「着いたぞ」
しばらく歩くと、小さな公園に着いた。遊具もブランコと鉄棒くらいしかない、本当に小さな公園だ。ひすいさんがベンチに座ったので私もその隣に座る。
ひすいさんは少し俯いて黙り込んでいた。何か考え込んでいるようだ。もしかしたら、私と同じようにこの時間を終わらせたくないと思っているのかもしれない……なんてことを思ったりした。
「今日は楽しかったな」
「はい。……本当に今日はありがとうございます」
「礼には及ばないさ。我が君といたかっただけだからな」
ひすいさんはそう言いながら笑う。私はそんなひすいさんの笑顔を見て、思わず見惚れてしまう。
ひすいさんの笑顔はとても綺麗で、それでいてどこか儚げだった。その姿があまりにも美しいものだから、私はしばらくの間ずっと彼女を見つめていた。
「どうかしたか?」
「あっ……いえ、私もひすいさんといたかったので嬉しいなぁと思って」
「……そうか。寂しくなったらいつでも呼んでくれ。君の孤独を埋める道具として使ってくれるといい」
「それはちょっと気が引けますね」
私は苦笑いしながら答える。この人は本当に優しい人なんだなと思う。周りをよく見ているし、気配りもできるし、頼りになる。だからこそ、私は彼女に心を許してしまったのだろう。
「でも、そこまで言ってもらえて嬉しいです。そこまでしてもらう価値が私にあるとも思えませんが……」
「君は十分に価値のある人間だ。……ふむ、君はなにか勘違いしているらしい」
「勘違い、ですか?」
「ああ。我のことを優しいと持ち上げてくれるのは嬉しいが、優しくする価値のない人間には我も優しくせんぞ」
ひすいさんはそう言うと私の目を真っ直ぐに見つめる。その目は真剣そのもので、思わずドキッとしてしまう。
私はそんな自分の心臓の鼓動を悟られないようにしながら、彼女の言葉を待つ。すると、彼女はゆっくりと口を開いた。
「だから誇れ。胸を張れ。君は我の大切な友人だ」
「……ありがとうございます、ひすいさん」
私は彼女の目を真っ直ぐ見返しながらそう答える。すると、彼女は満足そうに微笑んだ。その笑顔を見て、私も自然と笑みが溢れてしまう。
しばらくの間沈黙が流れるが、不思議と気まずくはなかった。むしろ心地よいくらいだ。ひすいさんもそう感じているのか、私たちの間には穏やかな時間が流れている。
「そろそろ帰りましょうか」
「そうだな」
私はベンチから立ち上がる。すると、彼女は私に向かって手を差し伸べてきた。私はその手を握り返すと、そのまま手を引かれて立ち上がる。そしてそのまま私たちは歩き出した。
「また、こうして一緒に出かけましょう」
「ああ、もちろんだ。いつでも我を呼んでくれ。すぐに駆けつけよう」
「ありがとうございます、ひすいさん」
そんな会話を交わしながら私たちは公園を後にしたのだった。
私はひすいさんと別れて帰路につくと、そのまま自分の部屋に入った。そしてベッドの上に寝転ぶと、大きくため息をつく。
今日は本当に楽しかった。ひすいさんとのデートはとても楽しかったし、何よりもとても充実した一日だったと思う。泣き顔を見せてしまったのは少し恥ずかしかったけど。
それでも、ひすいさんと一緒にいられて本当に良かったと思う。彼女と一緒にいると落ち着くし、何より楽しい。これからも彼女と仲良くしていきたいと思う。
「私を孤独にさせない、か……」
ひすいさんはそう言ってくれた。私にとってその一言は、もう一度生まれ変わっても忘れられないくらいとても嬉しいものだった。
彼女は本当に優しい人だ。そして、そんな彼女が私の側にいてくれることをとても心強く感じる。
「ひすいさん、ありがとうございます。私を孤独にしないでくれて」
私は誰もいない部屋の中で一人呟く。その声は誰にも届くことはないけれど、それでも構わない。ただ自分の心に刻み込むために言葉にするのだから。
窓から見える星空がいつもより綺麗に見えたのは、きっと気のせいじゃないと思う。
「私は、寂しかったのか」
今日ひすいさんに言われた言葉を、自分で発してみる。自分でも気づかなかった……多分気づかないフリをしていた気持ちを、ひすいさんはいとも容易く見破ってみせた。
そう……私は多分寂しかった。前世で一人になったからこそ、今世でもまた一人になるのではないかと不安だった。
でも、ひすいさんはそんな私を救ってくれたのだ。孤独にしないでくれた、私を必要としてくれた。それが何よりも嬉しいし、安心した。
「……ひすいさん、また遊んでくれるかな」
ひすいさんに買ってもらったおそろいのイヤリングを手で転がしながらそう呟く。私は、ひすいさんと一緒にいたい。もっと彼女のことを知りたいし、私のことも知って欲しい。そして、一緒に楽しい時間を過ごしたい。
この前までしおりお姉ちゃんと仲がいいってだけで嫉妬していたのに、自分事ながら人の心とはわからないものだなと笑う。
でも、私はひすいさんのおかげで変われたと思う。寂しいって気持ちを表に出せるようになったから。こんな私を認めてくれたのがたまらなく嬉しいし、そんな私を救ってくれたひすいさんには感謝しかない。
「ありがとう、ひすいさん」
私はそう呟くと目を閉じた。彼女のことを想いながら眠る時間は、とても心地よくて幸せだった。
そして、夢の中でも彼女に会えることを願いながら、私は深い眠りへと落ちていったのだった。
翌日、私はいつもより早く起きた。そして、学校に行く支度をして家を出る。今日はとても気分がいい。昨日はひすいさんととても楽しい一日を過ごした。そのことが嬉しくて、思わずスキップしてしまいそうなくらいだった。
そんなことを考えているといつの間にか学校に着いていた。教室に入ると、既に数人のクラスメイトがいた。私は自分の席に着くと、鞄の中から教科書などを取り出す。
「おはよー」
私が準備をしていると、不意に声をかけられたので振り向くとそこにはまりががいた。彼女は私に向かって手を挙げて微笑んでいる。
「おはよう、まり」
私も笑顔で挨拶を返すと、彼女は今度は試すように笑った。
「なんだか機嫌いいわね」
「そ、そうかな?」
「ええ、いつもとは違うもの」
まりにそう言われると、私は思わず恥ずかしくなる。そんなに顔に出てたのかな……と不安になったけど、別に悪いことをしてるわけじゃないのだから気にしなくてもいいかと思い直した。
「ねぇ、なんかあったの?」
「……ううん、別になにもないよ」
私はなるべく平静を装って答える。でも、まりは納得いかないようでじーっと私の顔を見つめていた。
しばらく沈黙が続く中、私はただ目を逸らすことしかできなかった。