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第108話 新たな門出

「で、いつ配信するの?」

「……かなちゃん、随分乗り気だね……」


 だって、また推しの……そるとんの配信が見られるのだ。この日をどれだけ待ち望んでいたか。しおりお姉ちゃんは知らないだろうが、私は『そるとん』の配信がある日は、どんなに嫌な事があっても耐え抜くことが出来るくらい、そるとんの事が好きだった。

 前世ではそこまで入れ込んでいたのだ。乗り気どころか期待と興奮で胸がいっぱいである。


「い、いやぁ……だってしおりお姉ちゃんの配信楽しみだもん! どんな感じになるのかなぁとか」


 前世のこととかは話せないので、それっぽい理由でとりあえずごまかす。でも、これも本心からの言葉だ。ずっとずっと楽しみにしていた。


「そ、そう? じゃあ期待に応えられるように頑張らないとね」


 そう言って、しおりお姉ちゃんはえへへと嬉しそうに笑う。その笑顔は、大人っぽいイメージのあるしおりお姉ちゃんが見せた、無邪気で可愛らしい笑顔で……心臓がドキンと跳ねる。

 ……もちろんこの笑みは私に向けれたものではないのだが……それでもドキドキと胸が高鳴ってしまうのは仕方のない事だった。


「かなちゃんは私の事ほんとに大好きなんだね」


 そう言って、しおりお姉ちゃんがまたにっこりと笑う。その笑顔にドキッとするが、今はそれどころではない。

 今、しおりお姉ちゃんはなんて言った……? 大好き?


 ……いやいや。そんな感情で推しているわけではない。……いやでも、推しと好きって同じ気はする。いやいや! 私は推しを恋愛的な意味で好きなわけではない。ただ推してるだけで、それは恋とかではないはず。

 私がそんなふうにぐるぐる考えているとしおりお姉ちゃんはクスリと笑いをこぼした。


「そんな慌てなくてもいいのに」

「え、あ……ご、ごめん。その……いきなり言われたからびっくりしちゃって」


 慌ててそう返すと、しおりお姉ちゃんがまたクスクスと笑う。本当に綺麗な人だ。思わず見とれてしまうほどに。


「……かなちゃんは可愛いね」

「っ!?」


 突然言われたその一言に私は慌てる。いったいどうしたのだろうか。急にそんなこと言われても困ってしまう。もちろんしおりお姉ちゃんに可愛いと言われるのは嬉しいのだが。

 しおりお姉ちゃんは、私を見て優しく微笑む。その笑顔はとても美しくて、私はまたドキリとするのだった……


 それから数日後。ついにその日がやって来た。今日はそるとんの配信日である。私はソワソワしながら配信を待っていた。

 配信まであと5分。緊張でそわそわする。本当に楽しみすぎるから早く始まらないかななんて考えていると、突然スマホが振動する。画面を見ると、しおりお姉ちゃんからメッセージが届いていた。なんだろうと思い開くとそこには……


【配信始めるよ】


 という一言のみ。それだけだったが、私はそれだけで十分だった。私はすぐに【了解です!】というスタンプを返した。それからすぐに配信が始まったようで、通知が来る。


「いよいよか……!」


 私はワクワクしながらその配信を見る。そこには、待ちに待ったそるとんの姿があり……私は思わず叫び声を上げそうになるのを抑える。


『皆さんこんソルト〜。苗字がないただのソルトです。そるとんって呼んでもらえると嬉しいな』


 相変わらず可愛い挨拶に、私は感動してしまう。この声がまた聞けるなんて夢みたいだ。この姿がまた見られるなんて生きてて良かった。一度死んでるけど。

 開始数秒ですでに泣きそうである。いや、もう泣いてるかもしれない。推しの配信を見て泣くなんておかしな話だが、それほどに嬉しいのだ。


『さてと、じゃあ無事デビューを迎えたわけだけど、今日はその報告と、これからについて話そうと思う』


 そるとんがそう言うと、コメント欄が一気に流れ始める。


【デビューおめでとう!】

【待ってましたー!!】

【デビュー配信楽しみだった!】


 そんなコメントを見て、そるとんは嬉しそうに笑う。そして、少し間を置いてから口を開いた。


『……ありがとうみんな。デビュー配信なのにたくさんの人が集まってくれて嬉しいよ』


 そるとんはそう言ってぺこりと頭を下げる。その動作一つ一つが可愛いくて、胸がきゅんとする。コメント欄でも次々とその可愛さについて語られているのを見て、思わずクスリと笑う。本当に人気者だ。

 そしてそるとんは頭を上げると、話を続ける。コメント欄ではそれに反応するようにたくさんの文字が流れて行く。それをみて微笑むそるとん。やっぱり推しの笑顔は尊い……


『えっと……で、これからの配信予定なんだけど、2日に1回のペースでやっていこうと思ってるから。そのつもりでいてね』

【おぉぉぉ!】

【高頻度助かる】


 そるとんの言葉に、コメント欄では歓喜の声が上がった。もちろん私もだ。まさかこんなにも早く次が見れるとは……神に感謝しかない。


『ただ、自分はまだ新人だからね。みんなに楽しんでもらえるような配信ができるかどうか不安なんだけど……それでも良かったら応援してくれると嬉しいな』


 そるとんはそう言って笑う。その笑顔もまた素敵で見惚れてしまうほどだ。コメント欄ではたくさんの人が応援のメッセージを送っているようで、画面が流れていくのが見える。そるとんはそれを見て嬉しそうに微笑む。

 そして、しばらくすると落ち着いたのか、ふぅと息を吐いた。その仕草すら可愛いと思ってしまうのは惚れた弱みだろうか……


【けーちゃんとかまりんちゃんとのコラボ予定はありますか?】


 ぽんと唐突に表れたコメントに、私はドキッとする。それは私が一番気になっていたことだった。前世では叶わなかったコラボの夢。それが叶うかもしれない……そう思うと期待せずにはいられなかった。

 そるとんはそのコメントを見ると、少し考え込んだ様子を見せてから口を開いた。


『うーんとね……まだ決まってはいないんだけど、コラボはしていこうと思ってるよ』

【おぉ!】


 その一言に、私は思わずガッツポーズをした。前世では叶わなかった夢が今目の前で叶おうとしているのだと思うと胸が熱くなる。そるとんとコラボするとしたらどんな配信がいいだろう、なんて考えながらそるとんのデビューを見守った。


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