってくれた。
「さっきのプレゼントのお礼。これじゃお礼にならないかもだけど、よかったら貰って」
「……いいの? じゃあ、遠慮なく頂くわね」
まりはぬいぐるみを抱きしめながら微笑む。その笑顔だけで私は幸せな気分になれた。そのまま二人で出口へ向かい、ゲームセンターを後にする。まりはぬいぐるみを大事そうに抱えてくれていて、思わず笑みが溢れる。こんなに喜んでもらえて良かった。今度また一緒に来ようかな。
「かな、ありがとう。大切にするわ」
「どういたしまして。今度は二人でプリクラでも撮ろうね」
「……そうね。それもいいわね」
まりとの楽しい時間はあっという間に過ぎていくもので、もう日も暮れ始めていた。そろそろ帰ろうかと思いまりを見ると、彼女は何か言いたげな顔をしている。どうしたんだろうと思っていると、まりは恐る恐るといった様子で口を開いた。
「かな、今日は本当に楽しかったわ。また一緒に遊んでくれる?」
不安そうな表情のまりに私は笑顔で答える。
「もちろんだよ! 今度はいつにしようか?」
「ふふっ、いつでも構わないわ」
まりは嬉しそうな表情を浮かべると、そのまま帰路に着いた。私もそんなまりを見送ったあと、しおりお姉ちゃんのところへ急ぐことにした。
「今日は本当にいい一日だったな……」
独り言を呟きながら空を見上げると、綺麗な夕焼け空が広がっていた。その美しさに見惚れて立ち止まっていると、背後から声がかかる。
「かなちゃん?」
聞き慣れた声に振り返ると、そこにはしおりお姉ちゃんの姿があった。どうやら私を迎えに来たみたいだ。私は嬉しさを隠しきれずに駆け寄り、そのまま抱きつく。
「おっと、どうしたの?」
「へへ、なんでもない」
「まったく、かなちゃんは甘えん坊さんだね」
しおりお姉ちゃんは私を抱き抱えるようにして頭を撫でる。私はその心地よさに身を委ねた。すると、頭上から優しい声が降ってくる。
「ねぇ、かなちゃん」
「ん? なに?」
「今日は楽しかった?」
「うん! すごく楽しかったよ!」
しおりお姉ちゃんに尋ねられて、私は満面の笑みで答える。本当にすごく楽しかった。まりとの絆も再確認できたし、クレーンゲームが案外コツを掴むのが難しいことを知った。……クレーンゲームはなんか違うか。
今日はさすがに疲れているので、夕飯は帰り際にテイクアウトしたお弁当で済ませた。今日くらいはしおりお姉ちゃんも許してくれるだろう。しおりお姉ちゃんの好物を詰め込んできたし。
「そうだ。夕飯お弁当だし飲み物簡単に作るね」
「ありがとう。助かるよ!」
私はキッチンで温かいお茶を作って、しおりお姉ちゃんのところへ持っていく。しおりお姉ちゃんはもう既にパソコンで作業をしていたので、私は邪魔しないようにさっと渡して少し離れたところに座る。
「かなちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。レポート頑張ってね」
大学は暇な時は本当に暇だが、忙しい時は一気に集中するらしい。しおりお姉ちゃんは課題を貯めがちなので、提出日ギリギリに一気に片付けようとするのだ。でも、そのせいで作業の効率も落ちるので、私はできる限りサポートするようにしていた。
といっても代わりにレポート書いたりとかは出来ないから、家事をやらせてもらっている。無報酬なわけではないし、私も手伝いたくて手伝っているから特に苦ではない。
「かなちゃんには本当に助けられてるよ」
パソコンを閉じながら、しおりお姉ちゃんは私を褒めてくれる。どうやら一区切りついたらしい。私はすかさず空になっているコップにお茶を入れて手渡す。しおりお姉ちゃんはそれを受け取ると、ゆっくりと口に運んだ。
「はぁぁ……疲れた身体に染みるねぇ……」
「あはは、しおりお姉ちゃんなんだかおばあちゃんみたいだよ」
「いいじゃないかー。それだけお茶は偉大ってことで」
冗談交じりにそう言うと、しおりお姉ちゃんはケラケラと笑う。その表情を見ると、なんだか私も嬉しくなった。そのまま二人で談笑しながら過ごしていると、ブブッとスマホの通知が鳴った。
「ん? あ、まりの配信通知だ」