目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第99話 とある音楽フェス

「え、今……なんて?」

「フェスの主催者がかなり君を気に入っているようでな。君のソロライブを観てみたいそうだ」

「そ、そんな……」


 もちろん、そこまで私のことを認めてくれているのは嬉しい。きっとファンのみんなも悦んでくれるだろう。だけど、そんなプレッシャーの中私のメンタルは耐えられるのだろうか? もし、私が失敗すれば……


「……君の気持ちもわかる。だが、これはまたとないチャンスだ」

「はい。だけど、私は……」

「受けてみればいいじゃない!」

「……え?」


 ひすいさんと私の話に割って入って来たのはまりだった。


「ひすいさんも言ったでしょ。これはチャンスだって。それに、このライブが成功すればあなたの凄さがたくさんの人に知れ渡るわ」

「まり……」

「だから、やってみなさいよ! あなたはあたしの……尊敬する推しなんだから!」


 まりの笑顔は眩しかった。その笑顔と言葉だけで、私の不安は吹き飛ばされる。

 まりは私の活動を見て私と同じVTuberになった。まりの憧れの人、それは私だった。そうだと気づいた時は本当に驚いたけど、同時にとても嬉しかった。

 そして、まりは私が活動していく中で大きな支えになってくれたのだ。


「……わかった」


 私は決意を固める。


「私、このライブ受ける!」

「よく言った」


 ひすいさんは私の頭を優しく撫でてくれる。私はつくづく優しい人達に恵まれたなと思う。私を推してくれる人と私の才能を認めてくれた人……それに、私の活動の根本を支えてくれる人。

 そんな人達が私のそばにいてくれてる。だから、私はもっと強くなれる。


「かなちゃんはどんどん主人公っぽくなるね……眩しいくらいに」

「しおりお姉ちゃん……」

「かなちゃん、応援してる」


 しおりお姉ちゃんも私の背中を押す。しおりお姉ちゃんがいなければ、そもそもVTuberになんてなれなかった。いつもLive2Dモデラーとして支えてくれた人……そして、幼なじみとして私の心の支えになってくれた人。……この人が幼なじみで本当に良かった。


 私が私としていられるのはみんなの支えがあるから。その恩返しをするためにも、音楽フェスに出ていいライブをしよう。大切な人達に最高のライブを届ける!

 こうして、私の新たな挑戦が始まろうとしていた。


「音楽フェスに出るのは我とかなだけじゃないぞ」

「え?」

「も、もしかして!?」


 私はきょとんとするばかりだったが、まりは何かを察したのかキラキラとした期待の眼差しでひすいさんの次の言葉を待っている。


「まり――君もMCとして出てみないか?」

「……! い、いいんですか!?」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりにまりは食いつく。


「ああ。君の配信を見させてもらったが、なかなか場を盛り上げるのが上手い。そこを主催者側に見せたら是非ともMCにと話が」

「あたしに任せてください! かなも出るし、盛り上げてみせます!」


 まりは自信満々に答える。ひすいさんもまりのその自信を後押しするように頷く。


「よろしく頼む」


 まさかまりにも出演依頼がきているとは。まりの盛り上げ役の適任さは私がよく知っている。コラボの時は特にまりが場を掻き回すことでリスナーは大いに盛り上がってくれているし。これ以上の適任はいないだろう。

 しかし、それだけに留まらず、ひすいさんはしおりお姉ちゃんの方に歩み寄っていく。


「しおり……君は人物以外の3Dモデルも作れるか?」

「あー、まあ趣味で何個か作ったことはあるけど」

「それなら会場の制作をお願いできないか? もちろんメインは向こうの制作チームが作ってくれるらしいが人手が足りないらしくてな。細かい部分のサポートをして欲しいらしい」


 しおりお姉ちゃんは少しだけ考える素振りを見せる。しかし、それもすぐに終わり、笑顔でひすいさんの申し出を受けた。

 私はさっきまで不安だったのが嘘のように、今は期待と希望に満ち溢れていた。音楽フェスに出るのは私とひすいさんだけじゃない……しおりお姉ちゃんもまりもいる。


 そして、その音楽フェスにはきっとたくさんの人が来てくれるだろう。私はこのライブでみんなに伝えたいことがある。それは、私を支えてくれる人への感謝の気持ちだ。

 私は今までいろんな人に支えられてきたから今こうして活動できている。だから、その感謝をこのライブを通して伝えたい。


「ひすいさん」

「なんだ?」

「このライブ、成功させましょうね」

「……ああ!」


 こうして、私達は揃って音楽フェスに出ることになった。しおりお姉ちゃんの技術者にも話が来るということはきっとまだまだ先のイベントなのだろう。

 でも、そこで私の存在を知らしめたい。……いや、絶対に知らしめてみせる。ここまで応援してくれたファンにも恩返しの気持ちを込めて。


「……これで、寂しくないだろう?」

「えっ」


 ひすいさんが私に耳打ちする。もしかしてこの音楽フェスは私のために? ……いや、さすがに考えすぎか。ひすいさんの言い方的に別の方が主催のようだし、ひすいさんは素晴らしい活動者だけどそこまでの権限があるとも考えにくい。

 きっとただの偶然で、みんな実力だけで選ばれているだろう。これは、今までの活動の集大成。私が切り開いてきたVTuberとしての道。そして、私がまた新たな一歩を踏み出すための道。これから、もっと大きなステージへ……VTuberとして駆け上がっていくんだ!


「ありがとうございます。ひすいさんのおかげで自信がつきました」

「いや、我は大したことはしていない。君自身の力だ」

「でも、きっかけはひすいさんですから。……私、このライブ絶対に成功させます!」


 私は決意を固めて誓う。今の気持ちをそのまま歌にのせて届けよう。そして、このライブでみんなに伝えよう。私の想いを……


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?