「ほらほら、かな! 急がないと売り切れちゃうわ!」
「待ってよー……ぜぇぜぇ……うっ、無理ぃ」
「グロッキーになってる場合じゃないわよ。新作のフラッペ人気すぎてすぐになくなるらしいんだから!」
そんなこと言われても、配信ばかりして引きこもってばかりの体力ザコの私にはきついものがある。そんな私の気も知らずに、まりは遠慮なく私の手を引っ張っていく。
「ほら、早く! 売り切れちゃうわ!」
「わかったから引っ張らないでぇ」
まりにグイグイ引っ張られながら、私達はやっと行列ができていたお店に到着した。
「うわぁ……」
そこには長蛇の列ができており、ここに並ぶのかと思うと頭が痛くなってきた。思わず私は引き返したい衝動にかられる。が、しかし、まりが私の腕を引っ張って前に進んでいくのでそれに従うしかなかった。
「すみませーん! 新作のフラッペ二つ下さい!」
「はーい! あっ、まりちゃんじゃない。今日も来てくれたんだ」
店員さんがまりのことを覚えていたようで、嬉しそうに声をかけた。まりの方も満面の笑みで返している。
「はい! 新作が気になっちゃって!」
「……まりはよくここに来るの?」
私は小声でまりに尋ねる。
「まあね。ここのお店、私の行きつけだから」
「そうなんだ」
「はい。おまたせしましたー! 新作フラッペ二つです!」
店員さんが私達にフラッペを渡してくれた。私はそれを受け取ると、近くのベンチに腰掛けた。そして、さっそくフラッペを飲む。
ふんわりとした食感のバニラアイスと生クリームが混ざり合い、今まで食べたことがない味わいだ。冷たくて甘いこのスイーツは、走りと行列にやられた私の身体を癒してくれるようだった。
私は夢中になってフラッペを飲み進めていく。そんな私をまりは嬉しそうに眺めていた。
「美味しい?」
まりが聞いてきたので、私は素直に頷く。
「うん。今まで食べたことがない味だけど、美味しい」
「それならよかったわ」
まりは満足そうな顔でフラッペを飲んでいる。私はふと気になって聞いてみた。
「まりはこういうお店、よく来るの?」
「うーん。たまにね」
まりはちょっと考えた後、そう答える。その答えに私は少し驚いた。あのお嬢様のようなまりが頻繁にこのような店に来るイメージがなかったからだ。そんな私の様子に気づいたのか、まりが補足するように続ける。
「最近は色々美味しいお店を回って知識と話題をためようと思ってるのよ」
「なるほど……」
おそらく配信のネタになれるようなものを探しているのだろうと私が納得していると、まりが話を変える。
「ねえ、かな。せっかくだから一緒に写真を撮らない?」
「え? うん」
断る理由もなかったので私は頷くと、まりは嬉しそうにポケットからスマートフォンを取り出した。そして、私とのツーショットを何枚か撮影する。
「はい! これでオッケー!」
「……なんで私の写真なんか撮るの?」
私が不思議そうに尋ねると、まりは当然のように答えた。
「かなとの写真が欲しいからよ。……わ、悪い?」
まりは恥ずかしそうに顔を赤らめながら言う。
「別に悪くはないけど……なんで私なんかの写真が欲しいのかなって……」
私がそう言うと、まりは少し怒ったように言い返してきた。
「もう! そんな言い方しないでよ。かなは私の大切な友達なんだから!」
「……ごめん」
私が素直に謝ると、まりは満足そうに笑った。まりのこういうストレートな発言は心臓に悪い。思わずドキッとしてしまうから。私は照れ隠しのためにフラッペを喉に流し込む。冷たい氷の感触が口の中に広がった。
その後、私達はフラッペを飲みながら他愛のない話で盛り上がった。配信のことや好きなゲーム、最近ハマってるドラマなど、とりとめのないことを二人で話し続ける。
「ねえ、かな。今日は楽しかったかしら?」
ふいにまりがそんなことを聞いてきた。なにか不安に思うことがあったのだろうか。私は少し考えてから答える。
「うん。楽しかったよ」
それは紛れもない私の本音だ。まりと一緒にいて退屈することはない。たまに強引なところがあるのは勘弁して欲しいけど、まりと一緒にいると自然と笑顔になっている自分がいる。
「よかった……」
私の返事を聞いて、まりは安堵のため息を漏らした。そして、嬉しそうに微笑むとこんなことを言い出した。
「ねぇ、かな」
「なに?」
私が聞き返すと、まりは少し緊張した様子で告げた。
「また一緒にお出かけしましょうね」
そんなまりのお願いを断る理由などなかった私は、笑顔で頷くのだった。
そして、その日の夜。私は自室で今日の出来事を思い出していた。まりと一緒にフラッペを食べに行ったこと。一緒に写真を撮ったこと。まりとの楽しい思い出が頭の中を駆け巡っていく。
ふとスマートフォンを見ると、まりからLINEが入っていたことに気づいたので開いてみた。そこには可愛らしい猫のイラストのスタンプと共にこんなメッセージが書かれていた。
【かな、今日はありがとう! 楽しかったわ! また遊びましょうね!!】
そのメッセージを見て思わず笑みがこぼれてしまう。まりは私と違って、こういう可愛いスタンプや絵文字を使うことが多い。
リアルでももう少し可愛い物言いをしたらいいのにな……なんて思いながらも、私はスマートフォンの画面を暗くして机に伏せた。そして、ベッドに横になる。
「楽しかったなぁ……」
目を閉じて今日の出来事を振り返る。まりと一緒に過ごした時間がとても心地良かったことを思い出すと、自然とそんな言葉が出てしまった。
「……また行きたいな」
私はボソッと呟いてみる。まりとのお出かけを想像しただけでワクワクする自分がいることに気づいた。それはきっと、孤独だと思い込んでいた反動だろう。私はもっとまりと一緒にいたいと思っているのかもしれない。
私は寝返りを打ってまりにメッセージを返す。これからもっと仲良くなって、いつかお互いが親友だと思えるような存在になりたいなと思いながら。