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第115話 しおりお姉ちゃんの暴走

「あ、あつくなってきた……」

「さすがに長風呂しすぎたわね。そろそろ出ましょうか」


 露天風呂の設定温度のせいか、すぐに限界が来てしまった。私とまりはふらふらと立ち上がると、石でできてる湯船のふちに腰をかける。その石がひんやりしていてとても気持ちいい。


「なんだなんだ。二人揃って我より早く出ていくのか?」

「いやぁ、さすがに熱すぎますって」

「あたしなんて肌が真っ赤に……」


 まりは自分の腕を見つめながらそんなことを呟いている。たしかに普段よりも赤くなっていて、それほどまでに限界が来ているのが見て取れる。私もまりほどではないけど、ちょっと赤みを帯びていてひりひりする。


「むぅ……まあ仕方ない。我は一人で楽しむとしよう」

「ほんとすみません」

「気にするな」


 私はまりと一緒に露天風呂を後にすると、中にはしおりお姉ちゃんが顔を洗っていた。あれ、さっき湯船に浸かってなかったっけ?

 なにか気になるものでもあったのか、パシャパシャと水の音だけが響いている。そんなしおりお姉ちゃんを無視するように、まりはさっさと脱衣場に向かっていった。まあ、肌が真っ赤だから無理もないと思うけど。


「し、しおりお姉ちゃん? やけに熱心に顔洗ってるね?」

「その声はかなちゃん?」


 私は一応挨拶をしてから出ようと思って、そーっと声をかける。しかしすぐ目が開けられないのか、顔を上げて聞いてきた。おそらくしおりお姉ちゃんのであろうタオルを渡して、顔を拭いてもらう。


「はふー、ごめんごめん。やっと顔見れたよ」

「なんでそんなに顔洗いガチってたの……」

「いやね、心を落ち着けようと思って」

「……どういうこと?」


 私の質問に、しおりお姉ちゃんは困った顔をして何も言わずに頭を搔いた。なにがあったんだろう。さっきまで顔を見てくれていたのに、なかなか目が合わない。

 しおりお姉ちゃんはしばらくして観念したのか、私の方をじっと見てきた。まりと同じぐらい赤くて火照った顔は、湯上りのせいなのかそれともなにかがあったのか。それは私には分からないけど、妖しげに揺れているその瞳だけは分かってしまった。

 私はそんなしおりお姉ちゃんの目を、じっと見つめる。なぜか目が離せない。


「かなちゃん」

「は、はい!」

「ほんとに綺麗だね。その白い肌……細長い指……ぷにぷにお腹……」

「なんか変なの混ざった!?」

「ねぇかなちゃん。ボク、もう我慢できない……」


 そう言ってしおりお姉ちゃんは、私の肩を強く掴んでくる。その顔はさっきよりもさらに赤くなっている。そしてそのまま顔を近づけてきて……


「かな! 大丈夫!?」

「まり? なんでここに?」

「だってなかなか来ないん……だも、の……」


 どんどんしりすぼみになっていくまり。どうやら、ようやく現状を理解したようだ。


「し、しおりさん!? 何してるんですか!」

「いや、だって……ねぇ?」

「ねぇ? じゃないですよ! かなから離れてください!」


 まりが強引にしおりお姉ちゃんを引き剥がしてくれる。しおりお姉ちゃんは残念そうだったが、私は助かった。あのままだったらどうなっていたんだろう。まあ、家じゃないからそこまでの大事にはならなかっただろうけど、もし人目も気にせず来られたら黒歴史どころじゃ済まなそうだ。


「まったくもう……かな、気を付けるのよ?」

「う、うん……」


 まりの忠告をしっかりと受け止めた私は、大きなバスタオルで身体を隠して脱衣場に向かった。まりには悪いが、少しだけ喜んでいる自分もいる。あの時の自分を求めてきたしおりお姉ちゃんが夢じゃなかったことがわかって嬉しかった。

 しおりお姉ちゃんは満足していないようだったが、まりに手を引かれながら脱衣場に到着した。その力はとても強くて、私を守ろうとしての行動なのがわかる。


「かな、大丈夫? 何もされてない?」

「う、うん。でもそんなに心配しなくても……」

「ダメ。かなは自分が思ってる以上に危なかっしいんだもの」


 そんなに抜けているだろうか。自覚はないけど、まりから見た私は心配しなければいけないレベルらしい。でも、心配してくれるのはありがたいことだ。


「わかった。まりがそう言うなら気を付ける」

「そうした方がいいわ」


 私がそう言うと、まりは柔らかい笑顔でそう答えた。そんな優しい笑顔を向けられて、私はますます本当のことが言えなくなったのだった。


「とりあえず着替えましょう。このままだと風邪引いちゃうわ」

「そ、そうだね」


 私はまりの言葉に頷いて、二人で着替え始めた。なんだか名残惜しいけど、このまま裸で過ごすわけにもいかない。着替え終わったらまたアイスでも頼もうかな。そう思いつつ、自分の下着を取り出す。

 ……視線を感じる。とてつもなく熱心に見られている。まりに下着に興奮するシュミでもあるのだろうか。変態なのは知っているが、まさか下着が好きだとは。


「まり? なんでそこまで見てるの?」

「あ、いや! な、なんでもないわ!」


 私が声をかけた途端、まりはびっくりしたように目を見開いた。しかしすぐにふいっとそっぽを向くと、そそくさと着替え始めた。

 私の周り、変態しかいないのではないだろうか……自分含め。認めたくないが、私も多少なりとも変態なのだろう。じゃなきゃ、多分みんなと上手くやっていけてない。だから、そこまで悪いものでもないのかもしれない。


「……か、かなの下着可愛いわね」

「あ、だから見てたの?」


 どうやら興奮していたわけではないらしい。紛らわしい視線だったなと呆れつつ、下着のセンスを褒められたことは地味に嬉しかった。ブランドものでもないどころかその辺に売ってる安い下着なのだが、柄が気に入っていてよく使っているから特に認められたような気がした。


「これ気に入ってるんだ。まりもしてみる?」

「え! それだとかながノーブラになっちゃうわよ!? あ、でもどうしてもって言うなら」

「私のをあげるって意味じゃないよ!?」


 まりは何を勘違いしたのか、私の下着を着ようとしていた。私は慌ててその考えを否定すると、まりは「なーんだ」と言ってがっかりした顔をした。いや、なんでがっかりしてるの。

 そんなよくわからないやり取りをしているうちに、自然と笑顔になっていった。


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