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第97話 バカな自分

「かなちゃーん、いるー?」

「うわぁ!? しおりお姉ちゃん、驚かさないでよ……」


 家でゴロゴロしていると、しおりお姉ちゃんが突然声をかけてくる。勝手に家に上がってくるのはいつもだけど、それはそれとしてびっくりするからやめてほしい。


「ごめんごめん、そんなに驚くとは思ってなくて」

「……それで? どうしたの?」

「あ、そうそう。かなちゃんって、今週末の土日って暇?」

「え? うん、特に予定はないけど……」


 どうしてそんなことを聞いてくるのか、よく分からずに首を傾げる。するとしおりお姉ちゃんは、目を輝かせながらスマホを私に見せてきた。そこに映っていたのは、近くにある大きな公園で行われるイベントの案内だった。


「これ、お祭りあるの知ってる?」

「あー、うん……毎年やってるやつだよね?」

「そうなの。でね、今回はいつもと違う催しもあるみたいでそれに一緒に行きたいなって思って」


 なるほど。その誘いをするためにここに来たわけか。確かにこの時期はお祭りもあるし、しおりお姉ちゃんが行きたくなる気持ちも分からなくはない。


「別にいいけど、私でいいの?」

「もちろん! むしろかなちゃんと一緒がいい」

「……そ、そっか。じゃあ一緒に行こっか」


 しおりお姉ちゃんがそこまで言うなら断る理由もないし、ここは素直に誘いを受けることにする。それに私もお祭りには行きたいと思っていたからちょうどよかった。そんなわけで、しおりお姉ちゃんと一緒にお祭りへ行くことになったのだった。


 お祭り当日。私は集合場所である公園の入り口で待っていた。時間的にはまだ少し余裕があるけれど、待っている時間も楽しいものだ。そんなことを思っていると、後ろから声がかかる。

 振り返るとそこには浴衣姿のしおりお姉ちゃんがいた。その姿を見て思わず見惚れてしまう。普段はあまり見ないその姿にドキドキしてしまうのと同時に、すごく似合っていると思ったから。


「なんだか落ち着かないねー……普段着の方が動きやすいし今からでも着替えてこようかな」

「いやいや! 似合ってるから! 可愛いと思うよ!」

「そ、そっか……ありがとう。じゃあ行こっか」


 なんとかなだめたあと、私たちは会場に向けて歩き始める。お祭りの会場は公園の中にあって、様々な屋台が並んでいる。焼きそばやりんご飴など定番のものから射的やくじ引きといったゲーム系まで幅広いラインナップだ。そんな中を2人で並んで歩く。しおりお姉ちゃんが行きたいというのでまずは食べ物系の屋台を見て回ることにした。


「あ! かなちゃんあれ見て! 珍しいの売ってる!」

「ん? どれどれ……抹茶味のわたあめ……?」

「美味しそうじゃない? 買ってくるね!」


 言うが早いかしおりお姉ちゃんはわたあめを買ってくる。そしてそれをひと口食べると、とても幸せそうな顔をした。そんな姿を見ていると私も食べたくなってしまい、同じものを買いに行く。そしてそれを口に含むと、抹茶の風味が口の中に広がった。思っていたよりも甘くなく、程よい苦味があって美味しいと思った。


「これ美味しいね」

「でしょ? あ、次はあっち行ってみようよ!」


 珍しくテンションが高いしおりお姉ちゃんに連れられ、色々な屋台を見て回る。そして一通り見終わったところで、しおりお姉ちゃんが何かを見つけたのかそちらに駆け出す。


「かなちゃん、あれやらない?」

「射的? いいけど……」

「やった! じゃあ勝負ね!」


 そう言うとしおりお姉ちゃんはお金を払い、銃を構える。そして狙いを定めて撃つと……見事に外れてしまった。その後も何度か挑戦するものの、結局一度も当てることはできなかった。


「うー、難しいなぁ」


 そんなしおりお姉ちゃんを見て私は少し笑ってしまう。普段ゲームばかりしているのにこういう遊びになると上手くいかないところが可愛いなと思ったからだ。


「あ、今笑ったでしょ!」

「ご、ごめん。つい可愛くて」

「もう! 絶対当ててやるんだから!」


 そう言うと再び挑戦し始める。そして今度は一発目で景品にヒットさせることができた。しおりお姉ちゃんが狙ったのは、小さな猫の置物だった。


「やった!」

「おめでとうしおりお姉ちゃん!」


 景品を受け取って喜んでいる姿を見ると、こちらも嬉しくなってくる。私たちは勝負を忘れ、その後もいくつかの屋台を回っていく。

 そしてその中でしおりお姉ちゃんが特に気に入ったものがあった。それは金魚すくい。色とりどりの金魚たちが泳いでいる姿はとても綺麗で、見ているだけで癒される感じがした。


「すみませーん、一回お願いします」

「あいよ、一回300円だ」


 お金を払い、ポイを受け取るとしおりお姉ちゃんは真剣な眼差しで金魚を見つめる。そして一匹の金魚に狙いを定めると勢いよく水の中へとポイを沈めていく。しかしすぐに破れてしまい失敗してしまった。それでも諦めずにしおりお姉ちゃんは再び挑戦する。そして今度は二匹同時にすくうことができた。喜び勇んでその二匹を袋に入れてもらい、嬉しそうにしている。


「やったー! 取れた!」

「すごいね……」

「えへへ……かなちゃん、これあげる!」


 そう言うとしおりお姉ちゃんは私に二匹の金魚が入った袋を渡してくる。


「……もしかしてそれが目的だった?」


 しおりお姉ちゃんは自分のことに無頓着だから、他の人や動物なんてなおさら興味なんて持てないだろう。だからこそ私に世話を押し付けているような気がする。


「そ、そんなことないよ? かなちゃんにあげたいなって思ったから取ったの」

「……まあそういうことにしておくね」


 そんなやり取りをしていると、突然しおりお姉ちゃんのお腹が鳴る。その音を聞いた瞬間、私は思わず笑ってしまった。


「あ! もう……そんなに笑わないでよ……」

「だって……ふふっ……さっきもいっぱい屋台回ったのに」

「うー……仕方ないじゃん、お祭りはいっぱい動くんだから」


 そう言いながら頬を膨らますしおりお姉ちゃんは、本当に可愛いと思う。普段はクールぶっているくせに、こういうところは子供っぽいというかなんというか……そんなギャップも彼女の魅力だと思う。

 そうだ。小さい頃からずっと一緒に過ごしてきて、今更孤独を感じていたなんて私は本当にバカだ。しおりお姉ちゃんもまりも、いつだって私のことを想ってくれていた。それなのに私は勝手に距離を感じて、彼女たちを突き放そうとしていたのだ。孤独だった時間よりも、一緒に過ごした時間の方が長いはずなのに。


「かなちゃん? どうしたの?」

「……ううん、なんでもないよ」


 しおりお姉ちゃんにバカな自分を悟られないように、手を引いてまだ行ってない屋台を巡ることにしたのだった。


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