「さぁー! 今年もいよいよやってまいりました! ミュージック・スター・フェス! MCはわたくし、潮目まりんが努めさせていただきます!」
【うぉぉぉぉ! ほんとにまりんちゃんがMCしてる!】
【VTuberが音楽フェスの司会やるなんてすごいなぁ】
【けーちゃんはいつ出番あるのかな】
人気番組である『ミュージック・スター・フェス』。今回は時代に合わせてインターネットでの配信も同時に行われている。そして、まりんの挨拶にコメント欄がざわつく中、ステージには様々な参加者達が並んでいた。
「そして! 本日の出演アーティストの皆様をご紹介させていただきます!」
まりんが手を向けると、カメラが出演者の方へと切り替わった。どんどんベテランの方々や期待の新人勢が紹介されていく。私はひすいさんと一緒にいるのに、緊張で震えが止まらない。ひすいさんはもうプレッシャーにもカメラにも慣れたもので、全くと言っていいほど緊張している素振りはない。さすがだ。
一通りの出演者紹介がされると、まりんがステージの中央に立ち、拳を握り込む。そして……叫んだ。
「ミュージック・スター・フェス、スタートです!」
その声とともに、会場が沸いた。大きな拍手と歓声が上がる。まずはオープニングアクトとして、期待の新人がパフォーマンスを披露していく。私も何度かテレビで見たことがある、新人の中でも特に注目度の高いグループだ。そのグループのパフォーマンスは勢いがあって、見ていて引き込まれるようなパワーを感じるものだった。
会場も大盛り上がりで、視聴者からの反応も良いようだ。コメント欄も盛り上がっているし、SNSでも話題になっているらしい。
「うぅ……胃がキリキリしてきた……」
「大丈夫だ、『イニシャルK』。我とハグでもして落ち着くか?」
「……いえ、それは結構です……」
「そうか、それは残念だ。我はいつでもウェルカムなのだが」
「いや、カメラに抜かれたらどうするんですか……」
ひすいさんなら別にハグくらい躊躇なくしそうだなぁ……と思いつつも、私は丁重にお断りする。そうこうしているうちに、次は人気女性アーティストの出番だった。
彼女は最近人気のある実力派のアーティストだ。彼女の歌声はとても綺麗で聴き入ってしまう。しかも、声量があるのに透き通っていてパワフルな印象を受けるのだ。その歌声は聴く者を虜にすると言われているが、まさにその通りだった。
彼女の歌声が終わると、会場は静寂に包まれた。誰もが息を止めて聴き入っていたからだ。しかし、すぐに割れんばかりの拍手と歓声が響いた。私も思わず拍手をしてしまったほどだ。それほどまでに彼女の歌声には魅力があった。
「すごかったですね……」
「ああ、さすがの人気アーティストだな」
ひすいさんも感心した様子でステージを見つめていた。そして、次の出演者へと画面が切り替わった。次は男性アーティストの出番だ。彼は今話題のシンガーソングライターで、若い女性を中心に人気が高いらしい。確かに、彼の歌声はとても綺麗だったし、どこか儚げな雰囲気もあって魅力的だと思った。
「『イニシャルK』、次は我らの出番だぞ」
「は、はい! 頑張りましょう!」
ひすいさんに声をかけられて、私は慌てて返事をする。そして、ついに私たちの番が回ってきたのだった。
ステージの袖から出ていくと、会場から大きな拍手が起こった。その歓声の大きさに少し驚いてしまうが、すぐに気持ちを落ち着かせて前を向く。すると……目の前にまりんがいた。
「頑張るのよ」
まりんは口パクで私にそう伝えると、ウィンクをしてくれた。私はそれに応えるように笑顔で小さく頷く。
「それでは登場していただきましょう! VTuberの『イニシャルK』と『星宮ひすい』です! どうぞ!」
まりんがそう言うと、私はステージに一歩踏み出した。その瞬間、会場から歓声が上がった。その迫力に思わず足がすくんでしまいそうになるが、なんとか堪える。
そして、そのままひすいさんと手を取り合い、ステージの中央まで歩いていく。
「お二人とも自己紹介をお願いします!」
まりんがそう言うと、ひすいさんがカメラに向かって軽く手を振った。私も慌てて頭を下げる。すると、再び大きな歓声が上がる。
「えっと……『イニシャルK』です! こういう大きなフェスに出るのは初めてなので緊張していますが、精一杯頑張りたいと思います!」
「我は『星宮ひすい』。『イニシャルK』と共に精一杯盛り上げていこうと思う」
私とひすいさんが挨拶を終えると、再び大きな拍手が起こった。なんだかとても温かい雰囲気で、自然と笑顔になってしまう。
「さぁ、それでは早速歌っていただきましょう!」
まりんの合図とともに音楽が流れ始めた。それに合わせて私たちは歌い始める。そして、私たちの歌声が会場に響き渡った瞬間、ものすごい盛り上がりを見せた。その迫力に圧倒されそうになるが、必死に歌うことに集中する。
一人だったら、きっとこのプレッシャーに負けて、歌えなくなっていただろう。でも、今はひすいさんがいてくれる。それだけで心強いし、とても頼もしい存在だと感じることができる。
「ありがとうございました!」
歌い終わると、まりんがそう叫んだ。それと同時に再び拍手喝采が起こる。私はほっと胸を撫で下ろした。
「いやぁ……すごい盛り上がりでしたね! さすがの人気っぷりです!」
「ありがとうございます」
まりんの言葉にひすいさんは笑顔で答える。私も緊張で固まっていた表情を緩めて微笑んだ。
私たちはステージから降りると、まりんに挨拶をして楽屋に戻る。そして、ソファに座って一息つくことにした。
すると、ひすいさんが突然私に抱きついてきた。びっくりして固まっていると、彼女は私の耳元で囁いた。
「――頑張ったな。すごく良かったぞ?」
その瞬間、私の心臓は大きく跳ね上がった。顔が真っ赤に染まっていくのを感じる。ひすいさんはそんな私を見てククッと喉を鳴らして笑っていた。私は恥ずかしさのあまり俯いてしまう。
「どうした? 顔が赤いぞ?」
「……っ……ひ、ひすいさん! もう離れてください!」
私は慌ててひすいさんから離れようとするが、逆に強く抱きしめられてしまった。彼女の豊満な胸が私の身体に押し付けられて潰れる。その柔らかい感触にドキドキしてしまうと同時に、恥ずかしさも倍増していった。
「や、やめてください! 誰かに見られたらどうするんですか!?」
「誰も見ていないから大丈夫であろう」
「そういう問題じゃなくてですね……!」
私が必死に抵抗しても、ひすいさんはからかうように声を出して笑うだけだった。